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大人気の火鍋チェーン「海底撈」に異変。コロナ後、半数の店舗が営業再開できず

変態的接客で大人気だった海底撈に異変が起きている。コロナ終息後に、多くの料理店が営業再開をする中で、海底撈は半数程度の店舗しか再開できていない。原因は人材不足だと餐飲老板内参が報じた。

 

変態的接客で大人気になった火鍋チェーン「海底撈」

コロナ禍前、あれだけ勢いのあった火鍋チェーン「海底撈」(ハイディーラオ)が苦しんでいる。

海底撈は、「変態的接客」「90度接客」と言われ、接客をエンターテイメントに昇華させることで人気となった火鍋チェーン。火鍋店なのに、なぜか店内にネイルサロンや靴磨きがあり、予約をすれば無料で利用することができる。飲み物、火鍋のタレ、果物はすべて無料(日本店舗では一部有料)、最近では無料のシャンプーコーナーまでできている。

接客も異常な親切ぶりで、紙エプロンをつけてくれる、タレを作ってくれる、具材を入れてくれる、客は食べて楽しむこと以外、手を動かさなくていい状態にしてくれる。90度接客とは、お客様に対して90度の角度でお辞儀をするという意味だ。実際にそのようなお辞儀をするわけではないが、お客が喜ぶことはなんでもやるという接客方法を象徴する言葉になっている。

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▲海底撈は変態的接客とまで呼ばれる独特の接客が行われる。客席の間では常にエンターテイメントパフォーマンスが行われ、デザート、プレゼントなどの無料提供も頻繁に行われる。料理の値段はやや高めだが、多くの人が納得をして支払う。

 

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▲話題になった無料のネイルサロン。この他、無料の靴磨きもある。最近では無料のシャンプーコーナーが設置されている。

 

コロナ禍の休業から半数が復帰できず

ところが、コロナ禍前、1298店舗を展開していたが、コロナ禍の休業のまま営業を再開できない店が続出し、現在、営業しているのは半分程度だと見られる。再開をしても、すぐに営業休止になってしまう店舗も多い。

しかも、以前は、どの店も予約なしでいくと2時間、3時間待つのは当たり前だったが、今ではどこの店もすぐに入れる状態だ。新規開店計画も全面的に停止している。

2020年の利益は3.09億元(約53億円)と黒字にはなったが、前年から86.8%も下落をした。これにより、海底撈の株価は、2月16日から下がり続け、85香港ドルから40香港ドル程度になっている。約2000億元の企業価値が失われたことになる。

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▲海底撈の株価は、2021年2月中旬から下落をし続けている。

 

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▲ある海底撈の店舗。改装中のため休業と書かれているが、改装工事をしている様子はないという。

 

終息すれば客足は戻るはずだった海底撈

飲食関係者の間には衝撃が走っている。なぜなら、海底撈のビジネスモデルは強く、コロナ禍で打撃を受けたとしても、終息をすれば、客足は戻ってくると考えられていたからだ。それが、店舗が再開できない、再開しても客足が戻らないという状態になっている。

海底撈ですらコロナ禍を乗り切ることができないのであれば、特色のない普通の飲食店はとてもこの危機を乗り越えることはできないと落胆されている。

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▲グルメサイトで検索をしても、軒並み「一時営業停止」になっている。

 

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▲また、営業をしている店のコメントでも「並ぶ必要がなかった」というコメントが増えている。以前の海底撈は、予約なしで行ったら、2時間か3時間は待たされるのが当たり前だった。

 

顧客満足度をKPIに設定した海底撈

一般的な飲食店のホール従業員の報酬は低い。しかも、仕事はきつく、いわゆるブラック労働になっていた。それが成立をしていたのは、農村から無限とも思える人材が供給されていたからだ。賃金が安いことはわかっていても、農村で仕事を探すよりもまし。しかし、低賃金であることが、一般的な飲食店の接客品質があがらない最大の理由だった。

海底撈はここを大きく変えた。売上ではなく、顧客満足度の調査を頻繁に行い、満足度に応じて、従業員全員の基本給に報奨金が加えられる。顧客満足度の高い店舗では、一般的な飲食店の10倍の給与をもらっている従業員も珍しくない。

また、接客のアイディアを決定する権限は、店長に一任されている。このような仕組みで、ホール従業員からさまざまな接客のアイディアが生まれてくる。優れたものについては、横展開をして広げていくという仕組みだった。

 

優秀な人材を育成する海底撈独特の徒弟制度

もうひとつ重要だったのが、店長の育成制度だった。店長の給与は、顧客満足度と従業員離職率で評価される。顧客満足度が高くなり、従業員も離職をしない店舗は、売上もついてくるという考え方だ。

これにより、店長は従業員が考えた接客アイディアを実現し、なおかつチームとしての結束を高め、離職を防ごうとするようになる。

従業員の中で優秀なものは、店長候補となり、現店長の「弟子」となる。店長の給与は基本給以外に得られる報酬が2つあり、好きな方を選べる。ひとつは、自分の店舗の利益の2.8%がもらえるというもの。もうひとつは、自分の店舗の利益の0.4%の他、弟子の店長の利益の3.1%、孫弟子の店長の利益の1.5%がもらえるというもの。

つまり、優秀な弟子、孫で支店長を育て、店長に育ってからも、店舗運営がうまくいくようにアドバイスするようになる。これが、海底撈独特の店長育成制度、管理制度となり、優秀な店長を育てることで優秀な店舗を展開することができていた。

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▲海底撈の店舗数の推移。特に2019年と2020年は大規模に新規開店をする計画が進行していた。それにコロナ禍が重なった。

 

店舗数の増加に人材育成が追いつかない

しかし、この店長育成制度が仇になった。2017年頃から急速に人気が高まった海底撈は、猛烈な勢いで店舗数を増やしていく。特に2019年と2020年は急速に店舗数を増やしている。そのあまりの店舗展開ぶりに、店長の育成が追いつかなくなっていた。そこにコロナ禍がやってきた。コロナ禍の長期休業で、離職をした店長、従業員も多かった。そのため、人材不足で営業再開ができなくなっていると見られている。

海底撈の接客品質を実現するには、一般の飲食店の店長経験者をすぐに店長にするわけにはいかない。数年は従業員の経験をし、海底撈の文化を理解しなければならない。育成に時間がかかるのだ。

さらに、海底撈の一般的な楽しみ方は、大人数で出かけて、賑やかに食事をするというもの。コロナ禍以降、そのような食事の仕方はあまりされなくなっている。海底撈が再び賑わいを取り戻すことができるのか、あるいはこのまま縮小してしまうのか。あれだけ勢いのあった海底撈は、コロナ禍で完全につまづいてしまった。