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紙コップの叩き売りで月収220万円。「9.9元均一」激安街頭販売が儲かる理由

「9.9元ライブコマース」が人気になっている。さまざまな商品が激安価格の9.9元で販売され、なおかつこの価格は送料込みなのだ。9.9元ライブコマースを運営する個人業者はじゅうぶんな儲けを出している。製造業者も設けている。薄利ではあるが、大量に売れるためだと華商韜略が報じた。

 

月収200万円を超す、街頭の紙コップ売り

日本に100円均一ショップがあるように、中国には9.9元ライブコマースがある。日用雑貨製品の卸業者が集約されている浙江省義烏市では、駐車場や広場のあちこちで9.9元の街頭叩き売りが行われている。

そのうちの一人、李涛さんが売っているのは紙コップ。100個入りで9.9元(約180円)で販売をしている。普通の小売店ではだいたい20元前後で販売されているものなので、半分程度の価格だ。しかし、見物をしている人は多いものの、実際に買う人は時々しか現れない。それでいながら、李涛さんは月に12万元(約220万円)を稼いでいる。紙コップ以外にも、爪切り、ティッシュ、衣類洗剤、ゴミ袋、タオル、洗面器、なんでも驚きの9.9元で販売する。

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▲義烏市の街頭で、100個9.9元の紙コップを販売する李涛さん。売っている商品の価格は安いが、毎月200万円以上の利益を出している。

 

送料込みで9.9元のライブコマースが儲けられる理由

その秘密は、街頭販売をしながら、スマートフォンを使ってライブコマースをしているからだ。9.9元でさまざまなものが販売されるライブコマースは人気となっている。さらに、この9.9元ライブコマースは、送料込みで9.9元なのだ。消費者にとっては確かにお得だが、業者はどうやって利益を出しているのだろうか。

中国の製造業者は、あらゆる製品で、標準的な品質であればおそろしく安く製造できるようになっている。ただし、単価を下げるには大量に製造することが必要になる。李涛のようにライブコマースを活用して大量に販売できる業者がいることによって、大量生産が保証され、単価は極限まで下げられる。

紙コップ100個の場合、工場出荷価格は1.5元程度、さらに卸業者のマージンが1.5元ほどとなる。つまり、李涛は3元で仕入れることになる。さらに、配送料も大量契約をすると単価が下がり5元程度。残りが李涛の利益で2元になる。李涛は商品を月に6万件を販売する。李涛の利益は月に12万元ほどになる。悪くない商売だ。

 

製造業者も潤う9.9元ライブコマース

では、製造業者は泣いているのではないか。そんなことはない。製造業者もじゅうぶんな利益を得ている。この紙コップの製造業者では、李涛のような大口ライブコマース業者数人と契約をしていて、月に30万件を製造している。売上は45万元。原材料費などが27万元、従業員の人件費が9万元で、社長の手取りは9万元(約160万円)ほどになる。

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▲紙コップの製造業者を取材したネットメディア記者。卸価格は低いものの、大量に製造するため、利益が出ている。

 

価格破壊が起きた宅配便業界

では、宅配企業は泣いているのではないか。確かに宅配企業は経営が苦しい。しかし、大量の荷物を引き受けることで、かろうじて黒字にすることはできている。

2003年にSARSの影響で、アリババの淘宝網タオバオ)や京東(ジンドン)などのECが登場してきた時、宅配料金は常識的なものだった。中国郵政が22元、順豊(SF Express)が20元、通達系が18元という状況だった。そのため、10元程度の商品はECではほとんど売られていなかった。配送料の方が高くなってしまうため、誰も買わないからだ。李涛のような街頭販売業者は、細々と稼いでいくしかなかった。

ところが、この状況に好機があると見たのが、宅配企業「円通」の創業者、渭蛟(ユー・ホイジャオ)だった。タオバオでは大量に宅配便が発送される。この大量の荷物を一手に引き受けることができれば、配送効率はあがり、配送単価は大きく下げられるのではないか。そう発想して、大量に発送契約をしてくれれば単価を安くする戦略を取り、一気に宅配便業界で扱い量1位の座に躍り出た。

この円通の成功を見て、他の宅配企業も、大量低価格契約に追従をしていった。

 

タオバオから排除された低価格商品販売業者

これにより、李涛の業者は、タオバオで「送料込みの9.9元」販売が可能になった。しかし、タオバオはこのような業者の排除に乗り出し始める。当時の製造技術で、9.9元で販売できる商品を製造すると、どうしても粗悪品が多くなってしまう。原材料品を抑えるか、工程を省くかしなければならない。そのため、座ると割れるプラスティック椅子、水を入れると漏れるバケツ、食べ物を挟むと折れる割り箸など粗悪品が大量に出回ることになった。2008年前後からタオバオはこのような粗悪品を販売する業者の排除に乗り出した。

さらに2014年になると、知名度のあるブランドはタオバオとは別の天猫(Tmall)への出店が進み、タオバオでは粗悪品、偽物商品に対する厳しいガイドラインが定められた。これで、9.9元業者はタオバオでの居場所を失った。

 

低価格業者を集め、質の改善を支援した拼多多

しかし、翌年、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が人気となった。拼多多は下沈市場(地方市場)をねらい、まとめ買いをすることで激安で購入できる仕組みを導入した。

タオバオでの居場所を失った9.9元業者は、大挙して拼多多に参入をした。そのため、拼多多の初期は粗悪品、偽物商品が大量に出回ることになった。しかし、拼多多がタオバオと違ったのは、このような業者を排除するのではなく、支援をしたことだ。業者に技術力のある製造業者を紹介したり、知的所有権に関する無料セミナーを開催するなど、見捨てるのではなく、育てようとした。これにより、粗悪品、偽物商品は大きく減少をしていく。

さらに、2019年に、拼多多はショートムービープラットフォーム「快手」と提携をして、拼多多に出品している業者のライブコマースを快手で行うようになった。これが人気となった。

販売業者も、製造業者も、宅配企業も利益を出している。それが可能になっているのは「大量に売れる」ということだ。EC、ショートムービー、ライブコマースと、中国は常に大量に商品が売れるチャンネルを求め続けている。