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不正会計、上場廃止でも追加投資が行われるラッキンコーヒー。2.5億ドルを獲得

一時は、スターバックスを超えるとまで言われたカフェチェーン「ラッキンコーヒー」。モバイルオーダーを最初に活用し、「行列のできないカフェ」として一気に人気が高まった。しかし、株価を釣り上げる目的での不正会計事件が起き、上場廃止となり、多くの人が「終わったカフェチェーン」と見るようになった。しかし、現在でも追加の投資が行われていると華夏時報が報じた。

 

不正会計、上場廃止でも追加投資を獲得

2018年に創業したカフェチェーン「瑞幸珈琲」(ラッキンコーヒー)は、創業わずか1年8ヶ月で米ナスダック市場に上場するという奇跡を起こして、一気に話題になった。中国で最大のカフェチェーンは4000店舗を展開するスターバックスだが、一時はそのスターバックスを超える5000店舗の展開も達成した。

しかし、2020年に株価を釣り上げる目的での不正経理問題が発覚をし、5月には上場廃止となっている。

店舗の営業は続けられているが、「大都市であればどこでも徒歩5分以内に店舗がある」を目指した大量出店戦略は止まり、店舗数は1900店舗まで減っている。ラッキンを利用していない人から見れば、すでに終わったカフェチェーンであり、いつ倒産するのかと思われているほどだった。

ところが、2021年4月、ラッキンが2.5億ドル(約280億円)の投資を獲得していることがわかった。投資家は、終わったカフェチェーンになぜ投資をするのだろうか。

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▲ラッキンコーヒーは不正会計によりナスダック上場廃止となってしまったが、固定ファンはいまだに多い。モバイルオーダーを最初にうまく活用したカフェでもある。

 

コーヒー関連は成長が見込める有望領域

ひとつは、中国ではカフェという業界そのものが非常に有望であることだ。コーヒーの浸透率や消費量を国際比較すると、欧米や日韓と比べると、中国は大きく劣っている。一人あたりのGDPが中国より低いベトナムと比較しても、一人あたりのコーヒー消費量は小さい。つまり、中国のコーヒー産業は成長空間がまだまだ大きいということだ。

このため、コーヒー関連のスタートアップには投資が相次いでいる。スペシャリティーコーヒーを提供するManner Coffee(マナー)は2015年創業で、現在、100店舗を展開し、13億ドル(約1400億円)もの投資資金を獲得している。また、天猫(Tmall)でドリップパックコーヒーなどを販売する「隅田川珈琲」は、天猫の飲料部門でトップの販売量となっている。隅田川珈琲も今年の3月に3億元(約51億円)のBラウンド投資を完了した。

また、中国では雲南産のコーヒーの人気が高まっている。独特の味わいがあり、中国人に好まれているのだという。

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スペシャリティコーヒーを提供するカフェスタンド「マナー」の人気が高まっている。現在100店舗を展開し、13億ドルの投資資金を獲得している。

 

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隅田川コーヒーは、天猫などでドリップパックコーヒーを販売している。家庭で気軽にスペシャリティコーヒー並みの味が楽しめると人気が出ている。

 

デジタルマーケティングにも長けているラッキン

ラッキンコーヒーは、スタンド形式の店舗が基本で、モバイルオーダーという方式を積極的に活用をした。店舗に行く前にアプリから注文をし、店舗では受け取るだけでいい。これにより、店舗の運営コストが大きく下がり、その分をコーヒーの品質にコストをかけたため、中価格帯のコーヒーとしては品質の高いコーヒーを提供している。

さらに、ほとんどの利用者がアプリ経由であるため、会員制度を活用して、個別に適切なクーポンを配布するなどデジタルマーケティング活用も進んでいた。不正経理を行なった経営陣は一掃され、営業面ではまったく問題はなく、むしろ固定ファンが増え続けている。

2021年の春節期間、前年の春節期間がコロナ禍によりあらゆる飲食店の営業がほぼ停止状態になったこともあるが、ラッキンコーヒーは販売量で5倍、売上で7倍という躍進をしている。これにより、再び投資家の注目が集まったのだと思われる。

つまり、ラッキンコーヒーはモバイルオーダーを普及させたパイオニアであり、基本的なコンセプトは優れている。固定ファンも多い。デジタルマーケティングの能力も高い。しかし、悪質な一部の人間によって、株価吊り上げのための不正会計というつまづきをした。その経営陣は一掃されて、健全化をしたが、世間は終わったカフェチェーンと見ている。投資家にとっては、投資の好機に見えるのだ。ラッキンが復活をして、再びスタバを脅かすこともないとは誰にも断言できない。