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コロナに負けない飲食店経営者たち。Tik Tok、外売、マスクの大量販売

コロナ禍により、飲食店は、2月、3月はほぼ休業、4月から再開をしても客足は戻らないという打撃を受けている。猟雲網は、北京市の2人の飲食店経営者、1人のコンビニ経営者に取材をして、実情を聞いた。

 

コロナ禍に苦しむ飲食店経営者

中国のコロナ禍は1月から5月まで続いた。感染が拡大するという厳しい状況は3月で一応の終息を見たものの、その後も局所的なクラスター発生が続いている。最も痛手を受けたのは、どの国でも同じ飲食店だ。

多くの飲食店が、1月25日の春節の数日前から、テーブルの間引きを始め、2月と3月は多くの飲食店が休業をした。4月に入り、終息が見えた都市では、飲食店の再開が始まったが、以前のような賑わいは簡単には戻ってこない。各地方政府は、振興策として、飲食消費券の配布を行っているが、なかなか効果が出ていないのが現状だ。

その中で、猟雲網は北京の3人の経営者に取材をした。コロナ禍に打撃を受けているだけでなく、それぞれの経営者がさまざまな工夫をし、戦っている。

 

順調だった火鍋店。新ブランド立ち上げでコロナ禍

私は石磊と言います。1999年に北京にきて、農産物市場に調味料の販売店を開きました。その店のお得意さんの中に、火鍋屋の経営店がいて、親しくなりました。しかし、この火鍋店の経営が思わしくなく、私が買い取ることになったのです。そのようなきっかけで、火鍋店を経営することになりました。

この火鍋店は、有名な小肥羊(シャオフェイヤン)をお手本に営業されていました。私も飲食業をやるのは初めてのことなので、ただ真面目にそのまま経営してみると、次第にお客さんが増え始め、最初の1年で、改装費の30万元(約460万円)が回収できました。

そのまま4、5年経営した後、客層などを考え、北京式の三宝涮肉風に変え、さらにしゃぶしゃぶ、焼き魚など3種類の店舗を出店しました。また、養億人麻辣燙も出店し、この養億人麻辣燙は大好評で、瞬く間に100店舗以上に増えたのです。

そして、10年以上、養億人麻辣燙を経営して、2年前から新しく傻辣児火鍋を開店し、いよいよビジネスが軌道に乗りかかってきたところでした。その時に、コロナ禍が起きてしまったのです。

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北京市政府からの通達で、飲食店はソーシャルディスタンスを取らなければならなくなっている。客足も戻らない。坪効率が低下をし、満席でも利益が出ない構造になってしまっている。

 

Tik TokのライブECを活用して、若者を呼び戻す

コロナ禍が飲食店に与えた打撃はあまりに大きいものでした。私の店があるのはある美食街ですが、5月に入っても、営業再開している飲食店は1/3程度でしかありません。営業を再開しても、お客は戻らず、その間の家賃や人件費は支払わなければなりません。再開をしてみて、やっぱり厳しくて、そのまま閉店してしまう店も増え続けています。

私の傻辣児火鍋の店舗は400平米で、ホールに3人、調理場に3人の従業員を雇っています。コロナ禍以前は、1日の売上が1万7、8千元程度ありましたが、現在は5千元から6千元です。それでも経営者は前向きに考えていかなければなりません。

火鍋は、一般的な中華料理に比べて、お客が早く戻ってくると思います。外食ではなく、家庭で食事を取る頻度が増えましたが、若者はやはり飲食店で楽しく食事をしたいと考えます。若者に訴えかけることができれば、客数を上げることができるのではないか。それに期待をしています。

私は見た目がパッとしないので、以前はライブECには手を出しませんでした。しかし、そうも言っていられません。現在、毎日数時間はライブECの勉強と練習をしています。そして、TikTok上でライブECを行ってみたところ、わずか数日で、数千人のファンがつきました。これをきっかけに傻辣児火鍋をなんとか成功させたい。経営者というのは日々勉強だと言いますが、まさにその通りだと思います。

 

コロナ禍を追い風にした包子チェーン

私は任仕達と言います。モンゴル自治区出身で、国営企業などで働いた後、現在は北京のある有名包子チェーンの経営に参加してします。コロナ禍では、飲食業全体が大きな打撃を受け、多くの店舗がかつてない赤字状態になっています。しかし、私たちにとってはチャンスとなりました。なぜなら、多くの人が各業種のトップブランドに注目をするため、包子チェーンとして有名な私たちのチェーンにとっては追い風が吹いているのです。

昨年の暮れあたりに、武漢で原因不明の肺炎が流行しているという報道が流れた時、私はこれは全国的に流行する可能性があると判断しました。北京ではマスクが買えなくなると思い、その時点で100枚のマスクを購入しておきました。春節の前日に従業員たちとホテルで忘年会をしている時、ホテルの従業員から、今後の宴会のキャンセルが始まっているという話を聞き、これはSARS以上の騒ぎになるのではないかと思いました。

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▲日本の豚まんに近い包子。主食であり、昼食は包子だけという人はけっこう多い。主食は家庭でもあまり作ったりしないということに目をつけ、テイクアウトに活路を見出している包子店が多い。

 

