中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

月給1.7万元がひとつの目標。ごく普通のITエンジニアはいくらもらっているのか

中国のエンジニアの報酬の話になると、どうしても大手テック企業の並外れた高給の話が伝わりやすい。しかし、ごく普通のITエンジニアはいったいいくらぐらいの報酬をもらっているのだろうか。CSDNでは、ITエンジニアに対する広範囲の調査を行なった結果を「2020-2021中国開発者調査報告」として公表した。

 

中国の普通のITエンジニアの報酬はどれくらい?

中国のITエンジニアの報酬というと、テンセントの平均年収が80万元(約1400万円)だとか、ファーウェイが新卒入社で201万元(約3400万円)の初任給を出したとか、どうしてもそういう話が伝わりやすい。

中国のトップクラスのテック企業の報酬が高いのは当然だが、ITエンジニアは各事業会社にもたくさんいる。そのような普通の人たちの報酬というのはどのくらいなのだろうか。

1999年から運営されているIT開発者の情報プラットフォームChinese Softoware Developer Network(CSDN)では、毎年、ITエンジニアの現状に関する調査を行っている。その最新版「2020-2021中国開発者調査報告」(CSDN)にリアルなITエンジニアの現状が紹介されている。

 

想像通り、多くのITエンジニアは若い男性

想像通り、中国のITエンジニアの81%は30歳以下で、40歳以上は3%にすぎない。一定年齢(よくITエンジニア35歳引退説が言われる)になると管理職になるため、高年齢のITエンジニアは多くない。現在でも管理者を目指しているのは54.09%であり、管理者にはならず現場にいたいと回答したのはわずか9.4%だった。

また、圧倒的に男性が多い世界だが、若い世代では女性割合がわずかながら上昇している。また、大卒以上の割合も若い世代ほど小さくなる。女性エンジニアだけでなく、大学以外のルート(専門高校、専門学校など)にも広がっていることがわかる。

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▲ITエンジニアは圧倒的に男性が多い。しかし、若い世代では女性比率があがり始めている。

 

月給1.7万元がひとつの達成目標になっている

月給の分布を見ると、月給8000元(13.7万円)から1.7万元(約29万円)の階級に中央値がくることがわかる。多くのITエンジニアの間で「月給1.7万元」というのがひとつの指標になっていて、それを達成したいと考えている人が多いようだ。

この1.7万元を超えている人の割合を地区別に見ると、圧倒的に多いのは北京市だ。北京は住宅などあらゆる物価が高いので、ある程度の報酬をもらわないと生活が成り立たないという理由もある。

また、男女別に収入分布を見ると、男性の方が高い傾向がある。しかし、女性エンジニアが増え始めたのは最近のことであり、女性エンジニアの年齢や勤続年数は短い傾向にある。これにより、収入分布が低くなっていることも考えられる。

また、エンジニアが所属する企業の業種別に見ると、1.7万元以上の人の割合が最も多いのは金融業となった。

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▲ITエンジニアの月給の分布。8000元から1.7万元が最も多く、多くのエンジニアが1.7万元の給料を超えることを目標にしている。

 

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▲1.7万元以上のエンジニア割合が高い都市。北京市が圧倒的に多い。また、深圳、広州などがある広東省、上海、杭州がある浙江省が高くなっている。

 

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▲男女別の収入分布。女性の方が低収入になっているが、若い世代の女性比率が多いため、年齢と勤続年数の影響もある。

 

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▲エンジニアが所属する企業の業界別の収入分布。最も収入が高いのは金融業界のエンジニアだった。

 

高給の企業は労働時間も長いのか?

報酬の高さは、労働のプレッシャーと合わせて考えないと評価できない。いくら高い報酬をもらっていても、過度な長時間労働になっていたのでは意味がない。

中国の労働法では、週40時間が基本で、残業は1日3時間以内と定められている。つまり、国営企業などの残業がない職場では40時間、残業のある民間企業では55時間が基本になる。

しかし、これはあくまでも雇用主が定められる上限であり、従業員が自主的に残業をするのであれば、すぐに違法性を問われることはない。もちろん、それが本当に従業員による自発的な残業なのか、雇用主が暗に強制をしているのかは常に問題になり、労働仲裁が行われている。

この長時間労働を示す言葉が996だ。朝9時から午後9時まで週6日勤務のことで、週の労働時間は72時間になる。また、最近は10107という言葉も生まれている。朝10時から夜10時までの週7日勤務のことで、日本でいうブラック労働で、労働時間は週84時間になる。

 

意外にも過重労働企業の報酬は高くない

この労働時間と報酬の関係を調べると、1.7万元を超える人の割合が最も多いのは55時間+あたりになる。つまり、労働法をきちんと守っているか、わずかに違反する程度の企業が最も報酬が高い。それ以上、労働時間が長くなれば長くなるほど1.7万元を超える人の割合は少なくなっていく。

また、101007である84時間を超えると、低賃金割合が急激に上昇し、名実ともにブラック労働になっていることがわかる。

また、近年ではテレワークを含み、完全フレックスタイムのテック企業も増え始めている。そのような働き方では、1.7万元を超える人の割合が最も多くなった。ただし、完全フレックスタイムは労働法の規定から外れるので、労働時間は84時間以上になっている可能性もある。フレックスタイムでは、低賃金割合も最も高くなっている。

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▲労働時間と収入分布の関係。過重労働になっている企業では、収入も低い。むしろ、労働法に適合しているか、ややオーバーしているあたりの企業の報酬が高くなっている。また、フレックスタイムでは高収入も多いが、低収入も多いという結果になった。

 

中国でも二極化をするホワイト企業ブラック企業

ITエンジニアが996を批判するのは、単なる長時間労働だけではない。労働法の観点から問題のある働き方を強制するような企業は、報酬面でも従業員のことをあまり考えない。中国のテック企業は、労働法を遵守し、報酬も手厚いホワイト企業と、労働法を無視し、低賃金をさせるブラック企業の2つに二極化をしているようだ。