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スターバックスが9000店舗展開へ。地方都市にまで出店するスタバの計画の無謀ぶり

スターバックス中国が無謀とも思える計画「2025ビジョン」を発表し、業界人を驚かせている。その内容とは、今後3年間で3000店の新規出店をするというものだ。その背後にあるのは、瑞幸珈琲(ルイシン、ラッキンコーヒー)の猛追だと見られていると無冕財経が報じた。

 

もはやNo.1カフェではない中国のスターバックス

スターバックスは1999年に中国での一号店を出店して以来、中国のコーヒーの先生であり続けた。当時の中国にはコーヒーを飲む習慣がなく、スターバックスがコーヒーの習慣を定着させたと言っても過言ではない。

しかし、モバイルオーダーを武器にした「行列のできないカフェ」ラッキンコーヒーが猛追をしている。

スターバックスは、店舗数だけを見ると、すでに中国ナンバーワンのカフェではなくなっている。2022年6月末の段階でスターバックスの店舗数は5761店。一方、ラッキンコーヒーは7195店と大きく離されている。もちろん、ラッキンコーヒーの店舗はその多くがスタンド店であり、大量出店をしやすい。

営業収入の点でも追いつかれそうになっている。2022年第2四半期のスターバックスの営業収入は5.445億ドルで前年同期比で40%減という厳しいもののになった。一方、ラッキンコーヒーは4.932億ドル、前年同期比72.4%増と急増しており、その差は0.5億ドル程度までに縮まった。スターバックスは下り坂、ラッキンは上り坂であることを考えると、両者の順位は早晩逆転をする可能性も高くなっている。

スターバックスとラッキンコーヒーの店舗数。店舗数では2019年にラッキンコーヒーが1位となり、スターバックスは2位となっている。

 

地方市場に進出をするスターバックス

それゆえの3000店舗大量出店という計画なのだが、業界からは無謀に見え、うまくいくのかどうか成り行きが注目されている。

スターバックスの大都市市場はほぼ飽和をしていると言っても過言ではない。上海のビジネス地区である陸家嘴地区には40店舗以上のスターバックスがあり、明らかに過剰になっている。今回の3000店の新規出店は三線以下の地方都市、いわゆる下沈市場への浸透を図るねらいがある。ところが、すでに三線以下の地方都市はラッキンコーヒーのホームグランドとも言える市場で、1471店舗を展開している。スターバックスが下沈市場で新規出店を図れば、当然、ラッキンコーヒーも呼応をして店舗数を増やしてくることになる。しかも、ラッキンはモバイルオーダーという武器があるために、スタンド店の出店となるので、出店は容易だ。スターバックスが出店をしたら、その周囲を取り囲むように複数のスタンド店を出店する可能性もある。

 

「空間」を必要としない中国のコーヒー習慣

スターバックスはコーヒーを中心にした飲料を提供するカフェだが、その戦略で特徴的なのがサードプレイスだ。ただコーヒーを飲むのではなく、快適な空間の中でコーヒーを楽しんでもらう。売っているのはコーヒーではなく、コーヒー文化だという考え方だ。

しかし、これが中国のコーヒースタイルに合わなくなってきた。都市部では7割の人がモバイルオーダー、デリバリー、テイクアウトを好むようになり、店舗で飲みたいと考える人が減っている。コーヒーはオフィスの自分のデスクで飲むものというイメージができている。その中で、ラッキンのようにモバイルオーダー、デリバリーに特化したカフェが成長し、そのほかのカフェチェーンもデリバリーに対応する中で、スターバックスはサードプレイスにこだわり続けた。

しかし、2019年にウーラマと提携してデリバリーを始めると、それ以来、スターバックスもデリバリー売り上げが伸び続けている。現在では、半分近くがモバイルオーダー(店舗受取りを含む)になっている。

これは、スターバックスが重要だと考えている「空間」という商品を、消費者は不要だと言っているわけで、根幹の戦略である「サードプレイス」が揺らいでいる。

スターバックスのモバイルオーダー(店内オーダー、テイクアウト、デリバリー)の注文割合。すでに半分近くがモバイルオーダーとなっており、スターバックスの「サードプレイス」を必要としない利用者も増えている。

 

若者のスタバ離れが起きている

さらに、深刻なのが、「若者のスタバ離れ」が起きていることだ。スターバックスの顧客の年齢分布は、投資銀行「中金」の調査によると、80后(40歳前後)が52.5%で最も多く、90后以下(30歳前後)は23.6%でしかない。

スターバックスが中国で本格的に広まり始めたのは2010年代前半だ。それ以前は「憧れのカフェ」であったものが「毎日行くカフェ」に変わった。その頃の20代がそのままスターバックスの固定ファンとなっていて、新たな若い世代の取り込みができていない。

スターバックスは、スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」への対応が遅く、2018年になってようやく対応をした。それまではよく「アリペイ、WeChatペイは、スタバ以外ならどこでも使える」と言い方がされていた。さらにモバイルオーダー、デリバリーへの対応も遅かった。それは怠慢ではなく、スターバックスのサードプレイス戦略との兼ね合いを考えたためだが、結果として新しいスタイルへの対応が遅れ、若者との接点を失ってしまった。