テイクアウトに特化、新商品を次々と開発

春節の間、私たちは通常営業ではなく、外売(テイクアウト)だけにすることにしました。その翌日に、当局から飲食店のホールでの休業命令が出たのです。私たちはすでに外売だけの営業にしていたので、慌てることもありませんでした。たいへんだったのは、従業員がパニックになったことです。自分も感染するのではないかと不安になり、誰かが咳き込んだだけで大騒ぎになります。私は、少しでも体調不良を訴える従業員がいたら、すぐに病院に連れていき、検査をさせました。それを繰り返していると、次第に従業員のパニックも落ち着きを見せ始めました。

コロナ禍の間、包子の外売だけでは売上目標が達成できないため、急遽、新商品である煎餅果子(中華クレープ)を発売しました。この開発はかなりたいへんでした。なぜなら、食品市場が閉鎖されているため、原材料を仕入れられないからです。煎餅果子を包む紙袋ですら調達できないありさまでした。あちこちに声をかけて、原材料を確保して発売してみると、これがとてもよく売れました。熱い食べ物は消毒されているので安心という心理があったのだと思います。

コロナ禍の間、多くの人が外出をせず、家で料理を作って食べるようになりました。しかし、その様子を観察すると、おかずにあたる料理は作るものの、饅頭、花巻、豆包(いずれも小麦による麺食)という主食まで作る人は少なかったのです。小麦粉を練って、蒸すという作業には広い場所が必要になり、小麦粉でキッチンが汚れ、体力も時間も必要になるからです。

そこで、私たちは、店内で饅頭、花巻、豆包を作り、下町に出向き路上販売をしました。手作りであるので、大量生産品よりも美味しく、下町の人たちには好評でした。店舗でも、饅頭、花巻、豆包を外売していることを伝えると、下町の人たちがお店まで買いにきてくれるようになりました。ついでに、包子や煎餅果子なども買っていってくれます。

私たち商売人は社会的責任もあります。コロナ禍の間でも、公共交通の関係者、警官、社区委員会の人々などは業務を止めるわけにはいきません。そこで、このような職業の人たちには、原価だけの特別価格で商品を販売しました。

現在、西貝や海底撈などの大型飲食店が営業を再開していますが、価格を上げています。多くの人が、食材価格が高騰しているからだと理解していますが、業界人の見方は違います。北京市政府の通達によりソーシャルディスタンスを取らなければならず、テーブルには1人しか座れません。以前の1/4の客しか入れることができないのです。これが飲食店の坪効率を下げていて、このままだと赤字営業になってしまい、多くの飲食店が頭を抱えています。

ホールを主体にした飲食店経営は、当分の間、利益が望めません。その間に、資金が続かず倒産してしまう飲食店も出てくることでしょう。私たちは、外売に隘路を見出しています。

 

売上を伸ばすのではなく、減らさないことを考えるコンビニ経営者

私は、斉鸿波と言います。2012年に北京の天通苑と天通南に2軒の好道客コンビニを開きました。毎年3月と4月は売上があがる季節なのですが、今年はまったくだめでした。4月は1日の売上が6000元程度です。昨年の半分以下になってしまいました。コロナ禍以前は、12時間労働、24時間休憩の3チームで2つの店舗を回していましたが、今年は2チームに減らしました。経営者としては、売上をどう伸ばすのかではなく、売上をどう減らさないかを考えるしかなくなっています。

店舗のそばには6軒の飲食店がありますが、チェーンの2軒は営業を再開しているものの、それ以外の4軒は休業したままになっています。営業を再開している2軒のチェーンも、外売(フードデリバリー)だけの営業です。

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▲コンビニ大きな打撃を受けている。住宅街ならまだしも、オフィス街、繁華街のコンビニは人通りがなくなったため、売上は大きく落ち込んだ。

 

マスクの高値販売で通報される

重くのしかかっているのは家賃です。政府は一定期間、家賃免除をする政策を発表しましたが、適用されるのは国営企業や大企業のみで、私たちには関係がありません。

唯一売れた商品がマスクです。春節の前、武漢が都市封鎖される直前、これは大ごとになるとあちこちを駆け回って、4万枚のマスクを仕入れました。これを販売したところ、わずか3日で売り切れてしまいました。しかし、あのような時期であり、仕入れ値も一箱26元から27元と高騰していました。しかし、北京政府からマスクの高値販売が禁止されたため、30元余りで販売するしかなく、利益はごくわずかです。それでも、通常の価格より高い価格での販売となったため、当局に200件を超える通報があったそうです。たいへんな思いをしてマスクを仕入れ、仕入れ値から見れば適正な価格で販売し、利益はほとんどなく、挙げ句の果てに犯罪者扱いです。

春節明けに、北京でマスクが消えて入手できなくなったのはこれが関係しています。適正価格で販売しても、仕入れ値が高いため通常価格よりも高くせざるをえません。しかし、それだと高値販売だとして通報されてしまう。多くの業者が、マスクの高値販売禁止令が解除されるまで、マスクを倉庫に眠らすことになっていました。

コロナの感染拡大は終息をしましたが、人々の気持ちは様変わりしました。例年であれば気候のいい季節になって、人々が外に出てきて笑顔を見せ、街歩きを楽しむようになりますが、今年は、みなマスクをして、うつむいて、早足で目的地に歩いていきます。この変化は大きく、さまざまなビジネスに影響を与えていくことになると感じています。この経験を経て、店舗経営というのはつくづくリスクの高いビジネスであるということを思い知りました。もう、店舗経営というビジネスを新たに始めることはないと思います。