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物流も集中から分散へ。新小売の要は物流革命

中国のアリババや京東(ジンドン)が目指している「新小売」は、販売方法もそうだが、物流にも大きな改革が必要になる。展開する店舗を倉庫にも利用し、そこから周辺の顧客に30分配送するという「分散型倉庫」が大きなカギになる。その実現手法は、アリババと京東では大きく異なっていると網経社が解説している。

 

集中物流の旧小売、分散物流の新小売

生鮮食料品を3km以内に30分配送するアリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)。「新小売」という名称から「新時代の販売方法」と見られることが多いが、実は「新時代の配送物流」でもある。

既存のECサイトのように大規模な配送センターを設置し、そこから宅配をする集中方式の場合、巨大倉庫と配送車に大規模な冷蔵、冷凍施設が必要になってくる。さらに集中物流方式では、配送時間を24時間よりも縮めることは難しい。つまり、冷蔵、冷凍車で24時間近く商品を輸送することになり、品質の劣化も懸念される。

新小売では、フーマフレッシュ各店舗の冷蔵、冷凍設備を分散型倉庫として利用する。そこから各顧客までの配送は30分配送なので、保冷ボックスなどでじゅうぶん対応できる。30分配送は、顧客が「自宅で待てる時間」というユーザー体験を重視したものであるだけではなく、低コストで生鮮食料品を配送できる時間でもあるのだ。

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▲新小売スーパー「フーマフレッシュ」の上海市の配置図。青い部分が配達地域で、それぞれの中心にフーマフレッシュの店舗がある。店舗は配送倉庫の役割も担う分散型物流網が構築されつつある。

 

アマゾンが築いてきた収集物流方式

アマゾンは、ECサイトの運営をしながら物流革命を起こしていった。「アマゾンは小売業が本質ではなく、物流業が本質だ」とまで言う人もいる。

アマゾンの採用した方式は、集中物流だった。巨大な倉庫、巨大な物流センターを建設することで、効率化が図られ、物流コストは大きく下がっていく。現在、アマゾンの物流コストは、販売額の1.0-1.5%程度だと言われている。リアル小売である米国の大型スーパー「Kマート」は8-9%、百貨店のシアーズは5%程度と言われるているので、アマゾンの物流は圧倒的に強い。物流センターを大型化して、数を絞ることで、倉庫面積を10-25%圧縮できると言われ、これが低コスト化に大きく寄与している。

アマゾンは20年かけてこの物流構造を構築してきて、現在北米には75の物流センターと25の仕分けセンターがあり、12.5万人の人が働いている。クリスマスセールシーズンには12万人が臨時雇用される。

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▲新小売スーパー「フーマフレッシュ」では3km圏内に30分配送する。店舗を倉庫としても利用し、注文が入るとスタッフが商品をピックアップ。バッグに入れ、これをリフトで天井のレールにあげる。そのままバックヤードに送られ、配送されるという仕組みだ。

 

既存企業との提携連合で分散物流網を築くアリババ

新小売戦略を進めるアリババ、そして無界小売という名称でアリババを追撃する京東は、集中型のアマゾンの物流に対して、分散型の新小売の物流網を構築していかなければならない。

アリババは、傘下の物流企業「菜鳥」の株式持分を増やし、今後5年で1000億円の資金を投じて、物流網を整備していくことを発表した。目標は中国国内に24時間以内、海外に72時間以内の配送を実現することだ。

さらに、ECサイト「Tmall」でも即時配送のネットワークを利用して、2時間配送を始め、Tmallでも生鮮食料品の販売を強化していく。

アリババは、このような物流網を、既存企業と資本提携をしながら構築していく戦略で、すでに主な物流企業との提携を進めている。

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▲アリババは、外部企業と資本提携などを通じて、分散型物流網を構築しようとしている。

 

集中物流をベースに、分散物流にも対応する京東

アリババの新小売を追撃する京東も、昨年、京東物流という子会社を設立し、物流網の整備に着手をしている。

京東は、アリババのECサイト「Tmall」のライバルで、自前の物流網をすでに構築している。アリババが物流系企業と資本提携する形で物流網を整えてきたのと違い、京東は自前で構築をしてきた。その意味ではアマゾン型であり、これまでECサイトが中心であったため、アマゾンと同じような集中型物流網だ。日本のアマゾンの倉庫面積が16カ所で約74万平米(公開拠点のみの総計)であることを考えると、すでに相当巨大な物流網を構築していることがわかる。

これを京東物流は、積極的にテクノロジーを利用することで、新小売に適した分散型にも対応できる物流網に変えていく。すでにドローン配送、無人カート配送などは実現しており、さらに無人倉庫、無人配送拠点なども技術開発も進めていく。

アリババ、京東ともに手法は異なっても、今まではアマゾン型の物流網の構築を目指してきた。しかし、新小売の成功により、物流網もアマゾンのような集中型から、新小売の分散型に転換することになり、独自の物流方式を構築していくことになる。

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▲京東は独自で集中型物流網を構築してきた。設備面積は、日本のアマゾンの10倍以上に達している。今後は、新小売に対応するため分散型物流に対応していく必要がある。そこにテクノロジーを導入して、ドローン配送、無人カート配送などを始めている。

 

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▲独自の物流網を構築している京東は、無人テクノロジーの開発も積極的に進めている。ドローン配送、無人カート配送などはすでに一部の地域でサービスを始めている。