さらに、コンビニコーヒーや格安カフェでは10元を切るようなコーヒーも登場する中で、30元、40元という高い価格帯を維持しているため、若者には敷居が高いということもある。

▲若者のスタバ離れが起きている。スタバの中心世代は40代。新しい消費スタイルへの対応が遅かったことにより、若者との接点を失っている。

 

上目線な自称スタバのスタッフ事件

さらに、まずいことに、昨年から、スターバックスでは消費者の感情を逆撫でするような事件が連続して起きている。

一昨年2021年8月、スターバックスが、上海の高級業態店舗「リザーブ・ロースタリー」で、398元(約7800円)というバイキングメニューを提供した。あるフードブロガーがこのバイキングを体験し、その評価を動画で公開をした。その内容は否定的なものだった。用意されている種類が少なく、量も少ない。補充もなかなかしてくれない。何より美味しくない。お金を返してほしいと散々な内容を公開した。

評価は主観的なものであり、ブロガーも目立つために極端なことを言いたがるため、このこと自体は大きな話題とはならなかった。しかし、問題は、自称スターバックスのスタッフと称する人が、このブロガーに対して高圧的なプライベートメッセージを送ったことだった。この内容が消費者を見下していると炎上をした。

内容は、要はスターバックスの文化を理解していないからそういう評価になるのだということを指摘していて、スターバックスにきたことがないのだろうと決めつけ、最後には、スターバックスのような独特の文化の香りがするところにくる前に、よくよく勉強をしてからくるべきだと告げている。これが、消費者を見下していると炎上した。このメッセージの送り主がほんとうにスターバックスの関係者なのかは明らかになっていない。

▲問題となったブロガーの動画。スタバのバイキングを体験して、否定的な内容の評価をした。

▲ブロガーに送られた自称スタバスタッフからのメッセージ。「このような文化空気感のある場所に来る前には、よくよく勉強してください」という文言があり、消費者を見下していると炎上した。この人が本当にスタバのスタッフなのかどうかは明らかになっていない。

 

警察官がいるとスタバのブランドに傷がつく事件

昨年2022年2月には重慶市で警察官と問題を起こしてる。重慶市の観光名所、磁器口で警邏をしていた警察官の怒りのツイートが話題を呼び、スターバックスに対する批判が巻き起こった。

その警察官は、スターバックスの店舗の前で食事をしていたら、スタッフから「あなたたちがそこにいると、スターバックスのブランドが毀損をするので、どこかに行ってほしい」と言われたというものだった。治安を守ってくれる警察官に対して「どこかに行け」というのは酷い話だし、なぜ警察官がいるとブランドが毀損することになるのかと批判が巻き起こった。

これも状況が落ちついて明らかになると、必ずしもスターバックスだけに非があるわけではないことが明らかになった。スターバックスの店舗前にはテラス席がある。警察官たちは、このテラス席を勝手に利用し、持参した昼食をとっていたのだ。スターバックスは公式の謝罪と説明を公表したが、その説明によると、警察官がテラス席に座っていたが、利用客からテラス席を使いたいという希望が出たため、スタッフが警察官に席を空けるようにお願いをした。しかし、その時のやり取りに誤解があり、その点をお詫びするという内容だ。

▲警察官との問題を起こした重慶市スターバックス。警察官がテラス席を借りて食事をとることはそれまでもたびたびあったようだ。

 

勘違いスタッフによる文化の衝突

フードブロガーの件も、警察官の件も、スターバックスだけに非があるのではなく、ブロガーや警察官にも問題があった。しかし、多くの人がそのやり取りの中から、スターバックスの傲慢さを感じ取った。高価格帯のコーヒーを飲めない人/飲まない人を「スターバックス文化を理解できない」と見下しているのではないか。引いては米国人は中国人を見下しているのではないかというところまで考えを伸ばしてしまう人がたくさんいた。しかも、スタッフは中国人であり、中国人であるのに米国文化側に立ち、同胞である中国人を見下している。そこに憤りを感じる人もいる。

スターバックスという企業そのものに中国を見下すなどという考え方は存在しているはずがないが、スタッフの中には勘違いをして、自己を肥大させて傲慢な考え方をしてしまう人がいるようだ。

 

注目されるスタバの無謀な成長戦略

スターバックスにとってラッキンコーヒーの躍進も大きな脅威だが、価格の面ではコンビニコーヒーに圧倒的な優位性があり、さらには上海、北京という大都市には独立系のカフェが続々と登場して人気を博している。

つまり、スターバックスは長い間、中国のコーヒーの先生だったが、生徒たちが成長をし、今では、価格、味、サードプレイスの3つの競争力を失い始めている。この課題を乗り越えるために、スターバックスが打ち出したのが3000店出店計画だ。ある意味、スターバックスは本気の勝負をかけてきている。この3年で、中国のカフェ地図が大きく塗り変えられることは確実だ。