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中国版TikTokがフードデリバリーに進出。上場準備の一環か?

中国版TikTok「抖音」が、一部のユーザーに向けてテスト運用という形でフードデリバリーサービスを始めている。抖音のDAUは8億人を突破して、国民的なインフラとなっているため、正式スタートすれば一気に普及するのではないかと見られている。バイトダンスのこのような動きは、上場に向けた準備ではないかと見られているが、バイトダンス自身は否定をしていると三易生活が報じた。

 

TikTokがフードデリバリーサービスを始めた

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)がフードデリバリーを始めている。「心動外売」(ハートビートデリバリーという意味。心が動く、ドキドキするという意味もある)という名称で、飲食店が公開しているショートムービーをタップすると、メニューが表示され、料理を注文すると、宅配をしてくれるというものだ。現在は、一部のユーザーに向けて試験運用がされている。正式スタートがいつになるのかは未定。

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▲抖音の「同城」(同じ都市)のタブを選ぶと、都市内の食事や娯楽施設の公式ムービーが大量に見つかる。飲食のムービーをタップすると、フードデリバリーの注文画面が現れる。現在、一部のユーザーを対象にテスト中。

 

配送では利益がでないフードデリバリー

運営は、北京微博視界科技が行い、宅配は飲食店側が即時配送の美団(メイトワン)、ウーラマなどを利用する。既存のフードデリバリーインフラを利用するため、業界に対するインパクトは小さいものの、フードデリバリーの入り口もグルメサイトではなく、ショートムービーになる可能性が生まれてきている。

フードデリバリーはすでに配送料だけでは利益が出ないビジネスになっていて、グルメサイトを入り口にし、フードデリバリーだけではなく、飲食店のプロモーションや広告で利益を出すビジネスになっている。今回の心動外売は、ある意味、フードデリバリーの利益の出る部分だけを実行し、利益の出ない配送部分は既存のインフラに委託をするというものになっている。長期的にはフードデリバリー業界に大きな影響を及ぼす可能性がある。

 

情報の入口はテキストかムービーか。テンセントとバイトダンスの争い

抖音の日間アクティブユーザー数(DAU)は8億人を超え、運営元のバイトダンスは2021年に8.6億人達成を目標としている。中国の情報の入口となるポータルは、テンセントのSNS「WeChat」とバイトダンスの「抖音」の2つといっても過言ではない状態になっている。

すでに抖音では、商品を販売するECを始めていて、2020年の流通総額(GMV)は5000億元(約8.5兆円)を突破するという驚異的的な実績をあげている。抖音のDAUが巨大であることもあるが、商品の紹介をウェブページという静的情報で見るよりは、ショートムービーという動的情報で見る方が、購買意欲が高まりやすいことが大きく関係をしている。

特に飲食品はその傾向が強く、美味しそうに食べている映像を見れば、お腹が空いて注文したくなる。それが30分程度でデリバリーしてくれるとなると、ついつい注文してしまう人が多い。特に、食飲遊楽泊の5分野では、ショートムービーを入り口にした小売りが強く、それが抖音ECを成功に導いた。

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▲抖音はすでにECを始め、大きな成果を挙げている。「商品」タグを選ぶと、さまざまな商品のムービーが現れる。タップをすると注文画面に飛ぶ。

 

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▲商品の購入ページ。商品については、ムービーでも紹介されているので、購買意欲が普通のECよりも高くなると見られている。

 

バイトダンスの上場準備か。バイトダンスは否定

バイトダンスは、成功した抖音を起点に、ライブコマース、EC、団体購入、フードデリバリーと小売の世界に急速に参入をしてきている。海外のTikTokでも、米国や英国で試験運用、準備を行なっている。

2021年3月、バイトダンスはCFOに、小米(シャオミ)のCFOだった周受資をCFOに迎え入れた。このような動きから、バイトダンスは上場準備に入っているのではないかと観測されている。ただし、バイトダンス広報は、そのような観測を否定し、社内に上場計画は存在しないと回答している。

いずれにしても、中国で短期間に国民的インフラとなった抖音、世界に短期間に広まったTikTokの規模を利用して、バイトダンスが直接収入を得られる事業に手を伸ばしていることは確かだ。心動外売も、正式にスタートすれば、あっという間に若い世代を中心に利用が広がると期待されている。