中華IT最新事情

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スマートスーパー三国志演義。アリババvs京東vs永輝

アリババが提唱した「新小売」。IT技術を大幅に導入してショッピング体験を大きく変えることを意味している。アリババの「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)、永輝の「超級物種」、京東の7フレッシュと3社のスマートスーパーが売上を競っていると人人都是産品経理が報じた。

 

食事ができて買い物ができるスマートスーパー

2016年から、アリババは「新小売」戦略を提唱している。IT技術を使って消費者のショッピング体験を大きく変えていくと宣言し、2017年から「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を始め、すでに40店舗に達し、人気を博している。

この成功を見て、国内系スーパーの永輝は「超級物種」、ECサイトの京東は「7フレッシュ」をオープンして対抗している。

いずれも業態としてはグローサラント(グロッサリーストア+レストラン)。生鮮食品を購入できるだけでなく、その食品を使った料理を食べることもできる。買い物のついでに食事をすませてしまう。あるいは食事を食べて、その料理に使われている食材を買って帰り、自宅で料理を作ることを楽しむなど、単なる小売ではなく、体験を重視した店舗になっている。

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▲アリババが運営するフーマフレッシュ。スマホ注文による宅配売上が全体の50%を超えるという常識を超えたビジネスモデルのスマートスーパーだ。

 

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▲永輝スーパーが開店した超級物種。永輝は国内系スーパーとして定評を得ている。超級物種は高級食材を揃えた高級スーパーという位置付けだ。

 

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▲京東が北京に開店した7フレッシュ。IT技術がふんだんに投入されている。今後、宅配サービスなどを始め、アリババのフーマフレッシュと対抗していくことになる。

 

スマホからの宅配注文は最短30分配送

この3つのスマートスーパーは、店舗だけでなく、宅配も重視をしている。フーマレッシュでは、食材、料理とも3km以内であれば30分配送をしてくれる。スマートフォンの専用アプリから注文する。配送料は無料で、理由を問わず返品OKだ。

超級物種は、宅配については現在システムを構築中だが、フーマフレッシュよりも距離は短く、時間も長くなるのではないかと見られている。

7フレッシュは、京東のECサイト物流の仕組みを利用し、フーマフレッシュと同じく、3km以内30分配送を実現している。

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▲フーマフレッシュの店内数カ所にバッグステーションがある。スマホ注文が入るとスタッフがこのバッグを持って商品をピックアップ。右手のリフトでバッグを天井に上げる。

 

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▲リフトで持ち上げられたバッグは、天井のレールを走ってバックヤードに送られる。バックヤードから宅配スタッフが配達をする。

 

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▲7フレッシュはまだ宅配は始めていないが、天井のガイドレールは設置されている。宅配のための準備だと思われる。

 

超級物種はITよりもエコ、健康を重視

IT技術の導入については、各スーパーともそれぞれに特色がある。超級物種は、あまり目立ったITっぽさはない。もともと永輝が運営していた永輝緑標店を継承しているため、エコ、健康、新鮮、有機などのコンセプトを前面に打ち出しているため、過度なIT技術を導入せず、スマホ決済可能なセルフレジ導入程度に収めている。

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▲超級物種のレストラン部分。オープンテラス方式にしている店舗が多いようだ。

 

宅配を重視しているフーマフレッシュ

フーマフレッシュは、スマホ注文による宅配を重視していて、その仕組みが話題になっている。注文が入ると、ピックアップスタッフが、専用のバッグを持って、商品を集める。これを店内にあるエレベーターに掛けると、バッグが天井のレールを走って、バックヤードに送られるのだ。バッグは電子的に管理されているので、そのまま宅配スタッフが配送を行う。

また、当然、セルフレジが導入され、アリペイ決済が可能になっている。

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▲フーマフレッシュのレジは原則セルフレジ。スマホ決済「アリペイ」のみ。現金決済の人はインフォメーションデスクで支払う必要がある。

 

7フレッシュで話題になったレジに並んでくれるカートロボット

京東7フレッシュは、IT技術を前面に打ち出したスマートスーパーだ。話題になっているのがスマートカートだ。専用アプリを起動して、カートのQRコードを読み込むと、そのカートが自分のカートになる。このカートは自走式で、買い物客の跡をついてきてくれるのだ。また、レジにも買い物客の代わりに並んでくれる。自分は喫茶コーナーやレストランで休んでいれば、その間にレジに並んで、スマホ決済で自動決済してくれるので、商品を受け取って帰るだけでいい。

