中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

日本のソフトウェア開発はなぜ世界から落伍したのか。中国人エンジニアの見方

 

日本のソフトウェア開発はなぜ落伍したのか。中国のエンジニアの間でも話題になることが増えている。未来樹Aは、その理由をエンジニアの視点で解説をしている。委託開発が多い。システム開発の目的がイノベーションではなく、生産性の効率向上に留まっている。政府、地方自治体の案件が上位企業に集中するため、ベンチャーが育たないという理由を挙げている。

 

中国でも話題になっているCOCOAの件

日本でも話題になっているが、中国でも接触確認アプリ「COCOA」の件が、エンジニアの間で話題になっている。中国では、位置情報とQRコードを活用した健康コードが、2020年2月11日という早い段階で、アリババと杭州市によって開発され、1月ほどで他都市にも広まった。感染リスクが高いと判定されると赤になり、公共交通や店舗の利用ができなくなる。不便は強いられるが、それでも、生鮮ECやフードデリバリーが発達をしているため、生活はなんとか維持ができる。感染リスクの高い人は外出自粛をし、感染リスクの低い人で経済を回すという方法で、コロナ禍を乗り切ってきた。

健康コードは、感染抑制に大きく貢献をしたが、日本のCOCOAの問題は、驚きを持って報じられている。一般の中国人にとっては、まだまだ日本は先進国のイメージが強く、衛生観念も高く、民度も高い国だと思われている。その日本が、感染予防アプリひとつ満足に作れず、何度も感染拡大を起こしているのか、理解に苦しんでいるのだ。

一方で、エンジニアの中には、日本で働いた経験や日本企業と関わりのある業務の経験がある人も多く、日本が抱えている課題をかなり正確に把握している。そのようなエンジニアの一人が、日本のITの課題を解説している。外から見た解説なので、異論がある人も出てくるかもしれないが、本質の部分はかなり正確に把握しているのではないかと思う。

 

海外のツールを使っても、成果物が海外に出ない日本

日本、米国、中国、ドイツ、フランスのソフトウェアエンジニアの統計を見ると、この5カ国の中で、日本の国際競争力は最低であることがわかる。この5カ国で、同じ条件の開発を行なった場合、日本のエンジニアの単位時間あたりの賃金は最低で、なおかつ労働時間は最長になる。多くのテック企業で、労働環境と人材管理の問題を抱えており、それが国際競争力を失わせる原因になっている。日本の開発環境はそのほとんどすべてが海外のツールを使っているのに、海外に輸出されるソフトウェアは皆無に近い。

また、ITの価値の中心がハードウェアからソフトウェアに移ったのに、日本政府はいまだにハードウェアを中心にした政策を行っている。これも国際競争力を失った原因になった。

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▲IMDランキングの主要国の2020年の順位。日本はすでに米中ドイツの上位グループからは脱落している。

 

自分で業務システムを開発しないユーザー企業

日本コンピュータソフトウェア協会の統計によると(注:同協会のリンクから閲覧できる情報通信白書や情報処理推進機構の統計が引用されている)、日本のソフトウェアは委託開発が88.3%、パッケージソフトが11.7%になっている。一方、米国では委託開発が33.8%、パッケージソフトが29.0%で、ユーザー企業自身による内製ソフトウェアの比率が大きい。つまり、日本のユーザー企業のほとんどは、自社の業務システム、業務ツールを自分では開発をせず、委託をしている。

 

業務から遠い場所で開発される日本のシステム

そのため、日本のソフトウェアエンジニアも多くが受託開発をするSIer、ベンダー企業に所属し、ユーザー企業のエンジニアの仕事は、開発ではなく、これらの外部企業の製品をいかに組み合わせるかを考えることになっている。

情報システムや業務システムは、事業にとって非常に重要な作用をするが、委託開発をしたパーツを組み合わせる方式では、新たな事業を生むことや、事業の価値を増加させることはきわめて難しい。また、完全委託開発をする場合でも、業務について詳しくないSIerのエンジニアが開発をするため、業務にしっかりと適合するシステムを開発することが難しい。内製が主体の米国などでは、エンジニアが業務と近い場所で開発をするため、使いやすくイノベーションをも可能にするシステムが生まれてくる。

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国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表しているデジタル国際競争力のアジア各国の順位の推移。日本の順位の低下ぶりが報道されるが、主要アジア各国が順位を上げる中で日本は低迷している。日本のライバルはマレーシアであるという事実をもっと認識しなければならない。

 

業務効率を高めることが日本の開発の目的になっている

中国と米国では、投資機関が積極的にIT投資を行うので、大量のユニコーン企業を生み出している。また、世界でトップ10のテック企業のうち、6つは中国と米国のプラットフォーマーになっている。

このようなプラットフォーマーは日本からは生まれない。中国、米国のIT投資の目的は、プロダクトやサービスの価値を高めることだが、日本のソフトウェア開発は、業務の正確さを高めるためか、自動化などをしてコストを下げることが目的になっているからだ。新たな価値を生むわけではないため、投資機関は投資がしづらい。

もちろん、日本は少子化が進み、生産人口が減少しているため、業務効率を高めることは大きな課題になっている。しかし、それが、中国や米国だけでなく、アジア各国よりも競争力が低下する原因になっている。

 

中国のエンジニアたちは、思ったよりも日本の状況を把握している

未来樹Aは、日本のIT産業の問題を3つにまとめている。

1)半数以上の開発が受託開発であり、他人が使うものを作っている

2)ソフトウェアの価値は、受託開発企業の規格や能力により決定されてしまう

3)上位10社の企業で、政府開発業務の80%を受託している

読者の中には、日本のテック企業で働いた経験がある人もいるようで、さまざまなコメントがついている。

・日本のITが競争力を失っているって幻想だろ?根拠はないけど…。

・日本の最大の問題はミスを許容できないこと。製造業の思想がそのままIT産業でも適用されている。IT産業は進化が早いので、ミスを許容してでも新しいテクノロジーに対応していかなければならない。日本は、意味なく、小さなミスを出さないようにするための努力をし、多くの時間と人材を浪費している。

・日本は、世界中で使われる言語Rubyが生まれた国であることをこの著者は知らないのか?中国はそれほど影響力のある言語を生み出すことができているのか。中国のIT産業は中国内だけで独立して発展したもので、国際的な競争力はとても小さい。イノベーションを起こすには、謙虚な姿勢が大切だ。

・読んで納得がいった。中国、米国の開発の目的はイノベーションで、新しい業態を生み出すことだが、日本の開発の目的は生産性の向上か、オフラインの業務をオンライン化するだけでイノベーションがない。

・米中はソフトウェアが強い、日欧はハードウェアが強い。

「耳が痛い」と思われる方もいるかもしれない。それだけ、中国のエンジニアたちが日本のIT状況をよく把握しているということだ。