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清華大学はなぜ「中国のMIT」と呼ばれるのか。清華大学から生まれた捜狗と快手(下)

北京市清華大学は、中国のMITと呼ばれるほど、優秀なエンジニアの供給源となっている。それはインターネットの黎明期から、清華大学の卒業生がテック業界で活躍し、それに憧れて全国から優秀な理系学生が集まるようになったからだと騰訊網が報じた。

 

卒業生が成功することで生まれた「中国のMIT」

中国の北京市にある清華大学(チンホワ)は、1911年に米国留学の予備校として設立された清華学堂を起源とする大学で、北京大学と並んで、国際感覚のある人材を輩出してきた国家重点大学だ。近年では、中国のMITと呼ばれ、研究エンジニアを多数輩出している。そのイメージができあがったのは、70年代生まれの清華大学卒業生たちが、中国のIT業界で活躍をしたからだ。

特に有名なのが、捜狗を創業した王小川(ワン・シャオチュアン)と、快手を創業した宿華(スー・ホワ)の活躍だ。特に、ショートムービープラットフォーム「快手」は、バイトダンスのTikTokの強力なライバルになっている。

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▲中国北京市にある清華大学。多数のITエンジニア、創業者を輩出し、中国のMITと呼ばれている。多くのテック企業で、清華大学卒業生のエンジニアが活躍している。

 

清華大学エンジニア第2世代の宿華

捜狗がテンセントの傘下に入った頃、清華大学の博士課程にいた宿華(スー・ホワ)は、24歳になり、マンション価格の高騰に怯えていた。清華大学IT技術を学んで、エンジニアとなり、お金を稼いで、北京にマンションを買う。そこに両親を呼び寄せて暮らすのが宿華の願いだった。

清華大学に入学した時、宿華は機械工学学部を専攻したが、すぐに「この大学にはウェブ開発を行なって10万元の給料をもらっている人がいる」という話を聞いて心を動かした。

当時、「大腕」というコメディ映画が人気を博していた。その中で、捜狐をもじった「捜狗」というブランド名が登場し、観客が爆笑をする。当時は、まだ捜狗が存在せず、イメージのいい狐ではなく、惨めな様子を形容するのに使われる狗(犬)に置き換えたものだ。宿華にとっては、驚きだった。すでに捜狐は、普通の市民までが知るポータルサイトになっているのだ。

宿華はすぐにコンピューター科学に転科をして、プログラミングの勉強を始めた。

しかし、マンション価格が高騰し、マンションを買うのは夢のまた夢になってしまった。考えた宿華は、博士課程を中断することにした。学んでいる場合ではない。すぐにお金を稼がなければと考えたのだ。

宿華は、グーグル中国に入社した。年棒は15万元(約250万円)だった。

 

GIFを使ったショートムービーを発想する宿華

グーグル中国で1年働いた後、宿華はお金を稼ぐため、起業をして勝負をかけようと考えた。宿華が注目したのは動画共有プラットフォームだった。しかし、この起業は失敗に終わる。そして、百度に入社して、広告管理プラットフォームの「百度鳳巣」の開発に携わる。宿華は創業の気持ちを失っていなかった。33の起業アイディアを準備してみては断念することを繰り返していた。

2011年3月、29歳になった宿華は、ベンチャーキャピタル「晨興資本」(現・五源資本)の程一笑(チャン・イーシャオ)と会う機会を得た。そこで、話をしたのは、GIF動画を使ったプラットフォームのアイディアだった。すでに宿華は、この時点でスマートフォンがインターネットの基本デバイスになると感じていた。しかし、通信環境は2Gであり、動画を送り合うというのは無理なことだった。それでも、容量が小さなGIF動画であれば送り合うことができる。いずれすぐにスマートフォンの通信環境はよくなり、リッチな画質の動画をスマートフォンで見る時代が遠からずやってくるだろう。だから、GIF動画で先鞭をつけておきたい。

その日、程一笑は2人で20本以上のビールを飲み、酔いが回った中で、宿華の「GIF快手」の起業に200万ドルを投資することを決めた。

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▲ショートムービープラットフォーム「快手」は、TikTokの強力なライバルとなっている。地方ではムービーの拡散力が高いことに気がつき、地方市場に特化することで成功してきた。

 

地方では動画の拡散力が高い

これはまたとない宿華の幸運だった。程一笑は創業資金の80%を出資するが、その株式の半分は宿華に譲渡をした。晨興資本は20%の出資をするが、その半分以上を宿華に譲渡した。宿華は、1元も出資していないのに、50%以上の株式を握り、GIF快手の経営権を掌握することができた。しかも、携帯電話ネットワークの進化は早く、創業準備をしている間に3Gが始まり、4Gの話も浮上してきた。

宿華は、GIF快手の開発と運営をしながら、地方市場の方が拡散力がはるかに早いことに気がついた。地方や農村は、都会のように娯楽が多くはないので、面白い動画というのは早く伝播をし、広く拡散する。

この地方=下沈市場の拡散力に気づいたGIF快手は、下沈市場に適した動画の投稿を促し、下沈市場に適した広告営業を行い、ユーザー数だけでなく、売上も急増させていった。

快手は、2021年2月に香港市場に上場した。2020年の売上は587.8億元(約9800億円)になっていた。宿華は38歳で、資産29億ドルとなり、フォーブズの2020年の富豪ランキングに掲載された。マンションはいくつでも買える身分になっていた。

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▲現在は、快手小店として、ライブコマース、ECも行っている。商品はすべてがムービーで紹介される。2020年Q4だけで、EC手数料収入は85.1億元(約1400億円)となり、全収入の47.0%を占めるようになっている。

 

1800名以上の創業者を輩出している清華大学

統計によると、清華大学はこれまでに1800名以上の成功した創業者を輩出している。テック業界の士官養成学校になっている。テック企業が優秀なエンジニアを集めたいと思ったら、清華大学に求めるのが常道になっている。だから、全国から優秀な人材が清華大学に集まってくる。米国留学の予備校として始まった清華大学は、テック業界の予備校として機能をしている。