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発送済みなのに商品が届かない。ECで架空発送が起こる謎

ECで商品を購入し、配送状況は発送済みになっているのに、商品が届かない。調べてみると、そもそも商品は発送されていない。この不思議な現象はなぜ起こるのか。その背後には、零細販売業者の苦しい理由があったと済南時報が報じた。

 

購入をしても商品が発送されない謎

2月20日、王澄さんは、あるECで69元の靴を購入した。翌日、ECのアプリ内の配送状況では発送済み状態になっていた。しかし、3日経っても商品が届かない。そこで、販売業者に問い合わせをしてみると、「発送した荷物がロストした」という返答だった。そこで、王澄さんは「では、新しい商品を発送してほしい」と要求したが、販売業者は「注文をキャンセルしてほしい」の一点張りだった。

納得がいかない王澄さんは、宅配業者に連絡を取った。すると、該当の番号の荷物は、そもそも発送がされていないことがわかった。

このようなことは、さまざまなECでたびたび起きている。商品を注文しても、プラットフォームの配送状況では「発送済み」となるのに、そのまま状況が変わらない。数日経って、消費者が問い合わせをすると、販売業者はさまざまな言い訳をする。「荷物がロストした」「倉庫が水没した」「配送ステーションが火事になった」。すべて嘘で、そもそもが発送をしていないのだ。

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▲ネットには、架空発送の証拠画像が大量に投稿されている。宅配便状況確認ミニプログラムで、「発送後7日以上立っても未着」というアラートが出たが、購入者は受け取ってもいないし、宅配便スタッフが自宅を訪れた記録もない。そもそもが発送されていない架空発送だった。

 

多くのECで定められている欠品違約金制度

しかし、なぜ、販売業者はこういう意味のないことをするのか。それは、多くのECプラットフォームで、注文を受け付けたのに商品が発送できない欠品の場合は、30%程度の違約金を加えて返金しなければならないルールがあるからだ。

販売業者は、商品注文を受けてから48時間以内に配送状況を入力しなければならない。これが間に合わないと、欠品となって、10%から30%の違約金を上乗せして返金しなければならなくなる。

であれば、「配送済み」という偽の情報を入力して、購入者が待ちきれずにキャンセルするのを待つ方が得策だというわけだ。

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▲詳細を見ると、武漢市で発送済みとなっていて、購入者が住む深圳市まで配送されている詳細記録が記載されている。そもそも商品は発送されていないのだから、なぜこのような詳細記録が記録できるのか謎になっている。ネットでは、宅配便のシステムに外部からアクセスして、架空の記録を入力できるのではないかと言われている。

 

零細業者は在庫を持てないが、注文は断りたくない

長年、ECの販売業者の仕事をしてきた李兵さん(仮名)によると、零細販売業者は大きな倉庫を確保するのもコスト的に負担になることが、このような架空出荷の原因になっているという。

小さな倉庫しかないので、注文が重なると在庫がなくなってしまう。しかし、在庫がないからといって、販売を中断すると売上がなくなってしまう。そこで、注文は受け付けながら、なんとかして商品を仕入れようとする。配送状況だけ出荷済みにして時間を稼ぎ、その間に商品を仕入れるという自転車操業だ。それでも間に合わなければ、多くの消費者は自らキャンセルをしてくるし、問い合わせをしてきた消費者にはキャンセルをするように勧めるのだ。

 

大規模セールで多発する架空発送

このような販売業者の行為は、もちろん不正行為であり、消費者にとっては迷惑な話だが、多くの消費者は同情的だ。零細の販売業者も生きていく必要があることを理解し、つまらないことで揉めたり、無理に違約金をせしめるよりは、素直にキャンセルをして、別の販売業者で購入するという人が多い。

しかし、これがより悪質な架空発送を生むことになっている。ひとつは、大幅な割引セールだ。大幅な割引セールを行う目的は、そのセールで大量の商品を販売することではない。商品は赤字販売なのだから、セールの売上がいくら高くても意味はない。セールをすることにより、商品や販売業者の認知度が上がり、その後の売上があがることが目的なのだ。

そこで、大幅な割引セールを行うが、架空発送をし、セール終了後の注文の方に商品を回そうとする業者もいる。

 

低評価レビューは高く売れる

さらに悪質な例も横行している。そもそも商品もなく、偽の販売を行い、個人情報を集めることを目的にしている例もある。発送済みの情報だけを入力して、商品は発送しないのだから、大量の購入者がレビューにクレームを書くことになる。この情報が高く売れる。

真っ当な販売業者であっても、クレーマー対策には頭を悩ませている。クレーマーあるいは正義感の強すぎる消費者は、どのようなクレーム形式をとれば販売業者に打撃を与えられるかを熟知しているので、電話やSNSで1対1で販売業者に連絡を取るのではなく、いきなり誰でも読める公開されるレビュー欄にクレームを書き、それをSNSで拡散させようとする。対応をして、誤解を解いた後、関係するレビューなどを削除するようにお願いしても、なかなか削除してもらえない。悪評だけがいつまでも生き残ることになる。

そのため、どの業者も、悪質クレーマーや正義感の強すぎる消費者のブラックリストをほしがっている。そのような消費者から購入があった場合は、欠品を理由にキャンセルしてもらうのだ。

 

機能していない欠品違約金制度

このような架空出荷に対して、淘宝網タオバオ)では10%、天猫(Tモール)では30%の違約金を乗せて全額返品しなければならないルールになっている。しかし、実際には、販売業者は自主的なキャンセルを求めてくるし、消費者は違約金の交渉をしなければならない。特に、個人情報を取得しようという悪質な業者の場合、数元の低価格商品の販売を餌にするため、違約金をとれたとしてもわずかな額になってしまう。それで、レビュー欄に怒りのレビューでも書こうものなら、販売業者の思うツボなのだ。

問題は、架空出荷情報であっても、荷物番号は正式なものであるということだ。宅配企業と契約をして、正式な荷物番号を取得している。この問題をなくすためには、宅配企業側での対策も必要になるため、すぐには解決しそうにない。この問題は、まだまだ続きそうだ。