中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

生鮮ECに出現した「631局面」。競争が終わるのか、それとも新展開の始まりか

調査会社Trustdataが公開した「2019年1-9月中国モバイルインターネット産業発展分析報告」で、生鮮ECの分野に「631局面」が初めて出現したことが明らかになったと中国新聞網が報じた。

 

シェアが固定化する「631局面」

631局面とは、シェアの比率が第1位と第2位で、6と3、その他という構成になることで、この局面になるとシェアが固定化すると言われている。

Trustdataの報告書によると、生鮮ECアプリのMAU(月間アクティブユーザー数)は、毎日優鮮が1位、盒馬鮮生(フーマフレッシュ)が2位で、ほぼダブルスコアになっている。その他のMAUは小さく、ほぼ6:3:1であるため、631局面になったと言われる。これは、生鮮ECの分野では初めてのことになる。

f:id:tamakino:20200210124044p:plain

▲生鮮ECの2019年9月のMAU。「毎日優鮮」「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を中心とした631局面が初めて出現した。

 

他の領域でも起きている「631局面」

2018年、フードデリバリーの外売サービスは、売上シェアが「美団」(メイトワン)59%、「餓了」(ウーラマ)36%、「百度外売」3%と631局面になった。これによりシェアが動かなくなり、ウーラマはアリババに身売りをすることになった。

なぜ631局面でシェアが固定化するのか、そこに理論的な理由があるわけではない。しかし、1位と2位が熾烈な競争をした結果、ダブルスコアになると、心理的に競争が落ち着いてしまうのではないかと言われる。これにより、第2位のプレイヤーは業態をピボットする、身売りをするなど、別の方向を考えるようになる。

同様に、ショートムービーでも631局面が現れている。「抖音」(ドウイン、Tik Tok)、「快手」を中心とした631局面になっている。

また、ECの分野でも「拼多多」(ピンドードー)がMAUを大きく伸ばし、以前第2位だった「京東」(ジンドン)を抜き、「淘宝」(タオバオ)が1位、「拼多多」

が2位の631局面となっている(販売額では京東が2位)。

一方で、地図アプリの分野では「高徳」(ガオダー)、「百度」(バイドゥ)、「騰

訊」(タンシュン、テンセント)、「Google Map」などが1位を争って競争をしている。631局面にはなっていないわけで、まだまだ競争が行われると見ることができる。

f:id:tamakino:20200210124038p:plain

▲ショートムービーの2019年9月のMAU。最も多いのが「抖音」(Tik Tok)、その次が「快手」。631局面に近い状況になりつつある。

 

f:id:tamakino:20200210124041p:plain

ECサイトの2019年9月のMAU。「淘宝」(タオバオ)、「拼多多」(ピンドードー)を中心とした631局面になっている。

 

f:id:tamakino:20200210124047p:plain

▲マップアプリの世界では、横並びになっていて、631局面にはなっていない。まだまだ競争が続くと見られる。

 

毎日優鮮は店舗のない「前置倉」

毎日優鮮、フーマフレッシュのいずれも、「ECで生鮮食料品を扱うにはどうしたらいいか」という課題を解決するところから始まっている。当初は、既存ECの集中物流方式と冷蔵配送車を組み合わせて宅配をするというところから始まった。都市に1カ所または2カ所程度の大型倉庫から、冷蔵配送車で各家庭に配達をするというものだ。

しかし、コストと商品ロス率が高すぎて、すぐにうまくいかないことがわかった。通常の宅配荷物とは別に、専用の冷蔵配送車で宅配をしなければならず、配達エリアが広いために早くて翌日配送であり、不在率も高い。宅配ボックスなどに置き配をすることもできない。

そうこうしているうちに、食品の鮮度が落ち、商品ロス率は20%から50%にも達したと言われている。

これを解決したのが、毎日優鮮の「前置倉」(前線倉庫)という考え方だ。配達地域に小さな倉庫をたくさん作り、それで市内をカバーしていく。倉庫からはバイクなどで周辺、半径1kmから3kmの周辺配達地域に宅配をする。集中倉庫から前線倉庫までは冷蔵配送車で補充商品を定期配送するというものだ。毎日優鮮では、商品ロス率を1%程度に抑え込むことができているという。

