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返品率30%のECで、広がる返品送料無料の流れ。宅配便企業は競争の限界に達する

順豊(シュンフォン、SF Express)、韵達(ユインダー)などの宅配便企業が、続々と、ECで購入した商品の返品送料を無料にする方針を打ち出している。宅配便企業は市場の成長が頭打ちとなり、シェアを確保するための方策だが、シェアは増えても利益は下がることになり、宅配便企業は、今までとは異なる新たな活路を切り開く必要に迫られていると新京報が報じた。

 

返品率は30%超え。返品は買い物テクニックのひとつ

ECを利用する消費者にとって、返品はもはやあたりまえのことで、ひとつの買い物テクニックにすらなっている。

例えば靴などは同じサイズでもメーカーによって履き心地が微妙に違う。そのため、3サイズを注文して、履いてみて、いちばんしっくりくるものだけを残し、残りの2つを返品する。

また、服飾などでも、サイズや色、柄を余計に注文し、実物を見た上で、いちばん気に入ったものだけを残し、残りを返品する。

さらに、独身の日などセールでは、クーポンを利用するために、返品を活用する。クーポンは「○◯元以上購入したら××元割引き」という満減券タイプのものが多いため、クーポン適用金額に達するまで、必要のないものを購入し、割引を利用し、その後、不要なものを返品してしまう。

アリババが行う毎年11月11日の独身の日セールでは、毎年流通総額の記録を更新し続けているが、服飾品では30%以上、それ以外の商品でも30%近い返品率になっていると言われる。

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▲宅配便の扱い量は年々増加をしているが、宅配便企業の経営状況は悪化の一途をたどっている。シェア競争、価格競争が限界に達している。

 

返品送料を見越して割引をする販売業者

このような返品をするには、ECプラットフォームで手続きをし、近くの宅配便店に持ち込むか、ピックアップをしてもらう。当然ながら送料が必要になるが、服飾など返品が多い販売業者では、返品送料を想定したクーポン配布や割引を行なっている。返品をされても、売上には計上ができ、ECの中での検索順位などがあがっていくため、販売業者にとっては売上を上げる効果がある。

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タオバオでは、返品送料をプラットフォーム側が支払うことにより、返品送料無料を行なっている。一定の手続きで返品をすると、後日、返品送料分がキャッシュバックされるというものだ。

 

返品料無料を打ち出すECプラットフォーム

タオバオや拼多多(ピンドードー)では、「0元返品」は行われていないが、返品を行うと、プラットフォームから6.5元から10元の送料クーポンがもらえ、実質に無料かほぼ無料で返品ができるようになっている。

百度バイドゥ)では、「双十一無料返品」キャンペーンを行い、各社宅配便企業の無料返品が利用できるようになっている。この無料返品を利用するには、百度アプリから入る必要があり、百度アプリの利用者数を増やすためのキャンペーンだ。いったんは送料を支払う必要があるが、それと同じ額の紅包(ホンバオ、還元ポイント)がもらえるというものだ。

このような中で、宅配便企業自体も返品送料無料を打ち出している。ECで返品手続きをした後、0元返品をしている宅配便のステーションにいくか、連絡をすることで送料無料で返品ができる。

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百度が始めた「送料0元」の宅配便キャンペーン。百度アプリの中から手続きをする必要があるが、無料で宅配便を送ることができる。百度アプリの利用者数拡大キャンペーンとして行われた。

 

返品料無料で経営状況が悪化をする宅配便

このような0元返品は、宅配便企業の経営を圧迫し始めている。順豊の2021年Q3の財務報告書によると、営業収入は1358.61億元と前年から23.97%の伸びとなったが、純利益は17.98億元で67.89%の減少となっている。つまり、多くの宅配便企業が、扱い荷物量が大幅に増加し、営業収入も増加したものの、純利益は減少するという状況になっている。

宅配便業界上位4社は、それでもまだ黒字を維持しているが、第5位の百世(バイシー)は赤字転落をしてしまった。

 

宅配便の価格競争は限界に達している

ECの成長は明らかに頭打ちになっている。その要因は、中国の労働人口=旺盛な消費人口が減少に転じたことが最大のものだ。さらに、デリバリー(即時配送)、社区団購など宅配便に頼らない配送方式の新しい販売手法も登場してきている。

この中で、各宅配便企業は配送単価を下げる競争に入っている。今年2021年4月、浙江省の義烏郵政管理局は、百世などの宅配便企業に対し、過剰な低価格設定をやめ適正価格に戻すように数度にわたって警告を出している。宅配便の送料単価が下がってしまったため、宅配便ステーションの運営がままならなくなり、倒産するステーションが相次いだためだ。

宅配便企業は明らかに行き詰まりを見せ、次の成長空間を探さなければならない時期にきている。toC配送ではなく、toB配送=サプライチェーンコールドチェーン、バイク便、国際配送などの分野はまだまだ成長空間が残されている。toC配送で、各戸に配送するという精密な配送網を活かして、toB領域に進出するというのが宅配便企業の次の成長の絵図となる。宅配便企業の大変革が始まる可能性が出てきている。