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中国に本気を出すスターバックス。3000店の新規出店。地方都市の下沈市場で、スタバは受け入れられるのか

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今回は、中国のスターバックスついてご紹介します。

 

スターバックス中国が「2025ビジョン」を発表し、その内容にカフェ業界関係者が驚愕をしています。あまりにも無謀な計画で、「スターバックスが本気を出した」と見る人もいれば、「無謀すぎて失敗する」と見ている人もいます。

この2025ビジョンでは6つの数字が象徴的に掲げられています。1つは今後3年間で3000店舗を新規出店し、店舗数を「9000」店舗級にする。中国の「300」都市をカバーする。出店ペースは「9時間」ごとに1軒というペースになるというものです。

これによりフランチャイズ加盟店を含めた従業員数は3.5万人増え、合計で「9.5万人」になる。2022年と比較して、営業収入は「2倍」になり、営業利益は「4倍」にするというものです。

 

この2025ビジョンの眼目は大量の新規出店です。スターバックスは現在中国に5761店舗を出店していて、これを9000店舗にするというのです。しかも300都市をカバーするというのがポイントで、これは地方市場=下沈市場に積極的に進出するということを意味しています。

中国では、その人口や経済力などの指標から、都市を6つの等級に分けることが行われています。最も大都市である一線都市は、おなじみの上海、北京、深セン、広州の4都市で、その下の新一線都市に杭州成都重慶武漢など15都市、二線都市が昆明やアモイ、大連など30都市、以下三線都市70都市、四線都市90都市、五線都市128都市と続きます。多くの日本人が知っているのは二線都市までで、三線都市以下になると初めて聞くような名前の都市ばかりになります。この三線以下の都市と農村が一般に「下沈市場」と呼ばれます。

この都市のランキングは、メディアの第一経済の新一線都市研究所が毎年、改訂をしながら発表しているもので、国の統計や基準ではありません。しかし、国家統計局もこのランキングを使って統計を発表するなど、事実上の標準になっています。

 

六線以下に相当する都市(町)も無数にありますが、ランキングに入れられるのは五線都市までの合計337都市です。スターバックスはこのうちの300都市をカバーすると言っているのです。

つまり、これはスターバックスが下沈市場進出に対して本気を出したということにほかなりません。もし、このビジョンが成功をすれば、中国はどんな小さな街にもスターバックスがある国になります。

「vol.114:スターバックス中心のカフェ業界に激震。テーマは下沈市場。郵便局や蜜雪氷城も参戦」では、スターバックスが中国でこれ以上の成長を望むのであれば、下沈市場に進出をする以外に道はないということをご紹介しました。スターバックスは2025ビジョンで、まさにそのことを、多くの人の想像よりも大規模に行おうとしています。

しかし、あまりに本気すぎる計画であるため、そんなにうまくいくのか?と危ぶむ声もあります。このスターバックスの本気は成功するでしょうか?

 

1999年、スターバックスの中国1号店が北京市の国際貿易センターに開店をしてから、中国のカフェの歴史が始まりました。当時の中国には、コーヒーを飲むという習慣がなく(インスタントコーヒーはありました)、常にスターバックスが中国のコーヒー文化をリードし、中国にコーヒーの習慣を根付かせたことは間違いありません。そのため、スターバックスは「コーヒー老師」(コーヒーの先生)と呼ばれています。

スターバックスの強みは、コーヒーの味とサードプレイスという言葉で代表される店内空間です。味は主観的なもので、スターバックスのコーヒーが好きな方もそうでない方もいらっしゃると思いますが、少なくとも、カフェラテという新しいアレンジコーヒーを世界に普及させたのはスターバックスの功績です。日本でも、それ以前からイタリア料理店などで出されていましたが、毎日飲むようなものではなく、ここまで一般的に飲まれるようになったのはスターバックスが出店してからです。

