中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

なぜシェアリング雨傘だけがなくならないのか?

中国のシェアリング経済関連の投資が止まっている。シェアリング自転車などは、事業としては定着をし、維持ができているが、爆発的な成長はもはや望むことができず、投資としての旨味がなくなっているからだ。しかし、小規模ながら、シェアリング雨傘だけはまだ投資も続き、地方では新しい業者が登場している。それはなぜなのか。校長科普が解説した。

 

豊富な投資資金により興ったシェアリング経済ビジネス

中国では、この数年、シェアリング経済が広く普及した。自転車、電動バイク、電動自動車、モバイルバッテリーなどだ。百度、アリババ、テンセントなどに代表されるIT企業が急成長をし、投資資金が豊富に流入したこと、アリペイ、WeChatペイのスマホ決済が普及をしたことで、利用者が自分でQRコードをスキャンして、製品の利用を開始し、決済までができるということが大きかった。

シェアリング経済関連への投資は急速に減っているが、ビジネスそのものが上手くいっていないというわけではない。シェアリング自転車などは、運営は厳しくなっているものの、市民の間には定着をしている。ただし、もはや急成長はできないので、投資としての旨味がなくなっているということだ。

f:id:tamakino:20181029111643p:plain

▲シェアリング雨傘を利用する人たち。近年の中国も天候不順で、雨が降ることが多くなっているという。

 

小規模ながら投資が続くシェアリング雨傘

ところが、未だに小規模ながら投資資金が流れ込んで、新規のスタートアップが登場している分野がシェアリング雨傘だ。

ひとつは需要が大きいということがある。中国も最近では、天候不順によりゲリラ豪雨が多発をしている。南部はもともと雨の多い地方だが、小雨が降ったり止んだりすることが多かったのに、最近では傘なしではいられないゲリラ豪雨が多いのだという。北部や内陸部は本来雨の少ない地域だが、それでもまとまった雨が降るようになった。もともと小雨が多い中国では、出かける前に雨が降っていればともかく、雨が降ることを予想して傘を持っていくという習慣があまりない。そこに突然、ゲリラ豪雨が降ると、シェアリング雨傘を借りていく人が多いのだ。

f:id:tamakino:20181029111658p:plain

▲雨が降り出すと、地下鉄の出口あたりの路上に、シェアリング雨傘が並ぶ。そんな光景も珍しいものではなくなった。

 

スマホ決済アプリの中からユーザー登録不要で利用できる

シェアリング雨傘は、専用アプリからユーザー登録をして、30元(約480円)程度のデポジットを支払い、1時間1元(約16円)程度で雨傘を借りる。返却場所に戻すことで、時間が止まり、料金が決済される。一晩借りてしまうと10元(約160円)ほどになってしまうので、意外に高い。また、雨が降ってきたからといって、専用アプリをダウンロードしてユーザー登録をするというのはかなり面倒なことだ。

ところが、スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」にミニプログラムという仕組みができたことにより、シェアリング雨傘は生き延びることになった。ミニプログラムは、アリペイやWeChatペイのアプリの中から呼び出せるアプリ内アプリのようなもので、名前を検索するか、QRコードなどのコードをスキャンすることで簡単に表示ができる。さらに、アリペイやWeChatペイの中から利用するので、ユーザー登録不要で利用ができる。スマホ決済のアカウントがそのまま流用される。

f:id:tamakino:20181029111648p:plain

▲シェアリング雨傘は、駅やショッピングモールなどにこのようなステーションがあり、スマホで解鍵をして借りていく。

 

返さなくても料金はデポジットの30元のみ

家に帰ろうと思って、駅を出たら雨が降っていた。その時は、目の前のシェアリング雨傘についている2次元コードをスキャンして、スマホ決済アプリの中でミニプラグラムを表示する。これで、デポジット料金が決済され、すぐに雨傘が使えるようになる。実に手軽なのだ。

シェアリング雨傘は、返却をするのが面倒だが、デポジット料金を捨てれば返却しなくても問題ない。返却できればするし、面倒なら30元で雨傘を買ったと思って、自分で使えばいい。

f:id:tamakino:20181029111653p:plain

▲路上の柵に勝手に置かれているシェアリング雨傘もある。QRコードをスキャンすると、鍵の解鍵ナンバーが表示されるので、それで柵から外して利用する。

 

返してもらわなくても業者は利益が出る

これは業者側にとってもありがたいことだという。なぜなら、すでに雨傘の製造コストは10元程度(約160円)でできるようになっているからだ。返却をしなくても、業者は20元程度の利益が出る。なので、返却をしてくれなくても全然かまわないのだ。

では、利用者は雨傘をシェアリングせずに、どこかで買えばいいのではないか。確かに雨が降り出すと、駅の出口あたりには個人の業者が傘を15元程度(約200円)で売りにくる。しかし、もはや雨傘はありふれていて、家に置いておくのはじゃまな製品になっている。買って自宅に置いておくよりも、借りて返した方がじゃまにならないと考える人が多いのだ。それでも面倒なので、結局、返却をしない人が一定数いる。

業者にとってはどっちに転んでも利益が出る仕組みになっている。借りて利用料を支払ってもらえば利益が出る。返さずにデポジットをあきらめてくれれれば、それでも利益が出る。

というわけで、確実に儲かる商売になっているので、シェアリング雨傘業者はまだまだ誕生している。これをシェアリング経済と呼べるかどうかは別の話だが。