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中国ECの過剰な消費者保護施策。消費者を守ることがECを成長させた

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https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、中国ECの消費者保護施策についてご紹介します。

 

中国の観光業が苦しんでいます。10月の国慶節の連休の国内旅行の人手は、8.26億人で、昨年同時期から71.3%増となりました。ものすごい増加ぶりですが、コロナ前の同時期と比較するとわずか4.1%増にとどまり、回復はしたものの期待したほど消費の起爆剤にはならないと、喜びと失望が半ばする状況になりました。

中国の報道では、どこの観光地も限度を超えた混雑の映像が多用されましたが、実際には人気の観光地と不人気の観光地の格差が広がっているようです。また、関係者が口を揃えるのが節約志向です。旅行に行っても、不要なお土産は買わないし、料理も観光客向けの価格が高いものには見向きもせず、事前によく調べて、安くて美味しい店に人が集まっているということです。

さらに、壊滅的なのが中国のインバウンド旅行です。ビザ免除制度を停止をしていたために、中国に行く観光客がほぼゼロに近い状態が続いていました。一方、中国のアウトバンド旅行も低調で、関係者は落胆をしています。一部報道では、2000万人が海外に行くという数字が上がっていましたが、国際線の便数がコロナ前と比べてまだまだ少なく、価格も高いため、そこまで大きな数字になっていないと感じているそうです(いずれ統計情報が発表になるので、そこでまた詳しくお伝えします)。

特に、海洋放出の件で日本、強盗事件でタイの人気にストップがかかったことが痛かったようです。コロナ前は、海外旅行の人気先として1位と2位だったわけですから、そこに問題が発生して行きづらい空気感が生まれた影響は小さくなかったようです。

 

おそらく旅行関係者からの陳情もあったのだと思います。国家移民管理局は、ビザ免除制度の再開を発表しました。

 

https://www.nia.gov.cn/n741440/n741577/c1601850/content.html

▲ビザの免除制度が再開した。日本からは6日間であればビザ不要で観光が可能になった。

 

パスポートの有効期限が3ヶ月以上残っていれば、144時間(6日間)までビザなしで滞在をすることができます。長期滞在には以前と同じように事前のビザの申請が必要ですが、4、5日ぐらいの軽い旅行であればビザなしで可能になりました。

※注:こちらの文書はトランジットビザの対象国拡大のものでした。直接訪問ではなく、第三国を訪問する際の通過国として中国に144時間までトランジットビザで入力できるというものでした。誤った情報を提示してしまいました。

正しい文書は以下のものです。

https://www.gov.cn/zhengce/content/202309/content_6907051.htm

ビザ免除の拡大について触れられていますが、対象国、時期などにはついては今後発表されることになります。また、日本中国の国際便は、この発表を受けてすでに増便されているため、近々にビザ免除の発表があるかと思います。

誤った情報を載せてしまい申し訳ありませんでした。また、ご指摘をしてくださった方、ありがとうございます。

 

このインバウンド再開の準備は、昨年2022年の夏頃から始まっていました。というのは、この頃から、スマホ決済「支付宝」(ジーフーバオ、アリペイ)と「微信支付」(ウェイシン、WeChatペイ)の国際クレジットカード対応が議論されるようになったのです。2023年に順次対応が始まり、今ではおそらく海外で使っているすべての人がクレジットカードからポストペイ方式で、アリペイ、WeChatペイが使えるようになっているはずです。

コロナ前、中国に行くと、外国人にとってはスマホ決済が鬼門になっていました。利便性が高いのはわかっていますが、中国の銀行口座がないとオンラインでのチャージができないのです。長期滞在をするのであれば、銀行口座を開いてしまえばいいのですが、短期滞在では口座を開く時間がありません。

そこで、銀行口座がない場合は、空港などに設置されているチャージ機(手数料を取られる)を使うか、知り合いに現金を渡して送金してもらう形でチャージをするしかありません。

さらに、アリペイ向けに上海銀行がTourPassというサービスを始め、これを使うとクレジットカードからアリペイにチャージをすることができました(サービスはすでに終了)。

 

