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顔認証レジの利用率は2割程度。顔認証普及を阻む2つの壁

コンビニやスーパーの多く、さらには学校やオフィスビルなどに、顔認証が続々と導入されている。しかし、店舗でも利用率は半数程度であるといい、アリペイの広報によると利用率は2割程度にとどまっているという。利用率を上げるには、優待などの認証とは別のメリットを付加する必要があると中国経営報が報じた。

 

顔認証レジを導入している店舗は増えてきたものの…

顔認証レジを導入しているコンビニも増えてきたが、すべてのコンビニが顔認証レジに積極的とはいかないようだ。

中国経営報の記者が、北京市の地下鉄、草房駅付近の店舗を調べてみると、中国系のコンビニ「全時」、パンのチェーン「味多美」に、アリペイの顔認証ユニット「蜻蜓」が導入されていた。しかし、コンビニ「便利蜂」は独自のセルフレジを使い、セブンイレブンは有人レジによるQRコード決済と現金のみの対応だった。

ショッピングモール「朝陽大悦城」では、店舗によって、顔認証レジを導入しているところがある。

この他、スーパーでは「ロータス」「カルフール」「ウォルマート」などが、顔認証レジを導入していた。

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▲コンビニ「便利蜂」が導入しているセルフレジ。顔認証には対応していない。有人レジも用意されている。

 

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▲チェーンのパン屋「味多美」では、アリペイの顔認証レジを導入しているが、利用率はまだ半分以下だという。

 

スマホ決済でも大きな不便は感じない

朝陽大悦城の中にあるアイスクリームチェーン「デイリークイーン」の店員によると、顔認証決済は、来店客が希望した時のみ使い、特に利用を促すようなことはしていないという。ただし、WeChatペイのキャンペーンで、「初めて顔認証を決済をすると、10元以上の利用で、5元割引」というのが行われることがあり、その時期には顔認証を希望する来店客が増えるという。

バーガーキングでも同じような状況だという。バーガーキングのエリア担当者によると、バーガーキングでは、以前から大型ディスプレイのセルフ注文機を導入していた。注文するのに、レジに並ぶのではなく、入り口付近にあるディスプレイで注文をし、QRコードをかざしてそのままスマホ決済ができる。商品が用意できたら、レジで受け取る。

このセルフ注文機が顔認証に対応しているが、顔認証を使っている人はほぼ半数ぐらいだという。QRコード決済でも特に不便は感じないので、なかなか顔認証を使う人が増えていかないという。

エリア担当者は言う。「顔認証は安全ではないと考える人もいますし、事前に顔を登録しなければならないのが面倒に感じている人もいるのではないでしょうか」。デイリークイーンの店員は、QRコードと現金の決済でも、ピーク時にも特に問題は感じていないと言う。

バーガーキングのある来店客は、「顔認証は、顔情報を取得されるというところに問題を感じています。顔情報がどこに蓄積されて、どのように利用されているのかがよく分からないからです。もし流出したら、取り返しのつかないことになりますから」。

利用客は、顔認証は利便性が大きく変わるとは感じられない上に、生体情報の扱いがよくわからず、なんとなく不安を感じているようだ。

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バーガーキングでは、セルフ注文機がスマホ決済と顔認証決済に対応しているが、顔認証を使うのは半数程度。利用客にとって、スマホ決済と比べて特段大きなメリットが感じられないからだ。

 

顔認証普及を阻むのは、導入コストと新しい習慣の定着

アリペイ広報の葉文添によると、現在、顔認証決済は2つの壁に直面しているという。

ひとつは顔認証決済を導入するコストは、QRコード決済の導入コストよりも高くなるということだ。もうひとつは、新しい習慣が定着するのには時間がかかるということだ。アリペイのQRコード決済が普及するのには4年から5年の時間が必要だった。しかし、顔認証決済は始まってからまだ1年しか経っていないのだ。

葉文添によると、現在は、大雑把に言って、2割が顔認証決済を利用し、8割が現金とQRコード決済を使っている状況だという。

また、現在は安全性を求める利用者の声に応えて、登録をした顔情報は12ヶ月後に完全に削除をするようにしているという。

 

学校にも導入される顔認証ゲート

北京では、北京大学北京市第二十中学でも、校門に顔認証ゲートを導入している。しかし、北京大学の東南門の守衛に取材をすると、顔認証ゲートを使うのは半分程度で、残りの半分は、QRコードを使ってゲートを通過しているという。

第二十中学では、面白い現象が起きている。登校するときは、ほとんどの学生が、顔認証ゲートを使わず、直接学校の中に入っていくが、下校するときはほとんどの学生が顔認証ゲートを利用する。下校時に顔認証ゲートを通過すると、その時刻などが保護者に通知される仕組みがあるからだ。

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▲顔認証ゲートを導入している学校、企業も増えている。不審者の侵入を阻み、安全を確保できるという大きなメリットがあるからだ。

 

屋外では太陽の向きによっては誤認識率があがる

中国経営報の記者が、北京大学の東南門で観察をしていると、1分間の間に9人の学生が顔認証ゲートを使って、大学の中に入って行った。そのうちの1人の女子学生は、顔認証に2回失敗をし、ゲートを変えてようやく入ることができた。入るのに10数秒かかっている。

ある男子学生は自転車に乗ったまま顔認証をしようとして失敗し、髪の毛を書き上げて試しても失敗し、眼鏡を外して、ようやく顔認証ゲートを通過することができた。

そのあとも、顔認証に失敗をし、結局、守衛に学生証を見せて入って行った学生も数人いた。

北京大学の顔認証の設備責任者によると、東南門の顔認証ゲートは問題を抱えているという。朝の早い時間は逆光になるため、顔の認識率が低下してしまうのだという。この問題については、顔認証ゲートを開発した漢柏科技のエンジニアが現場を確認して、プラスティックのボードなどを設置して、逆光を遮る工夫をすることになっているという。

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▲大学などでは、顔認証ゲートを屋外に設置するため、太陽光の方向により誤認識が起きている。このため、学生が避ける傾向にある利用率はなかなかあがっていない。スマホを使ったり、警備員に学生証を見せて通過してしまう学生もいる。

 

学内の安全には顔認証は有効。しかし、学生はメリットを感じていない

学校が顔認証ゲートを導入するメリットは大きい。以前は、守衛が、記憶に頼って「学生ではないと思われる人」に声をかけるという方法で、学内の安全を確保していた。それでは学内の安全が保てないということから、守衛が学生証を確認するようになったが、守衛の業務負担は大きく、朝方は校門が渋滞をしていた。

ICカードの学生証、学生用のスマホアプリによるQRコードなどを使って、自動化をしても、結局は、ICカードの盗難、貸し借り、QRコードの偽造などにより、不審者の侵入リスクは残ってしまう。

この点で、顔認証は最も安全性が高い。しかし、利用する学生にとっては、学内の安全というのは普段は意識をしていないため、特段のメリットが感じられない。そのため、顔認証の使用率がなかなか上がらないということになっている。

 

利用率を上げるには、別のメリットを付加することが必要

第二十中学で、下校時には多くの学生が顔認証を利用するのは面白い現象だ。顔認証ゲートを通過することで、保護者に通知が飛ぶため、学校も保護者も顔認証ゲートを使うように促すからだ。

また、ファストフードなどでも、顔認証決済を使うと優待がある時期には、顔認証決済の利用率が上がる。

顔認証の利用率を上げていくためには、安全性や効率といったシステムとしてのメリットの他に、利用者に直接返ってくるメリットを付加してやることが必要なようだ。