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インドネシア政府がTikTok Shoppingを禁止に。パニックになる1000万人以上にのぼる関係者たち

今年2023年9月末に、インドネシア政府はTikTok Shoppingを禁止する措置を行った。中国製品が低価格で販売されるため、国内産業が圧迫されているという理由だ。しかし、すでにインドネシア国内にも関係者が1000万人以上いる。この関係者はパニック状態になっていると中国企業家雑誌が報じた。

 

インドネシアTikTok Shoppingが禁止に

中国では「抖音」(ドウイン)、海外ではTikTokを展開するバイトダンス。いずれでもEC機能を展開し、その流通総額は、中国では1.5兆元(約30兆円)、東南アジアでは44億ドル(約6600億円)と、バイトダンスにとって重要な収入源になっている。

しかし、インドネシアTikTok Shoppingの機能をスタートさせて2年、インドネシア貿易省は9月末にSNSでのショッピング機能を禁止するという政策を発表した。これを受けて、インドネシアTikTokからはShopping機能が削除された。

インドネシア政府がSNSのショッピング機能を禁止したのは、TikTokがターゲットになっていることは明白だ。あまりに安い価格での販売が行われるため、国内産業が圧迫されているというのが禁止の理由だ。

TikTokのショー・チューCEOは、今年2023年3月の米国での公聴会に続いて、再び大きな問題に直面することになった。

 

インドネシアの禁止令は東南アジアに波及しないのか

これはTikTokにとって決して小さくない痛手となった。TikTokにとってインドネシアは米国に次ぐ大きな海外市場となっていて、月間アクティブユーザー数(MAU)は1.25億人にも達している。2022年のTikTok Shoppingの東南アジアでのGMVは44億ドルとなり、そのうち、インドネシアは約60%にあたる25億ドルを占めている。

東南アジアのTikTok Shoppingでは、中国の販売業者も大量に進出をしており、このような人々も影響を受けている。また、このような中国の販売業者は、インドネシア現地にスタッフを雇用しており、その数は600万人に上ると推定され、さらにインドネシア国内にショートムービーを投稿して物品販売をして稼いでいるクリエイターもすでに700万人いると推定されている。このような人たちが一瞬で仕事を失うことになった。

関係者の不安は、このインドネシアの政策が他の東南アジア諸国に波及をしないかということだ。

 

不意打ちだった禁止令

TikTokの周受資(ジョウ・ショウズー、ショー・チュー)CEOは、すぐにジャカルタに飛び、インドネシアの海外投資統括大臣に面会をしたが、政府の方針を変えることはできなかった。

TikTokにとって、この禁止は不意打ちだったようだ。なぜなら、今年2023年6月には、周受資CEOは、TikTokは今後数年間でインドネシアを中心にした東南アジアに数十億ドル規模の投資をすると発言をしていたからだ。さらに、8月には、TikTokは、決済ライセンスに関してインドネシア銀行と早期に実現する方向で交渉中だと発表している。

それが9月26日に突然SNSでの物品販売を禁止する法令に署名がされた。さらに不意打ちだったのが、猶予期間がわずか1週間しかなく執行されてしまうという厳しいものだったことだ。

 

パニックになった1000万人以上の関係者

TikTokを含め、関係者は、このニュースに触れた時、一定の猶予期間が設定されるものだと信じていた。そのため、TikTokSNSとは別にECサイトを立ち上げ、TikTok内からはそちらのEC商品ページへのリンクを案内するなどの回避策を取るという見方が広まった。販売業者の多くが、次の仕事を探すよりも、しばらくはTikTok Shoppingの業務を続けて様子を見ようと考えたようだ。

しかし、猶予期間が1週間では、いくら仕事が早いTikTokでも、代替の仕組みを用意することはできない。販売業者はパニックとなり、インドネシアで普及をしているSNS「WhatsApp」や複数のSNSのアカウントを統合できるLinktreeなどで迂回する方法はないかどうかを模索している。

つまり、TikTokが早期のうちの代替手段を提供できなければ、販売業者の離脱が始まることになる。

インドネシアは、TikTok Shoppingが定着をし、中国以外でライブコマースが軌道に乗っている唯一の国になっている。この関係者たちが、行き場を失っている。

 

TikTok震災復興ガイドがネットで拡散する

一方で、インドネシア国内の大規模な販売業者、メーカー、ブランドはあまり影響を受けない。以前から、TikTok Shoppingだけでなく、ShopeeやアマゾンといったECサイトでの販売も行い、複数のチャンネルを持っているからだ。

影響を受けるのは、中国の越境販売業者、国内の中小販売業者、個人クリエイターということになる。このような人たちのために、インドネシアのネットでは「TikTok Shop ID震災復興ガイド」と呼ばれる文書が出回っている。今後、どうしたらいいかをリストした文書だ。

 

販売業者はベトナムに避難

インドネシアの販売業者たちは、すぐ隣のベトナムに大量移動を始めている。移動といってもオフィスを移転するわけではなく、ベトナムのチームと提携して、商品を提供するという形だ。このため、ベトナムやマレーシアのTikTok Shoppingがにわかに賑やかになっている。

しかし、TikTok Shopping避難民たちが恐れているのは、インドネシアの禁止政策が他国に波及をしないかということだ。すでに報道では、マレーシアやベトナムでも検討がされているという。

マレーシアの政府高官はこう述べている。「TikTok Shoppingがインドネシアで禁止された理由のひとつは、国内の販売業者を脅かすような略奪的な価格設定にある。TikTokはこのような価格設定について説明する必要がある」。

また、ベトナム政府は、ECの免許を申請する際に、申請者の情報を公開する規制に準拠していないことを問題にしている。また、市民の間には、子どもたちがTikTokに夢中になりすぎ、大人から見ると有害に見えるコンテンツに振り回されることを問題にする声もある。

東南アジア諸国TikTokTikTok Shoppingに対する風当たりは決して穏やかものではなくなりつつある。

 

ライバルECたちも迅速に動いた

東南アジアで普及をしているEC「Lazada」「Shopee」もすぐに動いた。Lazadaは、販売業者に対して「3ヶ月間手数料無料、2ヶ月間送料無料」などのキャンペーンを始め、販売業者の取り込みを始めている。また、ライブコマース機能のあるShopeeでも新規の販売業者に対する優待キャンペーンを始めている。

中国企業が東南アジアに進出する際の最大の武器は「低価格」だった。中国は標準品質の製品を安価につくる能力に関しては他国の追従を許さなくなっている。その低価格で東南アジアに進出すれば、短時間で市場を獲得できると考えられていた。しかし、あまりに低価格すぎるために、現地の国内産業を圧迫してしまうということが起こり始めている。中国企業にとっては予想もしていなかったところで、東南アジア諸国からの抵抗に遭うことになった。