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スターバックスの地方進出に勝算はあるのか。変わる地方の若者の飲食習慣

スターバックスが300都市9000店舗計画により、地方都市への出店を始めている。知名度が圧倒的にあり、優待クーポンなども配布しているために初動は成功しているが、リピート客がつかめるかどうかは不透明だ。ネックになるのは価格の高さだ。しかし、地方にも大都市での生活を経験したことがある人が増え、スターバックスにはじゅうぶんな勝算があると見る人もいると互聯網品牌官が報じた。

 

地方出店が始まっているスターバックス

スターバックスが中国の地方への進出を始めている。昨2022年9月に、スターバックス中国が発表した「2025ビジョン」では、現在6000店舗のスターバックスは、2025年までの3年間で3000店を新規出店し、300都市9000店舗の布陣にすると発表した。

すでに山東省煙台市、山東省威海市、貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州、広東省清遠市、江西省余市などの地方都市に出店を始めている。

広東省雲浮市のスターバックス店舗。大都市店舗と変わらないサードプレイス環境を提供している。テラス席もある。その前にスクーターが並んでいるのが、いかにも地方都市らしい風景になっている。

 

激しく競り合うラッキンとスターバックス

スターバックスは、中国市場を米国に次ぐ重要な市場だと考えている。1999年に中国に進出して以来、スターバックスは常に中国のカフェ界のリーダーであり続けた。しかし、2017年に創業した瑞幸珈琲(ルイシン、Luckin’ Coffee)が、スタンド店+モバイルオーダーという新しいスタイルで急速に店舗数を伸ばし、2019年には店舗数でスターバックスを抜き、リーダーの座を奪った。

それだけではなく、コロナ禍によりスターバックスの業績は芳しくなく、営業収入の面でもラッキンに追いつかれつつある。

そのラッキンが、次の成長戦略として、地方都市への進出を始めていて、それにスターバックスも対抗をした形になる。

▲ラッキンコーヒーとスターバックスの店舗数。2019年にラッキンはスターバックスを抜いて、中国No.1のカフェチェーンとなった。

▲ラッキンコーヒーとスターバックスの営業収入。スターバックスが足踏みをしていることもあり、ラッキンとの差は詰められつつある。単位:百万ドル。期は自然年。

 

高価格帯のスターバックスは地方に受け入れられるのか?

スターバックスの地方進出計画は、中途半端なものではなく、300都市9000店舗という非常に大胆な計画だ。それだけに「スターバックスが本気を出した」と評価をする人もいれば、「無謀すぎる計画だ」と心配をする人もいる。

最も大きな問題は、30元(590円)を超える客単価だ。地方都市は、いまだに道端の露店で1杯3元程度のレモン水や中国茶が売っている世界だ。昼食ですら、多くの人が15元ぐらいで済ませたいと考えている。そこにいくら品質が高いと言っても、下手をすると夕食と同じ価格帯のスターバックスが受け入れられるのかという問題がある。

すでに地方進出を進めているラッキンは20元を切る価格帯。コンビニコーヒーは10元台前半だ。さらに、地方都市にまで9000店舗を展開するケンタッキーフライドチキン(KFC)は、9.9元でSOE(シングルオリジンエスプレッソ)を提供し、「コーヒー9元時代」をアピールしている。そのような中で、スターバックスに競争力はあるのかと誰もが不安に感じる。

ケンタッキーフライドチキンが始めた9.9元のエスプレッソ。ほぼ全店舗にテイクアウト専用窓口が設けられ、KFCは「コーヒー9元時代」をアピールしている。

 

知名度により初動は絶好調。問題はリピート

昨2022年9月に、雲南省文山市にオープンした店舗は好調であるという。販促活動が効果をあげている。スターバックス知名度は地方でも圧倒的であり、そこでオープン記念のクーポンを利用すると実質20元程度で飲むことができる。そのため「一度スターバックスで飲んでみたい」と考えた消費者が殺到をした。

しかし、いつまでもクーポンを配り続けるわけにはいかない。リピートの習慣が養成できた段階で、クーポンを絞り、通常価格で飲んでもらわなければならない。その段階になって、どれだけの人がリピーターになってくれるのかは、まだまだわからない部分がある。