しかし、このようなチャージ方法は実際はあまり意味がありません。使えるのは対面決済のみで、それであれば現金で決済しても大した違いはありません。重要なのは、タクシー配車や列車チケット購入、モバイルオーダーなどのミニプログラム経由の決済ができるかどうかなのです。

ミニプログラムでの決済を利用するには、残高があるかどうかだけでなく、実名でないと利用できないサービス(高鉄のチケット購入など)があるため、与信スコアが一定以上ないと利用できません。どのくらいの与信が必要かはサービスによりますが、一般的には中国の身分証の登録と銀行口座の紐付けが必要になります。このため、外国人が銀行口座なしで、パスポートを登録してスマホ決済を利用した場合、ミニプログラムでの決済がほとんどできない状態になっていました。

これは非常に不便です。まずタクシーが呼べません。2018年頃には多くの人がスマホでタクシーやライドシェアを呼ぶようになり、街を走っているタクシーはほとんどが迎車で、手を挙げても止まってくれません。特に夕食後は絶望的です。

これが、現在は、クレジットカード+パスポートの組み合わせで滴滴(ディディ)などの配車サービスが利用できるようになっています。また、12306(中国鉄路)を使って高鉄のチケット購入も可能になっています(ただし、変更、返金は駅に行く必要がある)。多くのミニプログラムでモバイルオーダーなども利用ができるようになっています。

金融系などのサービスでは利用できないものもありますが、日常生活では中国人とほぼ同じサービスをスマホから利用できるようになっています。

なお、一部のブログなどで、上海銀行のTourCard(TourPassの後継サービス、アリペイのミニプログラムとして提供)を勧めていますが、私はお勧めしません。なぜなら、このサービスはクレジットカードで銀聯のQuickPass(QRコード決済)が利用できるサービスだからです。アリペイやWeChatペイとは別ものです。銀聯に対応していない商店はまだまだありますし、使えるのは対面決済だけです。対面決済であれば現金でもいいわけです。アリペイ、WeChatペイの決済の魅力は、ミニプログラム経由でタクシーを呼んだり、チケットを購入したり、モバイルオーダーができることにあるので、QuickPassが利用できるようになることにあまり意味を感じません。渡航をされる前に、アリペイかWeChatペイのいずれかにクレジットカードとパスポートを登録しておくことをお勧めします。

このようなクレジットカード対応は、日本向けというわけではなく、あらゆる国の人がアリペイ、WeChatペイを使えるようにするものです。中国はインバウンド再開に向けて着々と準備をして、今回のビザ免除の再開を始めました。

 

一方、淘宝網タオバオ)やAliExpress、ピンドードー(Temu)なども日本対応を始めていて、日本から購入し宅配をしてもらうことが可能になっています。

 

1)AliExpress

アリババの越境ECとして有名です。日本でもすでに使っている方は多いかと思います。商品説明などは日本語化されており、価格も日本円で表示されます。中国から送られてくるというだけで、国内のECを利用するのと感覚的には変わりありません。

AliExpressをお使いの方はびっくりするかもしれませんが、価格は高めです。AliExpressは、アマゾンなどの日本のECに比べて激安価格で商品が購入できると言われていて人気ですが、中国の国内価格から見ると2倍ほどの値付けがされています。それだけ中国の国内価格は安いということです。もちろん、安心をしてスムースに海外から購入できるのですから、そのぐらいの価値はあると考えることもできます。価格的には「アマゾン日本>AliExpress>Temu>タオバオ」という感覚です。

 

2)Temu(ティームー)

Temuは、ピンドードーが始めた越境ECです。米国ではアマゾンのダウンロード数を上回る勢いがあり、すでに米国業者が驚異を感じていて、一時期「個人情報を不正に収集している」として、配信停止になっていたことまであります。例によって、違法な収集の根拠はよくわからず、配信を再開しています。

このTemuが日本でもサービスを始めています。自分の中の相場感覚が崩壊するほど安いです。1400円以上購入しないと注文ができないのですが、いつもいくつ買っても1400円に到達せずに困るほどです。クーポンなどの優待をうまく利用すれば国内で同じものを買うのと比べて、1/4ぐらいの価格で買える感覚です。もちろん、すべて日本語でクレジットカードによる日本円決済が可能です。

 

