中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国人は1日にネットを5時間40分使う。牽引しているのはショートムービー

5月27日、第7回中国ネット視聴大会が開催され、その席上で中国ネット視聴協会は「2019中国ネット視聴発展研究報告」を公開した。これによると、2018年12月時点で、中国のスマホユーザーの1日の平均利用時間は、341.2分(5時間41.2分)にもなると四川新聞網が報じた。

 

平均6時間弱使うスマホユーザー。牽引役はショートムービー

中国のスマホユーザーの1日の平均利用時間は5時間41.2分。これは2017年12月と比べて62.9分伸びた。通信量などが安くなり、4Gネットワークが隅々まで普及したことが要因だと考えられている。

その増加分に最も大きく寄与したのが「短視頻」(ショートムービー)で、増加分の33.1%がショートムービーだった。

また、ここ1年で新しくネットを使い始めた新ネットワーカーの各視聴コンテンツの利用率を見ると、53.2%がショートムービーを利用している。スマホの利用時間を延ばしているのは、ショートムービーであることが明らかだ。

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▲中国人は毎日、5.69時間もスマホを使う。1年間で約1時間延びている。伸び率が最も大きかったのがショートムービー(33.1%増)、次がWeChatなどのメッセージ系SNS(18.6%増)。

 

人気なのはTik Tokと快手

ショートムービーで最もよく使われているのは「抖音」(Tik Tok)と「快手」。この2つでショートムービー利用率の54.2%を占めている。次にくるのが「西瓜」「火山」。これを「土豆」「波波」「好看」「微視」「美拍」「秒拍」「快視頻」などが追いかけている。

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▲ショートムービーでは、「Tik Tok」「快手」がトップグループ。しかし、新規参入も多く、競争が熾烈になってきている。

 

スマートテレビでもショートムービーを見る習慣が

また、スマートテレビが急速に普及をしていることもショートムービーの追い風になっている。ショートムービが再生できるアプリがプリインストールされているのは当たり前になっていて、家族でショートムービーを楽しむことも普通になってきている。

2018年末ではスマートテレビがテレビ全体の36%まで普及をしてきている。

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スマートテレビの普及も進んでいる。2018年では36%の普及率になっている。スマートテレビでもショートムービーを見る人が多い。

 

すでに抜かれた長尺の動画共有サービス

ショートムービーに対抗するユーチューブ型の動画共有サービスでは、「愛奇芸」(百度系)、「テンセントビデオ」(テンセント系)、「優酷」(アリババ系)がトップを走り、「芒果TV」「ビリビリ」などが続いていて、現在でも多くの人が利用しているが、利用時間では2018年の5月頃にショートムービーに追い抜かれ、それ以降、動画共有サービスの視聴時間は伸び悩むようになった。

これは、日本で言えば、Tik Tokとユーチューブで同じジャンルの動画を見比べてみれば、理由はすぐに理解できる。一度、15秒から30秒程度のショートムービーを見てしまうと、1分以上ある動画はもはや退屈で我慢をして見る感覚になってしまう。

例えば、料理レシピ動画であれば、3分間で手早く手順を解説する動画すら、もはや退屈になる。配信者が挨拶やちょっとした冗談という料理と本質的に関係のないことをすると、早送りしたくなってしまう。それで早送りをすると、大事な部分を飛ばしてしまうことになってストレスがたまる。

一方、15秒から30秒のショートムービーでは、早回しで手順のみが紹介される。早すぎて一度見ただけでは理解できないように思えるが、逆に短時間で全体の手順を見ることができるので、段取りを理解しやすいのだ。このショートムービーをループ再生させながら料理をすることができる。

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▲長尺の動画共有サービスでは、「愛奇芸」(百度系)、「テンセントビデオ」(テンセント系)、「優酷」(アリババ系)のBAT系がトップグループ。しかし、全体ではショートムービーに利用時間で追い抜かれている。

 

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▲2018年に、ショートムービーの利用時間は、動画共有サービスを追い抜いた。

 

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▲1日の時間ごとの利用者数を見ると、ショートムービーはほぼすべての時間で長尺動画を上回っている。ゲーム実況、娯楽ライブ、音楽PVなどを大きく上回っている。

ネット広告収入を落としている百度とテンセント

3分の動画を1本見る間に、15秒のショートムービーを12本見ることができる。これは3分動画が1つのネット広告しか露出できないのに対し、ショートムービーでは12本のネット広告を露出できるということだ。

この差が、動画やニュースといった情報系アプリを主体にしているテンセントや百度の収益悪化を招いている。一方で、Tik Tokのバイトダンス、快手(スタートアップ)の急成長の源泉になっている。

テンセントの場合は、ネット広告収入だけでなく、SNSやゲーム配信、WeChatペイ、スマート小売といった多角的な事業展開をしているため、ネット広告収入が落ちてもテンセント全体の経営を圧迫するところまではいっていないが、その収入の多くをネット広告に頼っている百度の場合は、赤字決算を出すほどまでショートムービーに蚕食されてしまった。

ショートムービーが好まれる傾向は今後も続くと見られ、中国IT企業の地図を描き変えることも大いにありそうだ。

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▲Tik Tokはもはやダンス映像だけでなく、ニュースや料理レシピ、ライフハックなどさまざまな映像が共有されている。動画共有のプラットフォームとなり、若者だけではなく、中高年へも利用が広がっている。

 

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▲新しくスマートフォンを買った人の53.2%がショートムービーのアプリをインストールしている。動画共有アプリ、ライブアプリ、音楽PVアプリを大きく上回っている。