▲ラッキンとスターバックスのコスト構造。ラッキンはスタンド店にして初期投資を抑える。さらに、利益を圧縮して原材料費に振り向け、価格は安くても質の高いコーヒーを提供している。

 

サードプレイス戦略も地方では未知数

もうひとつの課題が、スターバックスのサードプレイス戦略だ。高品質のコーヒーだけでなく、上質の空間を提供し、コーヒー体験を商品にする。スターバックスは、雰囲気のある空間の中でコーヒーを楽しむことが最も魅力的な商品になっている。

このサードプレイスの感覚を、地方市場の人たちは価値があると考えてくれるのかという問題がある。このサードプレイス戦略を歓迎をしたのは、大都市のホワイトカラーたちだ。オフィスから抜け出して、上質の空間の中でコーヒーを飲みながら考えごとをする、読書をする、PCを開いて仕事をする。自宅でもない、オフィスでもない居場所としてスターバックスが選ばれた。

このサードプレイス戦略は、地方でも受け入れられるのだろうかという問題がある。

 

購買力では都市と地方の差は小さくなっている

現在のところ、地方都市のスターバックスでも、サードプレイス戦略は受け入れられているようだ。大都市と変わらずに、ホワイトカラーや学生がやってきて、サードプレイスを楽しんでいる。

地方は、収入面では大都市の労働者に比べて大きく落ちるが、購買力の面で見ると、大きく見劣りするわけではない。特に大きいのが住宅費が安いことで、大都市のホワイトカラーが高額なマンションのローンの支払いに追いかけられているのに対して、地方都市ではマンションも低価格であり、さらには実家住まいであるため住宅費が実質0の人も多い。また、食品をはじめとする物価も圧倒的に安い。そのため、物価を考慮した実質的な可処分所得の面では大きな差はなくなっているとも言われる。

また、地方都市では、食品や飲料といった日常摂取する商品に対する消費が大きい傾向にある。飲食業にとって、地方市場はまだまだ開拓の余地があるとも言われている。

▲各種カフェの都市規模分布。スターバックス三線以下の都市を拡充しようとしている。大都市に絞ったMスタンド、地方に絞ったラッキーカップなど、カフェはさまざまな出店戦略をとっている。

 

都市生活経験者が地方にも増えている

さらに大きいのが、経済成長が地方にも波及をするようになり、人の流れが大きく変わってきたことだ。それまでは、農村から大都市へ、小さな街から大きな都市へ人が移動をする一方通行だったが、すでに大都市では人口増加が止まっているか、むしろ減少傾向が始まっている。

地方の中核都市が発展をしてきて、大都市に行かなくても、近くの中核都市に出ていく傾向が生まれている。

学生たちの動きも大きく変わってきている。それまでは大都市の大学に進学をし、大都市で就職をするというのが理想のコースだった。そのため、大学を卒業しても仕事が見つからない「北漂」(ベイピャオ、北京漂流)という言葉も生まれた。しかし、今では地方中核都市でも、ホワイトカラーの仕事を見つけることができる。そのため、大都市の大学を卒業すると地元や地元の中核都市に職を求めるUターン、Jターン組が増えている。

つまり、今の地方都市の若者は、学生時代に大都市での生活を経験している。当然ながら、コーヒーを飲む習慣を持ち、カフェに行く習慣を持っている人もいる。このような大都市の生活を知っている若い世代が、スターバックスの常連になっているようだ。

 

スターバックスは厳しい道を自ら選択した

もちろん、これは「そういう人たちもいる」という話であって、地方中核都市の若い世代のどのくらいの割合がスターバックスに行くのかはまだなんとも言えない。スターバックスに必要なのは、このような消費者を的確に発掘をしてアプローチし、スターバックスの常連になってもらうことだ。そして、そのような若い世代を核にして、大都市生活の経験のない若い世代や他の世代にもスターバックス体験を広げていくことだ。スターバックスは、非常に険しい道を選択をした。成功をすれば、中国は、どんな田舎町に行ってもスターバックスがあるという国になる。