ダンス系のショートムービーを共有するSNS「Tik Tok」が昨年と今年で大ブレイクをした。中国ではすでに1日1.5億人が利用するアプリになっている。その内容から「若者の流行」と捉えられることが多いが、すでに広い世代が利用するSNSになっていて、企業アカウントの登録も相次いでいると企業認証助手が報じた。
広い世代が利用する中国版Tik Tok「抖音」
Tik Tokについては、よく「若者の一時的な流行。すぐ終わる」とか「大人が入り込むようになると、ダサくなるので、流行が終わる」などと言われる。しかし、本家の「抖音」(ドウイン。中国版Tik Tok。この国際版がTik Tok)は、一時的な流行どころかプラットフォーム化をしつつあり、子どもからお年寄りまで利用する全世代的なSNSになりつつある。すでに毎日1.5億人のユニークユーザーが利用するモンスターアプリになっている。
▲もちろんダンス、手振りダンスの王道ムービーもまだまだ多い。
ダンスだけではないTik Tok
中国のTik Tokで、人気のあるムービーももちろんダンスだ。ホットダンス、手振りダンスが人気なのは、日本と同じで、中心になっているのもやはり若い女性たち。そこは変わらない。
しかし、それ以外の人気ムービーがさまざまな分野に及んでいる。人気があるのが食べ物系だ。美味しそうな食べ物、懐かしい食べ物、珍しい食べ物などを紹介するもの。さらに、料理の作り方を解説するムービー、レストランを紹介するムービーなどにも人気がある。
ゲーム関係のムービーも人気がある。素晴らしいプレイ、テクニック解説、面白プレイなどだ。
ペットムービーも人気がある。ペットの日常を紹介するもの、また便利なペットグッズの紹介などもある。このほか、旅行、化粧のテクニック解説などにも人気がある。
このように共有されるムービーのジャンルは多岐にわたっていて、しかも、それぞれのジャンルごとにインフルエンサーとも呼べる人気の配信者がいる状況だ。この状況を見て、企業アカウントも急増している。
▲ペット映像は、もはや定番映像になっている。
▲化粧の仕方の解説ビデオ。
▲旅行の攻略法と称した名所ガイド映像。
▲有名料理店の紹介ビデオも多い。道順なども紹介されるので、自分で行くときの参考になる。
▲料理の仕方もショートムービで行われる。要点だけを紹介するので、理解しやすい。
▲美味しいものの紹介ムービーも人気が高い。
見たい部分をいきなり見ることができるショートムービー
中国版Tik Tokは、すでに「若者の間での一時的な流行」を抜け出して、国民的なプラットフォームになりつつある。「ショートムービー版のユーチューブ」のような感覚になってきているのだ。
その理由は、15秒程度のショートムービーであるという点が大きい。例えば、ペットの動画を見るとき、ユーチューブではタイトルバックをつけ、配信者の挨拶があり、ペットが登場するところから始まる。しかし、見たいのはペットの可愛い姿だけなのだ。そこに行くまでの1分や2分を我慢して見続けなければならない。しかし、Tik Tokでは、いきなり誰もが見たいペットの可愛い姿が見られる。
旅行ガイド的なムービーでも同じだ。ユーチューブであれば、配信者の挨拶から始まって、観光スポットまで歩いていく姿が延々映される。しかし、見たいのは観光スポットの映像だけなのだ。
もちろん、ゆっくりと時間をかけて紹介するユーチューブには、それなりの魅力はある。しかし、一度15秒のショートムービーを見てしまうと、1分以上のムービーはいかにも退屈に感じられるようになる。ショートムービーというところに目をつけたことで、Tik Tokはムービー共有のプラットフォームになろうとしている。
独特のリコメンド手法を持つバイトダンス
もうひとつは、バイトダンス社の高いリコメンド技術がTik Tokのプラットフォーム化に大きく寄与している。
バイトダンスは、今ではTik Tokの運営元として有名になったが、実は「今日頭条」というニュースアプリがヒットしていて、いまだにこちらのビジネスの方が大きい。Tik Tokの中国での1日のアクティブユーザー数は1.5億人であるのに対して、「今日頭条」は3億人もある。
「今日頭条」は見た目は一般的なニュースアプリと変わらないが、リコメンド技術の精度レベルが違う。ニュースを開封する、読む、スクロールするといった動作を分析して、高い精度でその人が知りたがっているニュースをリコメンドしてくれる。しかも、不思議なのは、こういうリコメンドシステムを採用すると、同じジャンルのニュースばかりが表示されるようになって、退屈さを感じ始めるものだが、なぜか毛色の違ったジャンルのニュースがときおり入ってきて、新鮮さを失わない。
具体的にどのようなアルゴリズムでリコメンドをしているのかは公開されていないが、ただニュースアプリを使ってニュースを読んでいるだけで、必要なニュースが集まってくるようになる。これはもう手放せなくなる。あるいは他のニュースアプリが必要なくなる。1日3億ユーザーを確保している理由はここにある。
Tik Tokの中では、毎日新しいことが起こっている
このリコメンド技術は、Tik Tokにも当然採用されている。あるムービーを見たら、類似ムービーが延々リコメンドされるという単純なものではない。違ったテイストのムービーもリコメンドされ、1日ごとに見るムービーが違っていく。これが新鮮さを失わせないことにつながっており、ユーザーはTik Tokのムービー世界の奥深さを感じてしまう。
Tik Tokが若い女性のダンス映像から火がついたことは間違いない。しかし、本家のTik Tokは、リコメンド技術を使って、ダンス以外のムービーへと巧妙に誘導をしてきた。Tik Tokの世界では、毎日流行が変わっていくかのように錯覚をして、新鮮さを失わない。これが1日1.5億人の数字につながり、気がついてみたら、さまざまなジャンルのムービーが共有されるようになり、プラットフォーム化しているのだ。
バイトダンスは、明らかにこういったシナリオを描いて、戦略的に運営をしている。
ミニプログラム、企業アカウントで収穫ステージに入ったTik Tok
中国版Tik Tokは、ミニプログラム(アプリ内アプリ)に対応し、企業アカウントも急増している。「若者の流行」から「国民的プラットフォーム」にシフトすることで、広告と合わせて、収益を取りにきている。「若者の流行」としてカルチャー面で取り上げられる機会は少なくなっていくだろうが、ビジネスとしては次のステージに進むことになる。
バイトダンスが、海外のTik Tokをどう運営しようとしているのかはわからない。しかし、中国で成功したプラットフォーム化を日本でも試してみるというのは妥当な見方ではないだろうか。もはや、Tik Tokは「若者のブーム」ではなく、国民的なプラットフォームとしての地位を固めている。