3)淘宝網タオバオ

タオバオも、日本円支払い、クレジットカードに対応をしました。直接タオバオで購入して日本に宅配してもらうことが可能です。価格は異次元の世界です。タオバオの価格を見ると、中国の製造業がいかに標準品を安く製造できるか、その凄みがわかってきます。ただし、残念なのは、日本語に対応をしていないため中国語がわからないと利用が難しい点です。中国語がわかる方、辞書を使えばなんとかなる方は異次元の安さであるタオバオを利用しないのはもったいない話だと思います。海外配送費はかなり高くつくこともあるので、まとめ買いをするのがお勧めです。

この他、ピンドードーも日本発送に対応しました。ただし、中国語、元建て決済であり、グループ購入でもあるため、日本人というよりは、日本在住の中国人に対応をしたのだと思われます。

 

この3つの日本で利用できる越境ECは、あまり日本では話題になりません。やはり、中国のECであるということからいろいろな不安を感じる方が多いのだと思います。

しかし、品質に関してはほぼ問題ないと考えて間違いありません。日本のアマゾンで怪しげなセール品を買うよりも安心ができます。アマゾンは2021年9月に、問題のある販売業者の大量排除を行いましたが、それ以前はけっこう品質の悪い製品が混ざっていました。それもそのはずです。タオバオとピンドードーは、価格面もそうですが、品質面での向上にも努めていて、問題のある販売業者を細かく排除しています。そういう中国で行き場を失った販売業者が、日本や米国のアマゾンに出品をして、誇大広告やさくらレビューなどをしていたのです。雰囲気がおかしいので誰でも見分けがつくかとは思いますが、当時はアマゾンの怪しげな激安製品には、通電した瞬間に壊れるなど、ひどいものがありました。私の体験では、3000円ぐらいで購入したICレコーダーで、3回に1回の確率で録音ファイルの保存に失敗をするというものがありました。

それを考えると、AliExpress、Temu、タオバオの品質は優秀です。AnkerやDJI、ファーウェイ、シャオミといった中国有名メーカーの商品の扱いは少ないので、長く使いたいもの、趣味のものは、高くても国内のきちんとした店舗で買うことをお勧めしますが、日用雑貨など100円ショップで買うようなものであれば、試してみる価値はあるかと思います。そもそも、多くの100円ショップの商品と中国ECの商品の出所は同じだったりします。AliExpress、Temu、タオバオの商品の品質は、100円ショップと同等と考えておけば間違いありません。

ただし、お国柄の違いによるものですが、梱包はひどいです。ビニール袋に無理やり詰め込んで、テープでぐるぐる巻きにしているような梱包が普通です。しかも、出荷時に、コロナ対策で消毒薬を噴霧するため、薬品や揮発系の匂いが残っていることがあります。中に入っている商品も、紙箱が破れてしまっているのも普通です。しかし、不思議と商品に傷がついたり、壊れたりしていることはありません。壊れないように梱包をすれば見た目はどうでもいいという実用一点張りの中国の考え方なのだと思います。

 

ところで、なぜ中国ECは、異次元の安さでありながら、品質は標準レベルに達することができているのでしょうか。日本製品も最近は中国生産のものが多く、価格は普通なのに品質がひどいものか、価格は普通で品質も普通のものか、価格は高いけど品質も優れているものの3通りになっています。中国のように、価格が安くて品質は標準レベルというものは100円ショップぐらいしか見かけなくなっています。

中国は、意外に思う方が多いかもしれませんが、消費者保護の法整備が進んでいます。また、中国の消費者も法律を盾にクレームをどんどん入れます。ECプラットフォームも、販売業者には厳しく、問題のある業者はどんどん排除をしていきます。この消費者優位の仕組みが、中国ECの品質を鍛え、安くても標準品をつくれるようになっているのです。

逆に言うと、中国ECの販売業者として利益を上げるのは簡単ではありません。独自性のあるブランドやメーカーであればやっていけるかもしれませんが、差別化ができないような商品を扱ってECで利益を出すのは簡単なことではありません。

今回は、ECプラットフォームがどのような消費者保護を行い、その消費者が保護が販売業者の競争にどのように影響しているのかをご紹介します。

 

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