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QRコード決済を禁止するガソリンスタンドが拡大中。その理由は電磁波

浙江省海寧市を中心にQRコード決済を禁止するガソリンスタンドが拡大をしている。元々は「QRコード決済をしたら、ガソリンに引火をした」というデマの情報が流れ、海寧市検察院がこのデマを科学的に否定するために検証を行なった。その結果は意外なものだった。QRコードスキャン時に放射される電磁波量は突出して高かったのだ。このため、QRコード決済を禁止する動きが広がっていると老胡説三農が報じた。

 

人やパネルに接触しない「乗ったまま決済」

中国ではあらゆる支払いがスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」のいずれかでできるようになっている。ガソリンスタンドも例外ではなく、さらにコロナ禍以降は「乗ったまま決済」を可能にしているガソリンスタンドが増えている。

有人スタンドでは、スタッフがハンディの決済端末を持ってきてくれるので、車の窓越しに決済ができる。セルフスタンドでは、ディスプレイにQRコードが表示されるので、それを車の中からスキャンをし、決済をするというものだ。車から降りなくていいので便利であるばかりでなく、人やパネルに接触する機会が少ないということから広がっている。

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▲利用者に歓迎されていた乗ったまま決済。スタッフがハンディ端末を持ってきて、表示されるQRコードをスキャンすることでスマホ決済ができるというもの。しかし、一部のガソリンスタンドで、QRコード決済禁止の動きが始まっている。

 

スマホがガソリンに引火するというデマが流布される

しかし、その利便性に逆行することが起こり始めている。浙江省海寧市では、ガソリンスタンドのスマホ決済が禁止となり、市内の62のスタンドではスマホ決済が使えず、現金決済のみの対応となった。

コロナ禍で乗ったまま決済が広がり始めると、ネットではひとつのデマが広がり始めた。それは、ガソリンスタンドでスマホ決済をしたら、電磁波によりガソリンに引火をし爆発が起きたというものだ。もちろん、そんな事故は起きていない。

そこで、海寧市検察院は検査部門に、ガソリンスタンドでのスマホ使用の安全性を科学的に立証するように命令を下した。検査部門では、専門家を交えて、一般的なスマートフォンの待受状態、動画再生状態、QRコードスキャン状態、通話状態の4つの状況での単位面積あたりの電力密度を測定することにした。

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▲ネットでは、ガソリンスタンドでQRコード決済をしたらガソリンに引火をしたというデマが流布されていた。現実には、タバコやライターからの引火事故は起きているものの、スマホからの引火事故は確認されていない。

 

意外な検証結果:QRコードは引火リスクが高い

その結果は意外なものだった。QRコードをスキャンしているときの電力密度は高く、通話時のほぼ2倍もあったのだ。専門家は、ガソリンスタンドでの携帯電話の使用は、QRコードスキャン時に最もリスクが高くなると結論づけた。

さらに、2008年から施行されている「ガソリンスタンド作業安全規範」では、スタンド内での喫煙、通信デバイスの使用が禁じられていて、具体的に携帯電話とポケットベルが名指しで使用が禁じられている。もはや古い規則であるとはいうものの、規則を改定するにはそれなりの科学的根拠が必要で、今回の海寧市検察院では、古い規則を改定するどころか、スマホの禁止を強化する結果になってしまった。

電力密度が高いと、それだけ多くの電波が放射され、それが周辺の金属片にあたると火花が発生することがあり、それが空気中に漂う気化したガソリンに引火する可能性は否定できない。そのため、スマホの使用そのものを厳格に禁じているガソリンスタンドは少ないものの、通話をするときは、車内やスタンド敷地内ではなく、店舗屋内でするように指導をしているスタンドは多い。

海寧市検察院は、このような結果を受けて、ガソリンスタンドでのQRコードスキャン行為を禁止する通知を出さざるを得なかった。

この動きは、海寧市だけでなく、南京市、蘇州市、洛陽市などにも広がっている。

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▲「スマホ操作でガソリンに引火」というデマを科学的に否定するために海寧市検察院が行った検証結果は意外なものだった。QRコードスキャン時には電磁波が大量に放射されるため、引火リスクは最も高いというものだった。

 

QRコード禁止により、顔認証決済、ETC決済、アプリ決済に追い風

ガソリンスタンドによっても異なるが、このスマホ決済禁止の影響は限定的なようだ。なぜなら、ガソリンスタンドを利用する消費者は、もともと30%程度が現金決済、50%程度が専用のガソリンカード(プリペイド方式、チャージ方式)で、スマホ決済を使うのは20%程度だからだという。

ガソリンスタンドでは、むしろガソリンカードを広げるいい機会だと捉えられている。さらに、乗ったまま決済ができるETC決済の導入も検討されており、今回のスマホ決済禁止はETC決済の導入にいい追い風となると考えられているようだ。

また、中国石化では、アプリ決済である「ワンタップ給油」の対応スタンドの拡大を急いでいる。これはアプリから支払いができるというもので、QRコードをスキャンする必要がなく「乗ったまま決済」を実現できるものだ。

当のWeChatペイでは、QRコードを使わないNFC接触形式で、ガソリン代が支払えるミニプログラムの開発が始まっている。スマホ決済禁止は、確かに利便性を低下させてしまうが、禁止になればなったで、他の決済方式が隙間を埋めるように入り込んでくるようだ。

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▲ガソリンスタンドでは、QRコード以外の決済の普及が急がれている。顔認証決済、ETC決済、アプリ決済などの導入が始まっている。