もうひとつが、商品棚の上に設置された鏡だ。商品が見えやすくなるというだけでなく、商品ラベルのQRコードを読み込むと、この鏡に産地や糖度などの詳細な情報が表示されるというもの。

また、買い物客の分布をリアルタイムで計測するシステムが導入されていて、常に買い物客のヒートマップを作成し、その情報から自動的に、スタッフがどの商品棚を商品補充をしなければならないか指示をしてくれる。この情報を元に、どの売り場でセールやイベントをするかなどの判断もできる。

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▲7フレッシュのスマートカートは、QRコードを読み込むことにより、その買い物客専用のカートとなり、自動追尾してくれる。他の買い物客などは自動的に避けてくれる。

 


This is the autonomous shopping cart in 7Fresh

▲7フレッシュのスマートカートは、レジに並んで精算もしてくれるので、買い物客はお茶でも飲んで待っていればいい。

 

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▲7フレッシュの商品棚上部のミラーはモニターにもなっていて、商品の産地や糖度といった情報が表示される。

 

実体店舗とEC店舗のいいところ取りを目指す新小売

「新小売」戦略というのは、IT技術を使って、買い物体験を一新するというだけのものではない。究極の目標は、オンライン購入とオフライン購入の融合だ。スマホからの注文でも、店舗での買い物でも同じ感覚でできるようにすることが目標で、日常の買い物は自宅から、あるいは帰宅途中からスマホで注文し、宅配をしてもらい、週末などの時間がある時は店舗を訪れて、新しい商品に出会ったり、食材の鮮度を体験してもらう。そういう世界を目指している。宅配売上が増えるということは、店舗の単位面積あたりの売上を大きく伸ばすことにつながるのだ。

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▲フーマフレッシュのレストラン部分。フーマは内装に豪華さはないが、物流を改革したことで、新鮮な食材が低価格で購入できる。多くの利用客が「他店の半額ぐらいの感覚」だと口を揃える。

 

悪い体験を減らし、いい体験を増やす

日用品の買い物には、しなければならない「悪い体験」としたくなる「いい体験」がある。牛乳や水、調味料、トイレットペーパーなど不足をしたものを買いにいくのは「悪い体験」の買い物だ。広いスーパーではどこに目的の商品があるのか探し回ることになるし、帰りはレジ袋が手に食い込むのを我慢して歩かなければならない。悪い体験の買い物はスマホ注文による宅配で済ませてしまいたい。

店舗に行って、未知の商品と出会ったり、新鮮な食材を見たり、食事としたりというのは「いい体験」の買い物だ。この時は店舗にきてほしい。フーマフレッシュでは、週末になると、パン焼き教室や試食会など、さまざまなミニイベントを行って、「いい体験」を与えようとしている。

悪い体験を減らし、いい体験を増やす。これが新小売戦略が目指すところだ。

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▲7フレッシュのレストラン部分。7フレッシュで販売している食材を使った料理が提供される。

 

フーマフレッシュは宅配売上が50%以上、単位面積あたりの売上は3.7倍

最もこの新小売戦略がうまくいっているのが、フーマフレッシュで、すでに宅配売上が全体の50%を超えている。店舗によっては60%越えのところもあるという。面積あたりの売上は、既存スーパーの3.7倍を達成しており、最終的に5倍程度にまで高めることを目標にしている。

超級物種はエコ、有機、健康などを打ち出しているため、スマホ注文による宅配で済ませようとするよりも、店舗に行って商品を自分の目で確かめたいという人が多く、宅配売上比率は現在10%程度。これから、この比率をどうやって高めていくかが課題になっている。

7フレッシュは、まだ1号店が開店して半年程度で、宅配サービスをスタートしていない。しかし、京東では、2018年度中に北京に数十店舗を開店し、宅配サービスをスタートさせるとしている。京東は、ECサイトの独自物流を持っているので、宅配そのものは難しくないと見られ、7フレッシュが宅配サービスを始めると、この3つのスマートスーパーの三国志演義が本格的に始まることになる。