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中国で流行する外売サービスは、海外でも展開できるか?

中国のカフェ市場をリードするスターバックスが、近年、スマホ決済、外売サービス(出前)などの中国スタイルに対応を始めている。それだけでなく、米国で外売サービスを始めたいと言う発言まで飛び出した。人件費の安い中国ならともかく、外売サービスは海外でも可能なのだろうか。好奇心日報が論じた。

 

中国スタイルを米国でも展開したいbyスターバックス

中国のスターバックスが、中国で普及している外売(出前)を米国でも始めるかもしれない。上海のスターバックスを視察していたケビン・ジョンソンCEOが、ニュース専門放送局CNBCの記者に「中国のイノベーションは世界のどこよりも速い。中国で流行している新しいサービススタイルーー特に外売を米国市場でも展開したい」と語った。

今年9月、中国スターバックスは、アリババの盒馬鮮生(フーマフレッシュ)、餓了么(ウーラマ)と共同して、北京、上海で出前サービスの試験運用を始めた。現在は、17都市1000店以上のスターバックスで出前サービスを始めている。年末までに、30都市、2000店に増やす予定で、中国スターバックスの7割の店で出前サービスが行われることになる。

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スターバックスは、中国で独自の出前サービスを始めた。大きな市場である中国で生き残るため、中国スタイルを取り入れ始めている。


中国スタイルを取り入れるスターバックス

スターバックスのような中国市場に進出をしているグローバル企業は、中国でもグローバルスタイルを取ることが多かった。ところが、スターバックスの場合、国内からラッキンコーヒーというITを駆使したセルフカフェが急追し、昨年、9年ぶりの減収となった。

その危機感もあり、スターバックスは中国市場に適合する施策を進めている。そのひとつが、中国の都市部では当たり前のことになった出前サービスに対応をすることだ。

ただし、スターバックスは通常の外売サービスのプラットフォームには乗せず、独自の出前部隊を構築している。業界リーダーの意地とブランド力の維持を考慮しなければならないからだ。外売企業「ウーラマ」と提携してスターバックス専門チームを作っている。また、フーマフレッシュには店舗を出店し、「外送星厨」という名前で出前を行なっている。専用の配達パック、出前用のカップ、包装なども用意をしている。

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スターバックスが運営する高級業態「リザーブ・ロースタリー」は、現在シアトルと上海にオープンしている。焙煎工場が併設されているので、格段に美味しいコーヒーが提供される。

 

店舗の3倍の売上がある外売

この中国発のサービス「外売」を、米国市場でも展開することは可能だろうか。好奇心日報はその可能性を検討している。

飲食店の外売での売上はすでに3050億元(約5兆円)に達し、店舗売上の3倍程度になっていて、今後、その差は開く一方だと考えられている。飲食店の店舗売上は頭打ちであるのに対し、外売が今後も成長していくからだ。

 

人件費の低さと都市密度の高さが外売サービスを成立させている

米国での展開が難しいひとつの理由は人件費だ。外売サービスに従事する配達員はすでに800万人を超えていて、平均年収は3-4万元(約66万円)(ただし、フルタイムで働いている人は少数派)。これは工場労働者の収入よりも低い。

この他に、都市密度の問題があると、好奇心日報は指摘をしている。中国に人口100万人以上の都市は156都市あるが、米国には9都市しかない。人口1000万人の都市は中国には15都市あるが、米国には2都市しかない。この都市の規模があるために、中国では外売サービスが成立する。

外売の配達員は、一度にひとつの配達をするわけではない。通常、2件から4件の注文を一度にこなし、プラットフォームのアルゴリズムも、最短経路になるように配達員に注文を割り振り、効率を上げている。これも都市の人口が多いから可能になっている。

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▲人口が大きいこともあるが、中国の都市規模の大きさは他国を圧倒する。これが効率的なサービスが中国から生まれる要因になっている。なお、都市人口は一般的に市街部の人口で比較するので、東京も1000万人に届いていない。

 

店舗数を増やすことで外売の効率を上げ、市場をリードする

スターバックスは、独自の出前部隊を作っている。そのため、店舗数を一定数以上にしないと、出前の配達距離が長くなり、効率を上げることができない。そのため、スターバックスは今後4年で100の都市に新たに出店し、さらに大都市の店舗数も増やし、最終的に5000店舗規模にする計画を進めている。この時には、スターバックスにとって中国は米国を超え、世界最大の市場になる。店舗数を増やすことで、顧客との接点を増やすだけでなく、外売の配送拠点としても配送効率を上げられるようになる。独自の出前部隊を持っても、勝算はじゅうぶんにある。

 

都市密度は高い方がいいのか、低い方がいいのか

しかし、人口密度が中国ほど高くない米国ではどうか。米国にはすでにグラブハブが外売に相当する出前サービスを東部の都市、ロサンゼルス、サンフランシスコなどで展開している。

しかし、中国外売大手の美団(メイトワン)とグラブハブのデータを比較すると、中国のような低コストの配送はできていない。

人件費は中国が1時間あたり22元、米国が50元と2倍強であるのに対し、1件あたりの配送費用は中国美団が5.22元であるのに対し、米国グラフハブが38.6元と7倍にもなっている。これは、中国の都市の人口密度が高いために、効率的な配送が可能になっていることによる。

ケビン・ジョンソンCEOの「外売を米国市場でも」という発言は、まだ具体的な計画ではなく、多分に中国消費者に対するリップサービスの面もあるが、外売を中国以外の国で展開するには大きな壁がある。それは賃金の問題だけではなく、中国政府が、都市の人口密度を上げ、人口を都市に集中させる政策をとっていることにもある。

都市への人口集中を分散させ、国土の均衡ある発展を促すという考え方もあるが、中国は明らかに都市に集中をさせ、都市の効率を大幅に上げるという方向に進んでいる。都市密度は高い方が経済面では有利になる。一方で、高すぎれば生活環境としては不利になる。すでに世界の人口の半分は都市人口であると言われ、都市人口の比率は上昇している。高密度の都市のデザインを考える時期にきている。

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▲出前サービスの中国「美団」と米GrabHubの比較。1件あたりの手数料売上は美団が5.22元と圧倒的に安い。それだけ効率的な配送が可能で、低価格が実現できていることになる。