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中国政府は、北京冬季五輪をスポーツだけでなく、テクノロジーのオリンピックとしても活用しようと考えていました。五輪は、世界中から旅行者、メディアがやってきて、国内からも多くの中国市民が観戦にやってきます。その機を捉えて、テクノロジーの進化ぶりを国内外に発信しようと数年前から計画をしていました。
それがコロナ禍による無観客開催となり、思惑は大きく外れてしまいました。これは東京五輪も同じで、実に残念なことだと思います。
そのため、五輪周辺のテクノロジーはほとんど報道されることもありませんでした。目についたところでは、選手村食堂の自動調理ロボットシステムぐらいです。しかし、中国政府は各大学、各テック企業に数年前から五輪の時期を目指して、さまざまな開発をするように促し、その成果が生まれています。今回は、その中から企業が五輪に向けて開発をしたテクノロジーをご紹介したいと思います。
大学などもこのテクノロジー五輪とでも呼ぶべき活動に参加をし成果をあげていますが、大学の方はやはり基礎研究的なものが多いため、今回は割愛し、製品に直結する応用技術に集中をした企業の成果を中心にご紹介します。
まず大きいのが、デジタル人民元です。デジタル人民元は、スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」とは異なり、法定通貨であるため、手数料などは一切かかりません。スマートフォンのソフトウェアウォレットによる決済はNFCによるタッチ決済が基本になります。ただし、決済端末が普及をするまでの間、過渡期の処置としてQRコード決済にも対応しています。
さらに、ハードウェアウォレットにも対応をしています。最も一般的なのはNFC対応のプラスティックカードです。これは身分証明証などは不要で発行することができるため、外国人旅行者も空港などで入手することが可能になります。
今まで、外国人旅行者にとってアリペイ、WeChatペイは決して使いやすいとは言い難いものでした。まず、アカウントをつくるにも、現状では「中国国内の携帯電話番号」「中国の身分証明証」が必要になります。このアカウント開設に必要な条件は頻繁に変わり、外国人にとっては混乱の元となっています。私の場合は、ずいぶん昔につくったので、日本の携帯電話番号と日本のパスポート番号で作成することができましたが、年々条件が厳しくなっているようです。
アカウントがつくれても、使えるとは限りません。なぜなら、国際クレジットカードからのチャージには対応してなく、中国の銀行口座が必要となります。現在は、国際クレジットカードからアリペイの場合はTourPassというサービスを使ってチャージができますが、残高の上限は1万元(約19万円)で、5%の手数料が取られます。おそらく日本円を銀行で両替して現金で払った方が得になります。
宿泊をするホテルでも両替サービスをしているのだから、人民元の現金ではなく、アリペイに送金してくれたらいいのにと思い、頼んでみたことが何回かありますが、ことごとく断られました。スタッフによると、両替サービスの免許が指定した業務範囲を逸脱することになるからだと言います。これが本当の話なのかどうか、まだ調べきれていません。両替サービスに関わっている人に尋ねると、この話には首をひねり、単にホテル側の帳簿管理や税務処理が面倒になるので断っているのではないかと言います。
私の場合は、中国茶や食品、骨董といった伝統品を扱う知り合いがいるため、その知り合いに現金を渡して、私のアリペイなどに送金してもらう形でチャージをして使っていました。伝統品を扱う商店は、未だに現金決済も多いため、嫌な顔はせず気軽に両替してくれます。そのお店で商品を買うなどすれば、両替手数料なども要求されません。
それでも、使えるのは対面決済や自動販売機などに限られます。中国の身分証による本人確認がされていない、中国の銀行口座が紐づけられていないという状態だと、リモート決済がほとんどできません。デリバリーやECが使えないのです。つまり、スマホ決済を便利に使おうと思ったら、中国の銀行口座と、そして多くの場合、中国の携帯電話番号が必要になります。長期滞在をするのであればともかく、数日程度の旅行者にとってはハードルが高い条件です。スマホ決済は決して外国人に優しくありません(これは日本のバーコード決済も同じで、外国人が利用をするのにはハードルがあります)。
デジタル人民元は、外国人にとっても使いやすい決済ツールになります。NFCカード式の無記名ハードウェアウォレットであれば、空港で入手をして、ホテルで通貨両替をするときに、現金かデジタル人民元かを選べるようになります。現金とデジタル人民元はどちらも法定通貨であり等価であるため、両替免許などの問題が生じないからです。また、小さな商店などは面倒くさがるということはあるかもしれませんが、決済ができる場所であればチャージもできるようになります。普及をすれば、私たちにも非常に使いやすい決済ツールになります。
ただし、コロナ禍による無観客になったため、デジタル人民元は、現在、北京、上海、西安、成都、大連など10ヶ所の試用に留まっており、正式展開については現在のところアナウンスはありません。コロナ禍が終わらなければ、外国人旅行客もほとんどいませんが、コロナ禍が明ければ、インバウンド収入獲得の強力なツールになると期待されています。