これにより、全国1500カ所に前線倉庫を配置し、北京市では倉庫面積1平米あたり年10万元の売り上げを上げている。一般的なスーパー、コンビニでは0.5万元が標準なので、驚異的な面積効率だ。

 

一歩先に進んだフーマフレッシュの「店倉合一」

一方のフーマフレッシュは、生鮮ECに分類されることが多いが、アリババが提唱している「新小売」(ニューリテール)を体現したスーパーだ。新小売のキモとは、オフラインのユーザー体験とオンラインのユーザー体験を融合することだ。利用者は、スマホ、来店のいずれでも商品を購入することもできる。

フーマフレッシュは、前置倉の考え方をさらに一歩進めて、倉庫でもあり店舗でもある「店倉合一」方式を採った。これにより、利用者は店舗にきて、生鮮食料品などの鮮度を自分の目で確かめることができる。

面白いのは、店舗に来て、そこでスマホを使って宅配注文をする人も多いことだ。フーマフレッシュの店舗にはフードコートが設けられていて、販売されている食材を使った料理が格安で提供されている。食事をしに店舗に行き、そのついでに食材の鮮度などを確認して、スマホで注文をする。安心して購入することができ、自分で持って帰る煩わしさも必要なくなる。

これで店舗面積1平米あたり年1.7万元の売り上げを上げている。スーパー、コンビニの3.4倍になる。

f:id:tamakino:20200210124033p:plain

▲生鮮ECの4大都市での会員数を見ると、はっきりと631局面になっていることがわかる。これにより、シェアが固定化をするのか、それとも別の展開の競争が始まるのか議論になっている。

 

顧客層が大きく違っている「毎日優鮮」と「フーマフレッシュ」

生鮮ECに初めて631局面が現れたことにより、毎日優鮮とフーマフレッシュのシェアは固定化すると見る人もいる。しかし、それに同意しない人たちもいる。というのは、前置倉と店倉合一という方式の違いだけでなく、消費者層も大きく違っているからだ。

毎日優鮮は、倉庫面積が100平米程度、SKU(扱い品目)は1000程度。一方のフーマフレッシュは店舗面積が4000平米以上、SKUは6000以上と、別業態と言ってもいい。わかりやすく言えば、毎日優鮮は宅配コンビニであり、フーマフレッシュは宅配スーパーだ。

そのため、毎日優鮮は若年層、単身者によく利用され、フーマフレッシュは中高年、ファミリー層によく利用されている。

f:id:tamakino:20200210124050p:plain

▲「毎日優鮮」「フーマフレッシュ」は、ビジネスモデルが異なるだけでなく、顧客層も大きく違っている。若者単身者に支持される「毎日優鮮」、ファミリー層に支持される「フーマフレッシュ」という違いがある。

 

互いに収斂し始める生鮮ECの2強

ただし、この2強はそれぞれに対抗をし始めている。毎日優鮮はより大型で扱い品目が多い毎日優鮮2.0倉庫の配置を始め、フーマフレッシュの顧客を奪おうとしている。一方のフーマフレッシュもミニ店舗、倉庫店舗の出店を始め、毎日優鮮の顧客を奪おうとしている。

この競争の行き着く先は、互いに互いの強みを取り込み合いながら、どちらも似たようなサービスになってしまうのかもしれない。そうなると、631局面のままでは、フーマフレッシュの成長が止まってしまう。

フーマフレッシュは、深圳市に、ユニクロなどの既存店も新小売化する「フーマモール歳宝」の出店も行っている。フーマフレッシュは、これから店舗数を拡大する垂直展開だけでなく、異なる業態に横展開することも活発になっていくかもしれない。

生鮮ECが631局面になったことで、競争が終わり、シェアが固定化するのか、それともそれぞれが異なる方向に横展開をして、まだまだ市場が流動するのか、注目されている。