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国内から海外へ。中国のロマンス詐欺集団は、摘発強化で海外進出へ

SNSなどで恋愛感情を抱かせ、投資などをさせ、お金を騙し取るロマンス詐欺が国際化をしている。中国内での摘発が強化をされたため、それまで中国国内をねらっていた詐欺集団が、海外市場をねらい始めたからだと瀟湘晨報が報じた。

 

恋愛感情を抱かせる国際ロマンス詐欺「殺猪盤」

2022年6月13日、湖北省丹江口市公安は、国際ロマンス詐欺を行なっているグループの拠点を捜索し、5名のメンバー全員を逮捕した。

国際ロマンス詐欺は、海外の対象者とSNSを通じて知り合い、交流をしながら恋愛感情を抱かせ、最終的に投資などと偽って大金を騙し取るというもの。中国では「殺猪盤」と呼ばれる。猪とは豚のことで、騙すために架空の人物の経歴などを設定し、対象に伝えることを「豚に餌をやる」と言い、SNSで恋愛的なメッセージを交換し、恋愛感情を抱かせることを「豚を育てる」と言い、最後にお金を騙し取ることを「豚を殺す」と呼んでいる。

中国人の被害も多く、各機関が注意喚起を行なっている。

▲テンセントのセキュリティーチーム「守護者計画」が告知しているロマンス詐欺への啓発広告。SNSの中では美しい女性のように振る舞うが、実際は男性の犯罪集団がメッセージを送っている。

 

デタラメの英語で詐欺を働いてた犯罪集団

6月の初め、丹江口市公安局刑偵大隊が、それまでの捜査から殺猪盤犯罪集団のアジトではないかと思われる市内の賃貸マンションを突き止めた。張り込み捜査をすると、室内には男性4人、女性1人が暮らしているが、滅多に外出をすることがなく、多くの時間、全員がPCでインターネットにアクセスをしている。

詐欺行為を行うグループの行動と一致をするため、6月13日の午後、公安局刑偵大隊とサイバー警察、民警の合同チームが立ち入り調査を行い、現場で6台のPCと20台のスマートフォンを押収した。

この犯罪グループは英語圏の被害者に対して詐欺行為を行なっていた。そのため、SNSでのやり取りは英語で行うことになる。SNSの記録や詐欺マニュアルも英語が多く、丹江口市公安局は押収した資料の分析をするのに、漢江師範学院から4名の英語教師に協力をしてもらい、内容を分析した。その結果、英語教師たちは驚いた。文法が間違っているだけでなく、意味が通らない英文ばかりだったのだ。

犯罪グループの5人は、20歳から25歳までの若者で、学歴も専門学校卒が最高で、小学校しか行っていない者もいた。その人物が知っている英語は「What’s your name?」「How are you?」の2つだけだった。

▲家宅捜索をされた瞬間。マンションの1室でありながら、5人は外に食事に出ることもほとんどなく、その行動から公安は内定調査を始めた。

▲詐欺集団は、大量のキャラクター設定とシナリオを用意していた。担当者はこの設定とシナリオに基づいて、対象者とメッセージを交換する。

 

恋愛感情を抱かせ暗号資産に投資させる

この犯罪グループは2022年5月に5名で結成され、海外の対象者に対して殺猪盤詐欺を始めた。外国人女性の写真をネットから集め、VPNを経由して海外のSNSにその写真を使ってアカウントを開設。英国、アイルランド、アフリカなどの男性にSNS上でメッセージを送り、「豚を養う」行為を始めた。

そして、恋愛感情を持たせると、「親戚に優秀なデータアナリストがいる」と嘘をつき、暗号資産に投資をするように勧め、代わりに投資をしてあげると持ちかけ、お金を騙し取ろうと考えていた。

▲摘発した犯罪集団の作業デスク。大量のスマートフォンを保持しており、1人が複数人を演じて、海外の対象者に対して詐欺を行っていた。

 

英語が壁となり、成功例はゼロ

しかし、結局、詐欺に成功した例はひとつもない。英語メッセージに関しては、翻訳ソフトを使ってやり取りをしていたが、不自然な表現にならざるを得ない。しかし、SNSアカウントの写真は白人女性であるため、多くの対象者が不審に感じた。

中には、ビデオ通話で話したいと言い出す対象者もいて、犯罪グループはそうなると対応ができず、対象を放棄するしかなかった。

▲摘発された詐欺集団。英語能力が不足をしていたため、成功例はひとつもなかった。

 

国内の摘発強化で、詐欺集団は海外へ目を向ける

「ネットセキュリティーの技術と応用」2022年第3巻に掲載された論文「殺猪盤ネット詐欺犯罪の実証分析および対策の研究」によると、2020年1月から3月までの3ヶ月間で、D市(仮名)の公安の記録によると、3158件の殺猪盤被害があり、被害金額は1.76億元(約35億円)にのぼっている。平均すると、1件あたりの被害額は100万円を超える。

殺猪盤詐欺は、被害件数は少ないものの、1件あたりの被害金額が大きいのが特徴であるため、各地の公安とも摘発を強化し、被害件数も減少傾向にある。しかし、この摘発強化により、対象を中国人から海外に変える犯罪グループが相次いでいる。被害者は地元の国の警察に被害届を出すことしかできず、中国の公安に被害届を出す術がない。また、海外のSNSを利用することで、PC内のメッセージ履歴を消去してしまえば、中国の公安が海外のSNSに対して開示請求をするのは簡単ではなく、証拠の収集も困難となる。

このようなことから、海外の対象者を狙う詐欺グループが相次いでいると見られる。