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中国スタートアップが死亡する6つの死因(上)

テンセント研究院が「2017年中国創新創業報告」を公開した。この報告書では、昨年倒産、破産など「死亡」した150のスタートアップを調査している。猟雲網では、この死亡要因を6つに分類して分析をした。今回は、その6つの死因のうち、3つをご紹介する。

 

死因1:プロモーションにお金を使いすぎ。星空琴行、小馬過河

星空琴行は、レッスンの権利をつけてピアノを販売するスタートアップ。2億元(約34億円)の投資を受けて、華々しく宣伝をし、売上も右肩上がりだったがが、2017年9月、突如、営業を停止した。

最初に巨額の投資資金を得ることに成功したため、宣伝にお金を使うの当たり前の高コスト体質になってしまっていたことが原因だ。そのため、売上が上がっても、なかなか黒字転換しなかった。その分は、追加投資を得ることで補填してきたが、2017年になって大型の投資案件が途中でキャンセルされる事態に。一気に資金がショートして営業が続けられなくなった。

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▲いきなり70店舗を開店した星空琴行は、コストがかかりすぎ、資金が持たなくなくなった。

 

同じく教育産業のスタートアップである小馬過河は、留学希望者の試験対策予備校として、1500万ドル(約16億6000万円)の投資を受けて起業。しかし、成長を焦るあまり、広告費にお金を使いすぎた。2014年には、営業収入が4000万元(約7億円)であるのに、広告費に4000万元も使っていた。

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▲小馬過河は突然倒産したため、従業員の給与も未払いだった。そのため、各地で元従業員によるデモが行われた。

 

教育産業は、大型の全国プロモーションを行い信用を確立し、こまめな地域プロモーションを行って顧客の掘り起こしをするという、広告費が高くつくビジネスだが、この問題を解決することなく、教育スタートアップを始め、ひたすら売上を伸ばすことに集中してしまったことが原因だ。

 

死因2:速すぎる拡大。星空琴行、哆啦衣梦、EZZY、酷騎単車

星空琴行は、数年の間に、全国に70店舗以上の拠点(ピアノ販売店兼レッスン場)を開店し、教師は1000人近くになった。すべて直営で、ピアノのニーズは大都市ほど高いので、店舗の家賃、人件費も高コストだ。これが高コスト体質となり、売上の低下、投資資金の途絶などのアクシンデントに弱い体質になっていた。

女性用ドレスをシェアリングする哆啦衣梦も、全国の都市に大量に店舗を開設し、しかも使用した服をクリーニングする仕組みも自前で構築した。巨額の固定費がかかるようになり、新たな投資資金を得ることができず、昨年の9月に営業を停止した。

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▲シェアリングドレスの哆啦衣梦は、高コスト体質だったため、黒字化することができず、営業を続けられなくなった。

 

BMWアウディなどの高級車をシェアリングできるEZZYも同様に、顧客を獲得しようと、大量の高級車を投入したため、資金が続かず、昨年10月に自己破産を宣言した。

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▲高級車をシェアリングできるEZZYも、コストがかかるため、黒字化が見えないまま資金がショートした。

 

酷奇単車はシェアリング自転車のスタートアップだが、いきなり50都市に大量の自転車を投入したが、顧客の利便性などを考慮する余裕がなく、利用者からは「使いたいのに、近所に自転車がない」という不満があがっていた。入会時に数百元のデポジットを取る仕組みで、サービス開始直後は、このデポジット資金が豊富だったため、拡大路線をとったが、顧客の不満が増えるとともに退会者の割合が増えていった。退会時にはデポジット資金を返却しなければならない。この返却が重なり、あっという間に資金不足に陥った。

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▲酷騎単車は、いきなり50都市でサービスをスタートしたため、利用者の利便性がないがしろになってしまった。

 

いずれも拡大の速度を、投資資金に合わせて考えてしまったことが死因だ。「お金があるから一気に拡大しよう」「将来、また投資をしてもらえるように拡大をしよう」と考えるのではなく、まず黒字化を目指して、その黒字状態のビジネスを投資資金を使って拡大していくという考え方をしなければならない。

 

死因3:消費者ニーズの読み違え。車来車往、楽電、訂房宝

楽電は、シェアリングモバイルバッテリーのスタートアップ。昨年8月に5億元の投資資金を得て、レストランやカフェなどにシェアリングモバイルバッテリーを設置した。利用者は、充電済みのモバイルバッテリーを借りることができ、一週間以内にどこの拠点でもいいので返却するというもの。しかし10月には営業を停止することになった。理由は、単純に使う人がほとんどいないというもの。

確かに、スマートフォンのバッテリーが切れて困ることは多いが、そのとき必要なのはモバイルバッテリーではない。その日の分だけ、ちょっと充電できればいい。コンビニなどで小容量の使い捨てバッテリーが販売されていて、カフェなどではコンセントも用意されているので、わざわざちょっとの充電のために、大容量のモバイルバッテリーを借りようと考える人はいない。また、返却をしなければならないというのも煩わしさを感じる。

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▲楽電が提供したシェアリングモバイルバッテリー。カフェなどに置かれ、スマホ認証することで、モバイルバッテリーを借りることができる。しかし、利用者を獲得できなかった。

 

ウェブから中古車を購入できる車来車往も利用者が増えなかった。中国の自動車の品質は急速にあがっていて、もはや日本企業が作る自動車と比較ができるところまできているが、中古車の品質は日本のようにはいかない。事故車であったり、整備がいい加減だったり、玉石混交なのが中国の中古車だ。しかも、担保価値が低いので自動車ローンが組めないことが多い。多くの消費者がリスクを冒して20万円の中古車を側近で購入するよりも、200万円の新車を5年ローンで毎月4万円ずつ支払うことで購入することを好む。そもそも中古車を買おうとする人が少なく、中古車のよさを伝えることができなかったというのが敗因だ。

訂房宝は、日本の元AV女優、蒼井そらが首席ユーザー体験官を勤めていたことで話題にもなったスタートアップ。一流ホテルなどの空室を当日に格安で予約、利用ができるというサービス。これも利用者が増えなかった。訂房宝では当日にならないと予約ができない。一流ホテルを利用してみたいと考える人は、数ヶ月前に格安で予約できるサービスを利用する。一方で、突然宿泊する必要がでた場合は、ホテルの格や料金よりも、ホテルの場所を優先して選ぶ。訂房宝は話題にはなったが、利用者が増えなかった。

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蒼井そらが入社したことで話題になった訂房宝。単なる広告等ではなく、しっかりと仕事をしていたようだ。しかし、利用者を獲得できなかった。

 

…明日に続く。