中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

儲かるUI/UX。実例で見る、優れたUI/UXの中国アプリ

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今回は、中国のUI/UXの考え方についてご紹介します。

 

UI/UXとはUser Interface(ユーザーインタフェース)、User eXperience(ユーザー体験)のことです。一般的な定義では、UIとはソフトウェアの画面設計のことで、ボタンの形状やフォントをどう選ぶかなどです。UXは、ユーザーがそのソフトウェアを使ってどのような快適さを得るかということです。UIとUXは不可分なものですが、UIがデザイナー視点寄りの考え方、UXがユーザー視点寄りの考え方ということになります。

このような考え方を広めたのはアップルですが、それもあって、UI/UXは誤解をされている面もあります。それは、おしゃれな画面構成にして、ユーザーに「こんな素敵なアプリを使っている」という心地よさを提供することだと勘違いされていることです。もちろん、そういう心地よさも大切ですが、UI/UXの重要さは、より実用的なところにあります。それは「ユーザーの脳に負荷を与えないこと」ということです。わかりやすく言うと「イライラさせないこと」です。

例えば、最近多く見られるアプリ内のポップアップ広告で、30秒見ないと閉じるボタンが出てこない、しかも、そのボタンが小さくてしばしば押し間違いをし、広告のランディングページに飛んでしまうというやっかいなものがあります。これはUI/UXが非常に悪い見本です。もちろん、デザイナーは広告を見せ、ランディングページを見せるために、わかっていて悪いUI/UXを意図的に設計しているのです。

また、最近の証券会社のオンラインサービスでは、ログインパスワードと取引パスワードという2つのパスワードを設定させる例が増えています。サービスに入る時にはログインパスワードを使い、具体的な取引を注文するときには取引パスワードを使うというやり方です。しばしば、ユーザーはどちらのパスワードを使うのか間違えます。当然ながら、脳への負荷は高く、心地よくないわけです。

国税庁の確定申告のオンラインサービスも同様です。近年、マイナンバーカードをスマートフォンNFCスキャンして本人確認ができるようになり、非常に便利になりましたが、本人確認の回数が多すぎます。確定申告の1時間ほどの作業の間に10回近くはマイナンバーカードを取り出して、本人確認をしなければなりません。確定申告をするには、申告書の他に決算書など通常、2種類から3種類の申告票を作成しなければなりません。どうも、申告票を変えるたびに本人確認をする仕様のようです。

 

このような悪いUI/UXは、イライラすることによりミスを誘発します。特に、日本の場合は、本人確認、本人認証まわりでUI/UXが悪いサービスが多いように感じます。複数のパスワード、過剰な本人確認を求められると、多くの人は、パスワードをメモした手帳やマイナンバーカードをデスクの上に置いたまま作業を続けるようになります。自宅の個室で作業をしているのであればともかく、セキュリティー的には非常に危うい状況です。カフェなどパブリックな場所で作業することはできません。

また、本人認証を過剰に行うということは、認証情報を何回もネットワークに通すということで、盗聴や漏洩のリスクも高くなります。UI/UXの観点からは、最悪のデザインなのです。

日本の本人認証系のUI/UXが悪いのは、セキュリティーに対する考え方が「事故を起こす確率を下げる」よりも「事故が起きた時に、サービス提供側の責任を問われないようにする」ことの方が優先されているからです。何か事故が起きても、「それはユーザーが不適切な使い方をしたことが原因であり、弊社は免責される」と言える設計になっています。つまり、UX=ユーザー体験がほとんど考えられていないということになります。

しかも、このような過剰な本人認証を行うサービスが、日本では「堅牢な設計」と勘違いをされているため、民間のサービスでも、“堅牢な設計”を採用してしまうケースが少なくありません。そのような考え方があまりにも長く続いたため、ユーザーの中にも「そのような複雑なサービスを使いこなせることがリテラシー」だと思い込み、操作に戸惑ってしまう初心者や高齢者をバカにする風潮まで生まれています。

近年、ATMやセルフレジ、飲食店のセルフオーダータブレットが普及をし始めていますが、だいたいどれを見てもUI/UX上の問題を抱えています。それでも、その悪いUI/UXを使いこなせることがリテラシーの高い人であり、使いこなせない人はIT時代の脱落者だとする考え方が広がりつつあります。

 

このような、ある意味、国全体と市民の意識がIT時代に対応できていない最大の要因は、日本のソフトウェア開発が委託開発が中心になってしまっているからです。

もちろん、ソフトウェア開発というのは専門性が高い作業ですから、プロフェッショナルに依頼をすること自体は悪いことではありません。しかし、自分たちのサービスに使うものなのですから、どのようなものをつくってほしいのか、明確に伝え、希望通りにものに仕上げてもらう必要があります。

