中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

なぜ中国テック企業は国内市場ではなく、ナスダック市場に上場をするのか?

中国テック企業は、成功をすると、その多くが米国のナスダック市場に上場をする。中国にも国内の株式市場があるのに、なぜわざわざ海外の株式市場に上場をするのか。それには6つの理由があると毒舌財経が報じた。

 

米国で上場をする中国テック企業

中国には、上海と深圳に証券取引所があり、ここに上場するのはA株(普通株)と呼ばれる。しかし、テック企業の多くが中国ではなく、米国のナスダック市場などに上場をする。アリババ、京東(ジンドン)、網易(ネットイーズ)、携程(シートリップ)、愛奇芸(アイチーイー)、ビリビリ、中国移動、中国聯動など、みな米国で上場をしている。それには主に6つの理由がある。

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▲米ナスダック市場に上場する中国企業は増えている。ナスダックも中国企業を積極的に勧誘している。

 

国内市場は審査基準が厳しい

国内A株は審査基準が厳しいということが最も大きな理由だ。例えば、直近3会計年度の利潤の合計が3000万元以上、営業収入の合計が3億元以上などの数々の基準をクリアしなければならない。

つまり、規模が大きくて、安定して利益が出ている企業しか上場できない。しかし、テック企業の多くは当初は赤字だ。特に、プラットフォームやサブスクリプションビジネスは、当初は赤字になるほど資金を投下して市場を取る必要がある。いったん市場をとってしまえば、長期にわたって安定的に収益がもたらされる。

米国市場では、上場基準が緩く、投資家はこのようなビジネスモデルの将来性を評価してくれる。つまり、ナスダックには上場できても、上海や深圳取引所には上場できないという企業がたくさんある。

 

審査に必要な時間が長い

国内A株は審査にかかる時間が長い。短くても2年、長いと5年ほど審査に時間がかかる。テック企業の場合、これほど長い時間がかかると、上場準備をした後で企業の姿がすっかり変わってしまうこともあり得る。そもそも、企業は上場をして、資金を調達し、それで成長したいと考えている。しかし、資金調達ができるのが5年後などというのはテック企業にとってはあまりにも長すぎる。

ナスダック市場などは、一般的には審査期間は半年から1年。テック企業の成長速度に合っている。

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▲国内株式市場も改革は行なっている。従来は核準制度(証券監視委員会が事前に審査を行う)制度だったが、注冊制度(登録申請のみする制度)に移行をしていく。

 

配当と議決権を分離した種類株制度がない

国内A株には種類株制度が存在しない。例えば、京東の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)は、京東の株式の15%しか所有をしていない。しかし、70%以上の議決権を持っている。いわゆる種類株を発行していて、議決権のない株式、議決権割合の異なる株式が発行できる。こうすることで、資金を調達しながら、議決権を保持して企業を円滑に運営している。

しかし、国内A株は1株1議決権の普通株しか発行できないので、資金を調達しようとすれば経営者の議決権が少なくなり、企業運営が難しくなる。買収に対する対策もしなければならなくなる。そのような業務は、テック企業にとって本質的なものではないので、種類株が発行できるナスダック市場を選ぶことになる。

 

国内株式市場は成長が遅い

国内A株は、このような事情があるため、成長速度の速い企業が避けるため、市場全体の成長が遅い。そのため、多くの資金が株式ではなく、不動産に投資をされてしまう。不動産価格は、ナスダック市場並に上昇をするが、株式市場はなかなか上昇しないということになっている。

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▲国内株式は、以前は高齢者の娯楽のひとつになっていたが、成長速度が遅いため、最近は人気が落ちているようだ。

 

上場後の株式売却禁止期間が長い

スタートアップ企業に出資をするベンチャーキャピタル=投資会社のビジネスモデルは、将来有望な企業に出資をして、株式を買う。上場したら、その株価が大幅に上昇するので、売却をして利益を得るというものだ。

ところが、国内A株は、上場後の売却禁止期間が長い。発行企業は12ヶ月は株式を売却することができず、株主も12ヶ月以内は5%、24ヶ月以内は10%までしか売却をすることができない。

テック企業は変化が激しいので、投資会社としては上場をしたら、さっさと株式を売却して、別のスタートアップ企業に投資をして、育てていきたい。しかし、国内A株ではその動きが遅くなるため、投資会社や投資家が、国内上場にいい顔をしない。

 

国際的な認知度を得ることができる

さらに米国で上場するということは、米国市場に対する知名度、信用度があがり、米国での事業を可能にする道も見えてくる。

このようなことから、テック企業の多くが米国で上場をする。中国の株式市場は、いわば古い仕組みのまま改革が進んでいないということだ。中国のテック企業が驚異的な成長ができた裏には、ナスダック市場などに上場ができたということも大きく影響している。

中国政府としては、テック企業が米国市場に上場をして、海外の資金を中国に流入させることができ、都合がいいと考えているのかもしれない。国内株式市場は、明らかに国営企業のような古い体質の企業向けに設計されたまま、改善されていく様子がない。しかし、事業を国際展開している中国テック企業はそうは多くなく、テンセントとバイトダンスを除けば、多くの企業が国内市場を対象に事業を行なっている。テック企業が米国市場に上場をするということは、中国で生まれた利益が海外の投資家に配当されるということでもある。

中国のテック企業も、成熟をし始めて、収穫の時期に入っている。今後、中国の株式市場の改革が行われる時期がやってくるかもしれない。