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今回は、ポップマートと玩具ビジネスの難しさについてご紹介します。
「泡泡瑪特」(パオパオマーター、POP MART)のデザイナーズトイ「Labubu」(ラブブ)が世界的なヒット商品になっていることは日本のメディアでもよく報道されています。
このラブブは、香港のデザイナー龍家昇氏がデザインしたもので、2015年から自身の手でイラストや絵本の形で展開をしていました。ポップマートはこのラブブに注目をし、2019年4月からフィギュアを発売します。しかし、長い間、売上は悪くないものの、人気になるというほどでもありませんでした。
これが一瞬で変わったのが、2024年4月のLisaのインスタグラムです。Lisaは韓国のK-Popグループ「BLACKPINK」のメンバーですが、タイ出身で、タイの若い女性に圧倒的な影響力があります。「ラブブが大好き」と、自分の持っているラブブを紹介する内容です。これで、タイの若い女性の間で人気に火がつきました。
さらには、タイ王室のナリラタナ王女がバッグにラブブをつけている姿が報道されると人気はさらに広がり、タイ政府観光局は、インバウンド旅行のプロモーションにラブブを公式採用するに至ります。これで、タイでは若い女性の間で流行っているというだけでなく、国民的なキャラクターになっていきました。
ところが、タイではラブブは個人輸入か、中国越境ECで買うしかありません。ポップマート側では突然のタイでの人気に商品が用意できず、品切れ状態が続きます。この騒ぎで、中国でもラブブ人気が高まっていきました。もちろん、例によって転売を企む人が大量購入するので、品薄状態が続きます。
ポップマートは、入荷をすると、店舗よりも早くライブコマースで販売をします。このライブコマースは異常な状態となりました。ライブコマースでは、視聴者がチャットで質問をすることができ、MCがそれを読めるだけでなく、視聴者全員にもスクロール形式で表示されます。中国国内のライブコマースであるのに、タイ語で埋め尽くされたのです。
MCが慌てて翻訳にかけてみると「タイにも発送してもらえるか」「クレジットカードで決済するにはどうしたらいいか」という質問がタイ語で書かれています。「本日の商品は完売です」と中国語で告げても、質問は止まりません。視聴者の大半はタイ人で中国語がわからないからです。そこで、スタッフはタイ語で「完売しました」と書いたボードを見せるしかありませんでした。
2024年7月に、バンコクにある東南アジア最大級のショッピングモール「メガバンナー」にポップマートの店舗がオープンしました。開店早々、ラブブが入荷するということで、長い行列ができ、タイでは社会現象となりました。
この騒ぎが報じられると、中国だけでなく韓国にも飛び火をし、さらには東南アジア全域、そして欧米でも人気が出始めています。
このラブブの大ヒットで、ポップマートの業績は驚異的な伸びを示しています。
2024年は、前年比106.9%増と2倍になっています。2025年はまだ上半期の業績しか発表されていませんが、半期でありながら昨年の売上を上回っています。2025年も倍増するのは確実です。
さらに、ポップマートが進めていた海外展開にも大きな弾みがつきました。中国でも135.2%増と倍増以上になっていますが、米大陸では1142.3%増、欧州では729.2%増と見たことがない数字の前年比になっています。
これにより、売上の国内外比も大きく変わってきました。
中国が主力市場であることは同じですが、米大陸がかなり大きな市場に育ってきていることがわかります。
ポップマートについては、「vol.166:盲盒のヒットで生まれた大人玩具市場。香港上場を果たしたポップマートと追いかける52TOYS」(https://tamakino.hatenablog.com/entry/2022/03/20/080000)、「vol.255:オタクがショッピングモールを救う。オフライン消費を復権させた潮玩と二次元」(https://tamakino.hatenablog.com/entry/2024/11/17/080000)などで、ご紹介していますが、そのビジネスの深い部分まではご紹介できていませんでした。
ポップマートを紹介する時は、どうしても「盲盒」(マンフー、ブラインドボックス)という独特の販売手法の話になりがちです。もちろん、この手法も重要なのですが、ポップマートの特色はもうひとつあります。それは、玩具という水物を扱いながら、持続可能な企業として運営できているという点です。
実は、玩具企業というのは持続をしていくことが非常に難しいのです。最も歴史のある玩具企業というのは1859年創業の独メルクリンですが、鉄道模型に特化をして、総合玩具メーカーとは少し毛色が異なります。次に歴史があるのが、1889年創業の任天堂ですが、花札製造から始まり、トランプ製造、ゲーム玩具製造と移り変わり、ファミコンで一気に世界に進出にします。時代に合わせて何回も業態を変化させています。その他の企業は日米欧とも1950年代、1960年代創業なのです。まだまだ創業者が会長や顧問でいることも珍しくありません。
おそらく、玩具業というのは生まれては消え、生まれては消えを繰り返してきたのです。その理由は、流行商品であるということにつきます。売れ始めると社会現象になるほど売れますが、ブームが去ってしまうと、ぴたりと売れなくなる。
家電製品であれば、売れなくなっても価格を下げればなんとかさばくことができます。しかし、玩具は売れなくなると値段を下げても売れません。「タダであげます」と言っても「迷惑だ」と言われかねないのです。産業廃棄物としてお金をかけて処分するしかなくなります。