そのような新しいコーヒーを、快適な空間の中で飲み、時間を過ごす。これがスターバックスでした。

 

中国でもまったく同じですが、10年経つと、コーヒーの生徒たちが育ってきます。これにより、スターバックスは二度経営的なつまづきを経験します。

最初のつまづきは2018年でした。スターバックスはグローバル経営を行っていて、中国で生活テクノロジーが大きく変わったことに対応をしませんでした。2018年には、すでにスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」を使うのがあたりまえになっていて、財布を持たない、現金を使わない人が多くなっていました。しかし、スターバックスはクレジットカードには対応していましたが、スマホ決済には対応をしなかったのです。この頃、中国の方にスマホ決済のことを尋ねると、「スタバ以外どこでも使えるよ」と答えるのが定番でした。

さらにスマホ決済が普及をすると、モバイルオーダー、フードデリバリーがあたりまえになりました。しかし、これもスターバックスは対応をしなかったのです。これにより、2018年のQ2には、営業収入が前年同期比の-2%減となりました。スターバックスが中国に進出して初めてのマイナス成長です。

さらにこの年、「瑞幸」(ルイシン、ラッキンコーヒー)が創業をしました。2018年1月1日に北京と上海に出店したラッキンは、5月には500店舗、9月には1000店舗、年末には2000店舗を突破するという驚異的な勢いで店舗数を増やしていたのです。

ラッキンコーヒーは、初めてモバイルオーダーを全面的に活用したカフェチェーンです。原則はモバイルオーダーのみで、決済もオンラインで済ませ、お店に取りにいくというスタイルです。サードプレイスを重視するスターバックスとは考え方が180度異なりましたが、これが受けました。コーヒーを買うのに行列をしなくていいというのが人気の理由でした。

この頃には、コーヒーは出勤前に購入して、それを持ってオフィスに行き、デスクで仕事をしながら飲むものというイメージが定着をしていました。その感覚に、ラッキンはうまくハマったのです。

 

スターバックスから見ると、現金決済のみ、店内で飲んでもらうのが基本というスタイルが中国人の嗜好とずれ始めたことになり、それが売上にもはっきりと現れるようになっていきました。

ただ、スターバックスという企業はこのような危機に対応し、戦略を修正し、新たな決断をするのが非常に機敏な企業だと思います。アリババと業務提携をし、アリペイ決済に対応、アリババのウーラマ、盒馬鮮生(フーマフレッシュ)のデリバリーリソースを使ってデリバリーにも対応をしました。これで2019年は営業収入を大きく伸ばすことができました。危機を乗り越えたのです。

その後、2020年もコロナ禍により売上を落としましたが、これは仕方のないことで、2021年にはリバウンドで売上を大きく伸ばします。しかし、2022年になり、新型コロナの感染再拡大により再び売上を大きく落とすことになりました。サードプレイスという店内空間を楽しんでもらうというコンセプトが、コロナ禍では合わなくなってしまったのです。

さらに、北京、上海では、新興のカフェが大量に登場したこともスターバックスを追い詰めています。Manner、Seesaw、Peet’s、%Arabicaなどが代表例で、価格はスターバックスよりも高価格帯ですが、コーヒーの品質がきわめて高く、コーヒーそのものを楽しむカフェです。チェーンの規模を大きくすることは難しいものの、本格カフェが登場したことで、スターバックスの優位性が消えてしまいました。

味と空間がスターバックスの強みであったのが、味では本格カフェに負け、空間はコロナ禍により時代と会わなくなっています。スターバックスのコンセプトを修正しなければならない事態ですが、ここでもスターバックスは機敏に反応します。それが2025ビジョンの発表で、下沈市場に本格的な拡大をするということなのです。

ただし、このビジョンの実現は簡単ではありません。今回は、下沈市場のどこに難しさがあるのかをご紹介し、スターバックスの中国戦略がうまくいくのかどうかを考えます。

 

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