もうひとつ、冬季五輪に合わせて進められていたのが、百度(バイドゥ)のロボタクシーです。こちらは北京市などで、計画通り、営業運行を始めました。また、従来はL4自動運転であるために安全監視員が乗車をするというものでしたが、現在は完全無人になっています。
と言っても、人の介在がないわけではありません。百度の自動運転センターには、5G通信を利用したモニター付きの運転席が多数用意され、人間の安全監視員が遠隔監視を行なっています。見た目はゲームセンターのようです。車両に問題が発生した場合は、人が遠隔運転をする仕組みです。
現在は、1人の安全監視員が1台の車両を担当していますが、いずれ複数の車両を担当するようになると見られています。自動運転のアルゴリズムは、問題が生じた場合はとにかく停車をするというものなので、安全監視員の仕事は、安全停止をした車両の状況を確認をし、問題を回避するための遠隔運転を行い、自動運転に復帰させることです。なので、1人で複数台を担当することが可能で、さまざまな実証実験では、3台程度の監視であれば問題がないという結果が出ています。
ロボタクシーは順調に進展をしていますが、これも残念ながら、無観客になったことで利用する人がほとんどいないということになってしまいました。
冬季五輪に直接関係のあるテクノロジーで話題になったのは、開幕式、閉幕式が行われた国家体育館、通称「鳥の巣」に採用されたフィールドディスプレイです。このLEDディスプレイは、競技場のフィールド10393平米に敷き詰められ、解像度29900×15096ピクセルというもので、ディスプレイメーカーの京東方(ジンドンファン、BOEテクノロジー、https://www.boe.com)が担当しました。解像度は8K以上であり、正面席からの角度を意識した映像を表示するとあたかも3Dであるかのような表現も可能です。
今後、五輪級の国際大会の開幕式、閉幕式のイベントでは、ひとつのスタンダードスタイルとなりそうです。
しかし、開発は簡単ではなかったようです。フィールドディスプレイに映像を表示し、それをフィールドのパフォーマーと連動させる必要があるために、画像表示の遅延は許されません。BOEではこの信号遅延を短縮する技術開発に力を注ぎ、最大で32m秒まで短縮することに成功し、ここがこのフィールドディスプレイ技術の最大のポイントになっています。
また、屋根があるとは言え、屋外であることから耐低温、降雪を想定した耐水、さらには人がその上でパフォーマンスをすることから耐圧などにも工夫が必要だっということです。
BOEが最も恐れていたのは、4万2000枚のLEDパネルが組み合わされたディスプレイの電源喪失だったそうです。1枚のパネルの電源が失われてしまうと、そこだけ黒く抜けた穴のようになってしまいます。そこで、電源は4系統で供給をし、1つの系統が失われると、自動的に別系統に切り替わる仕組みも採用されました。
開幕式で、最もこのフィールドディスプレイがうまく活用されたのが、「雪花」と名付けられたパフォーマンスです。500人の少女が、平和の象徴である鳩のぼんぼりを持ち、最初はフィールド上に散らばってバラバラに駆け巡っているのに、次第に聖火台を中心に集まり、ハート型を型取り、聖火台への点火が行われるというものです。
https://www.youtube.com/watch?v=_myAvYtS3DA
▲NHKの北京冬季五輪開幕式の総集編。5:20あたりから雪花のパフォーマンスが始まります。
この少女たちの動きに合わせて、フィールドディスプレイには、少女の動いた軌跡に雪花の模様が描かれました。
この軌跡の雪花模様の映像はリアルタイムで生成しています。インテルの3DAT(3Dアスリートトラッキング)技術が採用されました。
https://www.douyin.com/video/7060885174229208350
▲インテル中国による雪花で使われた3DATテクノロジーのメイキングビデオ。中国語、中国語字幕ですが、概要がわかっていれば内容を理解することはできます。
元々は、サッカーなどの試合で、選手の1人1人を画像認識で追跡し、その3D座標を計算し、ボールの支配率や各選手の走った距離を視聴者にデータとして提供をしたり、後で戦略分析をする基礎データとして使うというものです。
鳥の巣に4台のカメラが設置され、500人の少女たちのトラッキングを行い、座標を計算した上で、フィールドディスプレイに雪花の軌跡をリアルタイム生成して表示しています。インテルとしても、一気に500人規模のトラッキングを行うのは初めてのことで、大きな挑戦だったと言います。
ところで、完全に余談ですが、北京冬季五輪の開幕式について、日本のメディアは「2008年の北京五輪開幕式と異なり、政治色は薄く」という報道が多かったように思います。ところが、実はこの雪花の演出に、政治問題がひっそりと仕込まれていました。中国人であればピンとくるけど、外国人は見逃してしまうような演出で、中国もこういうスマートな演出ができるようになったのだと感心をしました。テクノロジーとは直接関係はありませんが、私の知る限り日本のメディアは触れていないので、ここで簡単にご紹介したいと思います。
そして、これ以外にも五輪をターゲットに多くの企業がテクノロジー開発を行い、その成果を発表しています。どのような企業がどのようなテクノロジーを開発したのかをご紹介していきたいと思います。
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