ですので、ほぼ毎年のようにヒット玩具は生まれますが、ブームが終わって清算してみると、全然利益が出ていなかったというのはよくある話です。生産ラインを拡大して大量生産するため、ブーム後に生産ラインを閉じ、余った在庫を処分するのに大きなコストがかかるからです。特に、20世紀までは、玩具製造は手作業が多く、大量の人を雇用しなければなりませんでした。人手が余ったからといって簡単に解雇するわけにはいきません。玩具企業は、ヒットを出して大きくなりますが、今度はその大きさが負担になって業績が悪化をしていきます。これを解決する方法はひとつ、次のヒットを出すしかないのです。
玩具企業にとって、持続可能な商品というのは永遠の課題です。タカラのリカちゃんも「着せ替え人形にすれば、流行の洋服を次々と販売することで、玩具寿命を延ばすことができる」という発想から生まれました。任天堂のファミコンも「ソフトを次々と発売すれば、ゲーム機本体の寿命を延命することができる」という発想から生まれました。
玩具企業のスタッフは、どうすればヒットが生まれるか、どうすればそのヒットを持続できるかを日夜考え続けています。
ポップマートは2010年創業で、2018年にMollyシリーズが爆発的に売れて頭角を現しました。当然、中国ですから、フォロワー企業が山のように生まれてきます。業界関係者は200社ぐらいは生まれたのではないかと言います。しかし、その多くが消えています。玩具の委託製造に特化しているところは割と固いですから生き残っていますが、オリジナルのIPを開発して販売しているところで生き残っているところと言えば、ポップマートと52Toysぐらいしかありません。
つまり、ポップマートは、世界的なヒット商品を生み出したという点で注目されていますが、実は、玩具企業でありながら持続可能というところに特色があります。その持続のために、ポップマートは何をしているのか。それが今回のテーマです。
ポップマートの販売方法で、キモになっているのがブラインドボックスです。ポップマートは2010年に北京市中関村からスタートしましたが、当初は流行雑貨を扱うグッズ店でした。
その中で扱っていたのが、日本のソニーエンジェル(https://www.sonnyangel.com/)です。ソニーエンジェルは1シリーズ12体があり、箱を開けてみるまで、どれが入っているかわからないという販売方法でした。この販売権を獲得したことがポップマートの大きな転機となりました。
どれが入っているかわからないので、ついつい複数回買ってしまいます。被ったものは友人にあげたり、交換したりしてコミュニケーションも生まれます。そして、誰もが2回、3回と買ってしまうため、自然にコレクションしたい、全シリーズコンプリートしたいという気持ちが湧いてきます。
また、1%以下の確率でシークレットフィギュアが入っていることも購買欲を刺激しました。シークレットは、カタログや広告などでも紹介されません。シークレットを引いた人はびっくりして大喜びします。一方、このような手法が多重買いを煽っているという批判の元になることもまた確かです。
ところが、この販売契約が2016年で終了し、ポップマートは売れ行きのいい商品を失うことになります。そこで、じゃあ、自分たちでIPをつくって販売すればいいのではないかということでオリジナルシリーズが生まれてきます。
しかし、ポップマートはただ真似をしたのではありません。独自の工夫をしました。
まず、ソニーエンジェルは日本特有の「かわいい」「癒される」キャラクターです。これが、若い女性の癒しとなり人気になっていました。しかし、ポップマートは別の路線に進むことにしました。
ここから生まれたヒットがMolly(https://www.popmart.com/jp/collection/212)です。見ていただくとわかりますが、日本の「かわいい」とはかなり趣が異なります。特に異なるのが口の形で、への字になって突き出ています。これが意志の強さを感じさせます。しかも、何かつらいことに耐えているけど、そのつらさを人には見せないようにしているように感じます。
これが中国の若者の共感を呼びました。中国で生きていくのは非常に大変で、常にプレッシャーを感じています。学生の間は詰め込み教育のプレッシャー、社会に出てからは仕事のプレッシャー。しかも、成功している人だけではありません。社会の底辺にいる人ですら、プレッシャーを感じて自分を鼓舞していかないと、社会からほんとうに脱落することになってしまうのです。日本のプレッシャーとは切迫感が違うように思います。
Mollyは、そのような自分の投影であり、そこに多くの人が惹かれました。一方、日本の「かわいい」は理想の自分の投影であり、現実の自分の投影ではありません。ここが大きく違います。
これは文化や社会の違いによるもので、どちらが優れているという話ではありません。ポップマートの製品が日本では今ひとつ人気にならないのは、やはり日本人にはピンとこないところがあるからです。一方、中国では日本の「かわいい」は小中高校生向けであり、ポップマートは大学生から社会人向けです。
そのような違いはあるものの、やはり感心をするのがもはや創業15年となり、ヒットを続けながら持続をし、しかもヒットの規模が大きくなっていることです。いったいどのようにして持続を可能にしているのでしょうか。今回は、ポップマートのビジネス手法の独特さについてご紹介します。
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