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今回は、日本にも上陸して話題のブランドSHEINについてご紹介します。
早速、知財のパクリ問題、プロの目から見た場合の低品質問題などが話題となり、いかにも中国ブランドというイメージになりつつありますが、そのようなネガティブな部分が中国らしくもあれば、優れたポジティブな部分も中国らしい企業です。
SHEINのポイントは次の5つになります。
1)広州市番禺区の服飾生産地帯=下町工場を基地にしていること
2)AIアシストによる効率的なデザイン作業
3)小ロット生産から始める独特の発注システム
4)可処分所得の少ない女子大学生をターゲットにしたこと
5)KOCを活用し、消費体験を変えたこと
このうち、重要なのは3の小ロット生産と5のKOCの活用です。
SHEIN(希音、シーイン)の創業は2011年と古く、本格的な成長が始まるのは2017年からです。意外と雌伏の期間が長くあります。1から4のポイントは、この雌伏期間に試行錯誤をしながら獲得していったもので、イノベーションというより徹底した改善に近いものです。あるいは持続的イノベーションと言ってもいいかもしれません。既存の枠組みをどう改良すれば、より優れた結果が導けるか。SHEINはここに関しては徹底をしています。
これにより、SHEINが常にライバルとして目標にしていたZARA(ザラ)が企画から製造、出荷までが30日から60日というアパレル業界では脅威のスピードを誇っていましたが、SEHINはわずか2週間ほどで可能にしてしまいました。小さな改善を積み重ねて整理をしていくと、別次元の効果を生むということの好例になっています。
創業者の許仰天(シュー・ヤンティエン)はエンジニア出身です。青島科技大学でコンピューター科学を専攻していました。2007年に卒業した許仰天は、越境ECのシステム開発に興味を持っていました。タオバオのように、販売業者と購入者をマッチングしたら、後は宅配便企業にお任せというのではなく、輸出や税関、国際物流、法令までシステムで管理をしなければならい複雑さに挑戦しがいを感じていたのかもしれません。
そこで、越境ECのシステム開発をしていた南京市の奥道情報技術に就職をして、エンジニアとなりましたが、仕事は検索エンジン最適化のSEO対策エンジニアリングでした。ウェブの構造を工夫して、検索エンジンの上位に表示されるようにする業務です。
社会に出ると、許仰天は業界情報に耳を立てるようになりました。すると、ウェディングドレスがものすごく儲かるという話を耳にします。
中国ではウェディングドレスが大量に生産されています。中国では日本のような結婚式を開く人はあまり多くありません。友人を招いて会食やパーティーをすることはあっても、みな普段着で参加するような感覚です。むしろ、農村の方が派手な結婚披露宴をするほどです。
ただし、結婚式という改まったことをしなくても、必ずするのが「婚紗照」です。婚紗とはウェディングドレスのことで、照とは写真のことです。ウェディングドレスを着て写真館で1枚だけ撮るなどという地味なものではなく、景色の素晴らしい場所に行って何枚も撮影します。専門の演出家がついたり、後で特殊効果を加えたりすることも珍しくありません。場合によっては海外にまで撮影に行ったりします。大量の写真を撮り、アルバムを作成し、夫婦の部屋に飾っておくというのが一般的です。
結婚式が地味である分、この婚紗照にはお金をかけます。ウェディングドレスもレンタルでいいような気がしますが、何着も購入する人もいるようです。中国独特の習慣です。
これにより、どこの都市にもウェディングドレス専門店街というのがあります。結婚する人誰もがウェディングドレスを買うという大きな需要があるため、大きな産業になっているのです。
許仰天が耳にしたのは、中国で生産されたウェディングドレスを米国に持っていき、売ることができれば10倍の価格でも売れて、大儲けできるという話でした。調べてみると、確かにその話に間違いありません。しかし、輸出の手続きや米国での販売拠点の構築が難しく、誰も手をつけていないビジネスでした。
当然、これは最初に手をつければ大儲けができると許仰天は考えました。自分がやりたかった越境ECのシステム開発にも取り組めます。
許仰天は、2人の友人と一緒に、2008年10月に南京点唯情報技術を設立して、中国で生産されたウェディングドレスを米国でオンライン販売するビジネスを始めます。これが大成功でした。面白いように儲かったのです。
しかし、すぐに問題が生じます。
ひとつは儲かるということがわかると、続々とライバルが出現したことでした。2010年9月にはJJ’s Houseというブランドが、まったく同じ、中国生産のウェディングドレスを米国でオンライン販売するというビジネスを始めました。このJJ’S Houseの運営企業「蘇州楽貝科技」は、ソーシャルEC「ピンドードー」系の会社です。当時はピンドードーはまだ創業されていませんが、蘇州楽貝科技の大株主は、現在のピンドードーの会長CEOとCOOです。
つまり、SHEINの前身企業とピンドードーの前身企業が、米国でウェディングドレスをめぐって競争をしていたのです。現在、米国でSHEINとピンドードーの米国版「Temu」が競争をしているのは因縁を感じざるを得ません。
もうひとつの問題は、ウェディングドレスのビジネスは、リピーターが養成できないということです。現実にはそうでなくても、結婚式は一生に一回のことであり、また同じところでウェディングドレスを買うと考える人はいません。そのため、常に新規の顧客を集客しなければならず、新規顧客の獲得に大きな労力が必要になるビジネスであるということがわかりました。
許仰天は転換をするなら今しかないと思いました。ウェディングドレスのビジネスはいずれ行き詰まる。今なら稼いだお金がある。今のうちに別のビジネスに転換すべきだと考え、女性アパレル全般を扱うことにして、2011年にSheInsideというブランドを立ち上げました。これが2015年にリブランドしてSHEINとなります。そのため、SHEINをシャインと読む人もいますが、成り立ちからシーインと読むのが正しいように思います。中国名も「希音」で読み方はシーインです。
SHEINが、ウェディングドレスを縮小していったため、ライバルのJJ’s Houseは2016年に世界最大のウェディングドレス専門越境ECとなりましたが、やはりビジネスは先細りとなり、SHEINを見て、女性アパレル全般のFlorydayを立ち上げ、ここでもSHEINと激しく競い合います。
しかし、当時は両方のブランドともに、中国で生産された衣類を米国で売るだけという工夫のないものであったために、安売りブランドとしてあまり注目はされていなかったようです。
それが変わったのは、2015年頃からSHEINが積極投資をして、体制を整え始めてからです。SHEINはZARAをモデルに体制構築を学び、さらにZARAを超えるにはどうすればいいのかを考えるようになります。ここからSHEINの本格的な成長が始まります。
ここからSHEINはアパレル業界の常識を塗り替えていくことになります。今回はSHEINが米国で成功した理由についてご紹介します。
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