そこをきちんとやればいいのですが、往々にして、委託開発企業側が提案してきたものをほぼそのまま受け入れてしまいます。

中国の場合、ここの考え方が大きく違います。アリババや京東の事業の本質は小売業ですが、関連するソフトウェアは自社開発をするのが当然で、アリババの場合、半数以上の従業員がエンジニアです。京東も全国配達網のスタッフの数が多いですが、それを除けばやはり半数以上がエンジニアです。他の企業でも同様で、ITサービスを活用する大手企業は、どこもエンジニアの比率が高くなっています。サービスに関わるものは自分たちでつくるというのが自然なこととして受け入れられているのです。

 

サービスアプリは、小売業にとっての店舗にあたるものです。小売業を始めるにあたって、店舗を居抜きで借りて、そのまま使うことはまずないでしょう。元がうどん屋であるのに、テーブルやレジや厨房をそのまま使って、ベーカリーを始めるなどということはあり得ません。すべての調理器具や什器を出して、まったく新たにリノベーションすることになります。具体的な作業は、それぞれのプロに依頼をするにしても、どのような店舗にしたいかは店主の中に明確なイメージがあり、設計者や作業者に指示を出すはずです。場合によっては、水道やガスの配管からやり直してもらうことや、客席の採光を考えて、壁を壊して大きなガラス窓を入れるということもごく普通にするかと思います。

日本でも、委託開発の課題が議論されるようになり、優れた企業はエンジニアを採用し、内製化を進める傾向が生まれてきていますが、中国では最初から、配管レベルのことから自分たちでつくるというのが常識になってきました。

その理由は単純です。UI/UXのできが売上に直結をするからです。ですので、UI/UXはつくって終わりではなく、継続的に改善をしていっています。つくってみて、運用してみて、お客さんの反応、現場スタッフの反応を受けて、改善をする。それを継続していくことが事業を成功させる重要な要素になっているということがしっかりと認識されているのです。

 

そのため、中国のアプリと日本のアプリを使い比べてみると、圧倒的に中国のアプリの方が使いやすく感じます。一方、見た目の洗練度、オシャレ度は日本のアプリの方がはるかに優れています。そもそも漢字という文字が、情報量が多すぎて、洗練されたデザインに仕上げることが簡単ではありません。そのため、中国のアプリは一見するとどれもダサく見えます。しかし、使ってみると、よく考えられたUI/UX設計になっているのです。

UI/UXは「ユーザーの脳に負荷を与えない」設計のことだと最初に触れました。脳に負荷がかかると、何割かのユーザーは、そこで操作が前に進まなくなったり、イライラして使うのをやめてしまいます。アプリというのは、結局は操作をさせて、何かを買ってもらうためのものですから、そのプロセスの途中で負荷がかかると、何割かのユーザーがそのたびに離脱をしていきます。悪いUI/UXは、コンバージョンを悪化させてしまうのです。

仮に購入までに5つのステップがあって、ステップごとに10%のユーザーが離脱をするとすると、最終的に0.9^5=0.5905になってしまいます。悪いUI/UXを放置すると、4割のお客さんが逃げてしまうことになります。逆にこれはエンジニアにとっては手柄を立てやすい美味しい状況です。なぜなら、5つの悪いUI/UXの1つでも解消することができれば、0.9^4=0.6561となり、5%以上もコンバージョンを改善できるのです。つまり、エンジニアの働きにより、売上を5%もあげることができるのです。アリババ級のテック企業で、このような仕事をしたら、メジャーリーガーの年棒並みのボーナスがもらえるのではないでしょうか。

 

中国のUI/UXは、デザイン思想やデザイン潮流の中でUI/UXを重要視するようになったというよりは、より下世話な「売上に直結」という部分で重要視をされています。デザイン思想としてUI/UXを大学の講義室で学ぶと、得てしてユーザーが置き去りにされ、デザイナーの自己満足から「おしゃれで心地のよいアプリ設計をしたい」ということになりがちです。一方、中国の場合、「売上をあげる」という即物的なところから出発をしてUI/UXが考えられるようになっています。そのため、部分的には日本より進んでいるところがあり、UI/UXの学びの宝庫とも言える状況になっています。見た目がダサいからと言って、それだけで学ぶべきものは何もないと判断をしてしまうのはあまりにももったいない話です。

 

そこで、今回は、中国のアプリの中で、優れたUI/UXを実現しているものを紹介します。具体的には以下のようなアプリを紹介します。

1)拼多多:ショッピングカートのメタファー

2)庫迪(COTTI)モバイルオーダーアプリ:認証セキュリティーの考え方

3)滴滴タクシー配車:不要な要素を徹底排除する

4)KFC:ユーザーのシナリオにそったUI/UX設計

5)公安緊急通報システム:シンプルであることが最高のUI/UX

です。

今回は、中国のUI/UXの考え方を実例を出しながら、ご紹介していきます。

 

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