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ガソリンスタンドもデジタル人民元に対応。正式運用まで実証実験が着々と進む

中国石油のガソリンスタンドがデジタル人民元に対応をした。ガソリンスタンドには以前から独自のガソリンカードが普及をしていたため、スマホ決済もあまり使われない場所になっていた。そこにデジタル人民元が利用できるようになることは、デジタル人民元の正式運用に向けて大きな弾みになると中国石油が報じた。

 

大規模実証実験が拡大をしているデジタル人民元

デジタル人民元の大規模実証実験が着々と拡大をしている。2019年には、深圳、蘇州、雄安新区、成都北京冬季五輪会場などで、市民にデジタル人民元を配布し、使用してもらう大規模実証実験が行われ、2020年になってからは、北京、上海、海南、長沙、西安、青島、大連などの10の大都市で大規模実験が行われている。

使用範囲はスマホ決済とほぼ同じ。生活関連や交通費、買い物などのシーンで使われている。

デジタル人民元は、ソフトウェアウォレットとハードウェアウォレットの両方に対応をしている。ソフトウェアウォレットは、スマホアプリで、使い勝手は従来のスマホ決済と変わらない。NFCが基本であるため、タッチ決済になる。ただし、タッチ決済を行うには、商店側に対応機器、対応レジが必要になるため、従来通りのQRコード決済にも対応している。これであれば、商店側は専用アプリを入れたスマートフォンタブレット、PCなどがあれば対応できる。

また、ハードウェアウォレットはカード型が基本になる。タッチ決済のみしかできないため、現状では利用できるシーンは多くはないが、スマホを持っていない高齢者や外国人旅行者なども簡単にデジタル人民元を使えるようになる。また、チップ型のハードウェアウォレットもあり、ファーウェイのスマホなどにはすでに組み込まれている。

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▲デジタル人民元のソフトウェアウォレット(スマホアプリ)。基本はNFCによるタッチ決済だが、店舗側の機器の準備負担を軽減するため、QRコード決済にも対応している。

 

スマホ決済が入れないガソリンスタンド

2021年4月になって、中国石油のガソリンスタンドがデジタル人民元に対応を始めた。ガソリン代の支払いだけでなく、併設されているコンビニなどの決済もデジタル人民元でできるようになった。

このガソリンスタンドでデジタル人民元が使えるようになったことは、普及に大きな弾みになると期待されている。なぜなら、ガソリンスタンドは、スマホ決済が浸透していない唯一の場所とも言える場所で、30%程度が現金、50%程度がガソリンカード、20%程度がスマホ決済という状況だからだ。ガソリンスタンドでは、利用者の利便性と囲い込み戦略のために、スマホ決済が普及する前から専用のガソリンカードを普及させていた。プリペイド方式やチャージ方式のものがある。ガソリン代の優待などもあるため、スマホ決済が普及をしても、多くの人がガソリンカードを使い続けている。

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▲デジタル人民元の大規模実証実験が着々と進んでいる。また、京東などのEC、アリペイなどのスマホ決済もデジタル人民元への対応を済ませている。

 

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▲ガソリンスタンドにはコンビニも併設されていることが多く、デジタル人民元の使用には適している場所。今まで独自のガソリンカードが普及をしていたため、スマホ決済の利用率が低い場所でもあった。

 

ガソリンスタンドを起点にデジタル人民元の普及活動

デジタル人民元で直接支払いをすることもできるが、このガソリンカードへのチャージも可能だ。中国石油は中国工商銀行と提携して、デジタル人民元のウォレットに500元(約8600円)以上をチャージすると、ガソリンが1ℓあたり0.3元割引になるキャンペーンを行った。このキャンペーンは、3月31日から始まったが、初日だけで3.12万元(約53万円)のデジタル人民元がチャージされたという。

独自のキャッシュレス決済が普及をしているため、スマホ決済がなかなか浸透しなかったガソリンスタンドで、デジタル人民元の普及活動が行われることは大きい。すでに大都市では、デジタル人民元を使ったことがある人は珍しくなくなっている。大規模実験とはなっているが、実質的にはすでにデジタル人民元の利用が始まっている状態だ。正式運用開始まで、着々と実証実験が進んでいる。

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▲中国石油と中国工商銀行は、ガソリンスタンドでデジタル人民元にチャージをすると、ガソリンが割引になるキャンペーンを行った。初日だけで、3.12万元のデジタル人民元がチャージされたという。