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中国版新幹線が、来年からチケットレスに

中国版新幹線「高鉄」が、2019年から、SNSスマホ決済アプリ「WeChat」の電子身分証に対応すると発表した。さらに、今年秋からは、電子チケットの試験導入を始め、来年からは、身分証もチケットももたず、スマートフォンだけあれば高鉄に乗れるようになると北京時間が報じた。

 

中国版新幹線のチケット購入には2時間の行列

高鉄のチケット購入は、以前はとてもたいへんな仕事だった。当初はだれでも自由に購入できたが、10年ほど前からチケットの購入については、身分証の提示が必要になった。テロ対策とダフ行為の防止のためだった。チケットが自由に買えた時代は、大量にチケットを購入し、高額転売する業者が現れた。そのため、一般の人は正規チケットを買うことができず、ダフ屋から買わざるを得ないこともあった。

身分証を提示する仕組みにしてからは、大量購入ができなくなり、チケットは買いやすくなったが、駅の販売窓口に行列をしなければならない。週末やハイシーズンには2時間並ぶというのも珍しいことではなかった。

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スマホを持っていない、スマホの使い方がわからない人は未だに駅の窓口に行列をしなければならない。そういう人の人数は減っているが、それ以上に窓口の数が減らされているので、行列時間は以前と同じか、むしろ伸びている。並んでいる人のほとんどがスマホを手にしていないことに注意。

 

今年からスマホで購入できるようになった

そこで中国鉄路総公司では、街中に「代售点」というチケット販売所を開設した。ここであれば、駅に行って長い行列に並ばなくても、チケットを購入することができる。しかし、ハイシーズンになると、この代售点でもやはり行列ができ、時間がかかる。

そこで、今度は各都市に電話番号12306の電話によるチケット予約の仕組みを始めた。行列に並ぶ必要がなく、好評だったが、すぐに利用者から不満の声が上がった。音声のやりとりでチケットを購入するのはかなり面倒で、時間もかかる。そのため、何度かけても話し中ということが増えていった。

そこで、12306はウェブに対応し、今年初めからはスマホ決済に対応した。これでスマホだけでチケットの購入ができるようになり大好評で、半年間で3600万枚のチケットがスマホ決済で販売された。

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スマホ決済アプリ「アリペイ」「WeChat」の中から、列車の検索をして購入することができる。空き座席数もリアルタイムで表示される。支払いはもちろん、その場でスマホ決済できる。

 

スマホで購入、自動発券機で発券

現在、多くの人はスマホから高鉄のチケットを買う。ウェブ、専用アプリもあるが、便利なのはスマホ決済アプリ「WeChat」「アリペイ」の中からチケット購入する方法だ。空き座席のある列車を検索し、購入をタップするだけ。 購入をタップし、そのままスマホ決済でチケット代を支払うことができる。

乗る前に駅に行くと、自動発券機が無数に置いてある。大量に設置されているので、混雑時でも並んでいるのはせいぜい数人。これに身分証をかざすと、チケットが発券される。後は高鉄に乗るだけだ。行列をする必要はまったくなくなっている。

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▲現在は、スマホでチケットを予約し、スマホ決済で支払い、駅の自動発券機で発券をするというのが一般的。

 

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▲駅に置いてある自動発券機に自分の身分証をかざす。これでスマホで予約したチケットが発券される。時間もかからず、大量に自動発券機が置いてあるので、ほぼ並ばなくて済む。

 

身分証、チケットも電子化される

ただし、ありがちなのが、駅に行くときに身分証を持って行くのを忘れてしまったというケース。発券ができないので、どうにもならない。電子身分証が使えるようになると、スマホさえ持っていたら、身分証がなくても発券ができるようになる。さらに、電子チケットが使えるようになると、発券機を使う必要もなくなり、スマホだけで高鉄に乗ることができるようになる。

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▲WeChatペイの中に電子身分証を登録できるようになった。これで身分証を携帯しなくても、高鉄のチケットの発券ができる。

 

スマホが使えなければ今でも2時間の行列

ところで、中国でも全員がスマホを使っているわけではない。そういう人はどうしたらいいのだろうか。駅の窓口に並ぶか、市内の代售点で買うか、電話予約しか方法がない。しかも、利便性は以前よりも悪化している。駅の窓口はいくつもあるのに、閉鎖をされ少数しか開けない。市内の代售点はどんどん閉鎖されている。電話予約はオペレーターが減らされ、なかなかつながらない。結局、ハイシーズンでなくても、2時間から3時間は並ばないとチケットが買えない。

新しく便利な方法を提供しているのだから、古くて合理的でない方法はどんどん切り捨てて行く。旧い方式の利便性や快適さはまったく考えないどころか、以前と同じ程度の不便さを維持するようにリソースを引き上げてしまう。あまりにも情報弱者に対して冷たい仕打ちだが、考えてみればスマホの料金はもはやそう高いものではないし、使い方も誰かに教われば高齢者でも覚えられる。そういう少しの努力すらしない人は、どんどん置いていかれる。それが中国社会を前に進める原動力のひとつになっている。

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▲1995年の広州駅で、春節のチケットを買う人の行列。割り込みされるので、全員が前後の人と密着する。これで2時間から4時間並ぶ。わずか20数年前はこうだったのだ。

 

情報弱者は切り捨てる。それが中国スタイル

駅のチケット購入の行列は、20年前の中国そのままだ。2時間以上並ぶというのに、だれもスマホを取り出さず、虚ろな目をしてただ並んでいる。そして、未だに行われている割り込み。割り込みを防ぐために、前後の人と密着する。そして、割り込みに怒りをあらわにする人とのトラブル。もうドキュメンタリー映画の中でしかお目にかかれない「民度の低い中国」がそこに残されている。

わずかな努力をしない人はどんどん置いていかれ、切り捨てていかれる。高鉄のチケットだけでなく、中国社会のすべてにおいて、こういう切り捨てが行われている。これが中国社会が猛スピードで進化する要因のひとつになっている。