中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

顔認証決済にも美顔効果。つけてみたら、利用率が跳ねた!

アリペイが推進している顔認証決済に思わぬ死角があった。女性を中心に「表示される自分の顔が美しくない」という不満の声が出たのだ。アリペイは、素早く反応し、1週間で美顔機能を追加実装したと移動支付網が報じた。

 

コンビニ、スーパーから始まっている顔認証決済

アリババは、小型顔認証ユニット「蜻蜓」(チンティン、ヤンマの意味)を発売し、チェーンスーパー、コンビニなどでの導入を進めている。既存のPOSレジにUSB接続が可能な外付けユニットで、スタッフかセルフで商品のバーコードを読み取ったら、消費者はユニットの前に立つだけ。自動的に顔認証がされて、自分の顔が表示される。間違いがなければ確認ボタンをタッチするだけで決済が完結する。

消費者は、スマートフォンを持っていなくても、あるいは取り出さなくても決済ができることになる。店舗側はスタッフの業務負担が大きく減ることになる。価格は1199元(約1万8000円)だが、決済人数に応じて最高1200元までのキャッシュバックが行われるので、コンビニやスーパーなどは実質無料で導入することができる。

f:id:tamakino:20190912124218j:plain

▲アリペイが発売している顔認証決済ユニット「蜻蜓」。既存のアリペイ対応レジにUSB接続をするだけで使える。スーパー、コンビニなどから普及が始まっている。WeChatペイも同様の顔認証決済ユニットを発売し、普及を進めている。

 


支付宝发布刷脸支付产品“蜻蜓”将接入成本降低80%

▲アリペイの顔認証決済のプロモーションビデオ。顔認証決済は、顔を見せるだけで決済ができ、スマートフォンが不要。このスマートフォンが不要というのは大きい。なぜなら電話をしながらでも、スマホでメールを書きながらでも、端末の前に立つだけで、決済が完了する。

 

表示される自分の顔が美肌じゃない!意外な消費者の反応

ところが、思わぬ問題が生じた。顔認証決済をする時は、確認のため、画面に自分の顔が表示される。ところが、この自分の顔が醜く写るので使いたくないという声が上がってきたのだ。

新浪科技が、この問題をウェイボー上でアンケートをしたところ、「普段の写真よりも醜い」と感じている人が1.5万人、「普段の写真とほぼ同じ」という人が2330人、「気にしていない」という人が6560人という結果になった。圧倒的に、顔認証の顔は醜く写ると感じている人が多い。

これは勘違いなのだ。蜻蜓は撮影した顔をリアルに表示しているだけ。むしろ、スマホのカメラアプリの方が、全体をほっそり見せたり、色白に見せる加工を自動的に行っている。そのような写真を見慣れているため、リアルな表示の顔認証写真は「普段よりも醜く映る」と感じてしまうのだ。

f:id:tamakino:20190912124221j:plain

▲新浪科技がウェイボー上で行ったアンケート結果。「顔認証決済の時に、自分の顔が醜いと思ったことがあるか?」という質問で、「思う」という人が1.5万人、「そうは思わない」という人が2330人、「あまり気にしてなかった」という人が6560人という結果になった。

 

すぐに反応したアリペイ。美顔機能を1週間で追加

この問題が各メディアで報じされると、アリペイは「1週間以内に美顔機能を追加実装する」と発表をし、実際に美顔機能が使えるようになった。アリペイの説明によると、この美顔機能は、単に表示の際にフィルター加工をするだけのもので、決済の性能や安全性にはまったく影響をしないという。

実際に多くの人が試してみると、以前よりもほっそりと表示され、肌の色も白く明るく表示されるようになったという。

この美顔機能が話題になったこともあって、美顔機能が搭載された7月は、6月に比べて女性の利用者数が123%増、男性の利用者数が106%増と倍増以上になった。

f:id:tamakino:20190912124224j:plain

▲顔認証決済をするときは、自分の顔が画面に表示される。これが一種の確認となり、間違いがなければ、確認ボタンをタップすると、支払いが完了する。

 

「どうでもいいこと」で利用率が上がるのなら、やってみるのが中国流

いかにも中国らしい面白ニュースに見えるが、テクノロジーの普及にとっては重要なヒントが隠されている。テック志向の人から見れば、美顔機能は本質的ではないどうでもいい機能に見えるかもしれない。実際その通りで、美顔機能は顔認証決済の性能や安全性にまったく寄与していない。しかし、そんな「どうでもいいこと」で、利用者数が伸びるのだったら試してみる価値があると考えるのが中国流だ。

その「どうでもいい」美顔機能を追加実装したことで、利用者数は倍増をしたし、面白がって顔認証決済を試す人が増え、すでに都市部の80年代生まれ(30代)、90年代生まれ(20代)、00年代生まれ(10代)では、顔認証決済を使った経験がある人が80%を突破している。アリババ、アリペイでは、顔認証決済が若い世代の主流の決済方法になると見て、蜻蜓の普及にさらに力を入れていくという。