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横行するネット詐欺犯が捕まらない「3つの偽装」。SNSだけでつながるピラミッド構造

ネット詐欺が横行する理由の最大のものが犯行集団が捕まらないことだ。なぜ、ネット詐欺犯行集団を捕まえることは難しいのか。3つの偽装とピラミッド構造にその原因があると隴南成県抛沙司法所が報じた。

 

つかまらない、戻ってこないネット詐欺

決済などの利便性が上がれば、その利便性をついた詐欺が横行する。中国では電子決済がらみの詐欺が後を絶たない。手口はさまざまあるが、多いのは「返金すべきお金がある」と電話連絡をして、電子決済のアカウントを入力させるフィッシングサイトに誘導するものだ。中にはECの購入履歴の漏洩情報に基づいて、「x月x日、EC○○でお買いになった商品xxに問題が発生し、返金をいたします」などと誘うため、多くの人が正規のサポートセンターからの連絡だと思い込んでしまう。

公安は積極的に注意喚起の公告を行なっているが、市民が不満に感じているのは、詐欺犯がなかなか捕まらないし、お金が戻ってこないことだ。

 

犯行集団が行う3つの偽装

なかなか犯人にたどり着くことができない理由は3つあるという。

1)地理的偽装

現在は多くの犯行集団が東南アジアを拠点に活動をしている。このため、中国の公安が直接捜査をすることできず、現地国警察の協力を得る必要がある。この協力を取り付ける手続きが簡単ではなく、時間と手間がかかる。

2)身分的偽装

中国人には全員に身分証が発行され、身分証がなければスマートフォンの契約などもできないようになっている。しかし、盗まれた身分証がブラックマーケットで販売されており、これを入手して、他人になりますして犯罪を行う。有効な他人の身分証を使うため、犯行集団にとっては自分の身分を隠す格好のツールになってしまっている。

3)技術的偽装

IPアドレスの偽装技術が進んでいる。中国国内にメールを送る場合でも、海外の複数のサーバーを経由させて送るため、公安は直近の海外サーバーに開示請求を出し、その1つ前の海外サーバーを割り出し、さらにその海外サーバーの開示請求を出しということを複数繰り返していく必要があり、たどり着くまでに時間と手間がかかる。

▲犯行集団は、複数の海外サーバーを経由して被害者にアクセスをする。捜査陣は、開示請求を各サーバーに行い追跡していく必要がある。

 

声佬、接数佬、刷機佬、卡佬、取款佬のピラミッド構造

犯行集団はおおよそ5つの階層に分かれ、分業をしている。第1層は「声佬」と呼ばれ、対象に対して詐欺を実行する。第2層は「接数佬」と呼ばれ、現金化を差配する。第3層は「刷機佬」と呼ばれ、POS機やネット口座の移動を担当し、第4層は「卡佬」と呼ばれ、身分偽装した銀行口座と銀行カードを用意する。第5層は「取款佬」と呼ばれ、銀行カードを使って現金を引き出す。

この5つの層はピラミッド構造になっている。声佬が20万元を詐取したとすると、第2層の接数佬は20万元の現金化をすることになる。この時、Aの刷機佬に10万、Bの刷機佬に10万などのように複数の刷機佬に分割をする。刷機佬はさらに複数の卡佬に分割をし、最終的には出し子である取款佬が担当するのは1万元程度になる。

このピラミッド構造で最もリスクがあるのは、出し子である取款佬だ。銀行のATMには監視カメラもあり、捜査陣も現金を引き出す瞬間をねらっている。そのため、取款佬が担当する金額を抑えて、目立たないようにし、同時に取款佬が持ち逃げをしても犯行集団への影響が小さくなるようにしている。

また、この5層の組織は、互いに面識はなく、連絡はテレグラムなどの暗号化が施されたメッセンジャーを使って行う。これにより、取款佬が逮捕をされても、犯行集団の中核にはたどりつけないようになっている。

▲資金の引き出しは、小分けをして、面識のない出し子に行わせる。これにより、1人あたりの額が少なくなり、引き出しが目立たなくなり、かつ出し子が持ち逃げをする危険性が減る。

 

犯行環境を提供する水房

「水房」と呼ばれるアジトを提供する役目の人物もいる。また貸しを重ねて、犯行集団の身分証などにたどり着けないようにしたアジトを提供する。また、困窮する現地人から身分証や銀行口座を買い上げ、海外の銀行口座も用意し、犯行集団は複数の海外銀口座に分散して、売上を保管する。海外の銀行口座を中国の公安が凍結するのは簡単ではなく、万が一銀行口座がひとつ凍結されても、犯行集団に大きな影響が出ないようにすることができる。

インドネシアで摘発された中国人詐欺グループ。中国国内に対してネット詐欺を仕掛けていた。このような現地警察の協力が得られて逮捕まで行くことは多くない。

 

対AI検知対策に一般人のアカウントを利用する

また、最近、事情を複雑にしているのが、「資金転送副業」だ。ネットで募集しているもので、お金が自分のアリペイやWeChat、銀行口座などに振り込まれてくるので、数%の手数料を差し引いて、指定された口座に転送したり、犯行集団が用意した販売サイトで指定商品を買わせたりする。もちろん、販売サイトの商品は原価が数元のもので、これを5000元、1万元で買わせる。この真っ当な取引を途中に挟むことにより、資金移動を監視しているAIの違法資金移動のアラートが出づらくなる。対AI用の資金洗浄だ。

 

金保管に利用されるビットコイン

この数年は、このような資金保管にビットコインが利用されている。ビットコインの資金移動を追跡するには専門知識が必要となり、各地の公安が追跡チームを用意することは現実問題として難しい。

このような理由から、ネット詐欺集団の摘発が難しい状態となっていため、各地公安は被害手口を公開して、注意喚起をするぐらいしか手がなくなっている。近年では、AIで音声を合成し、知人を装って電話をし、相手を信用させようとする犯行集団も登場している。公安よりも、犯行集団の方が偽装技術の開発が進んでおり、ネット詐欺がなかなか撲滅できない状況が続いている。