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中国スタートアップが死亡する6つの死因(下)

テンセント研究員が「2017年中国創新創業報告」を公開した。この報告書では、昨年倒産、破産など「死亡」した150のスタートアップを調査している。猟雲網では、この死亡要因を6つに分類して分析をした。今回は、後半の3つの死因をご紹介する。

 

死因4:施策のミス、政策の読み違い。小藍単車、友友用車

シェアリング自転車は、じゅうぶんに成功したサービスだ。ofoとMobikeは中国各都市の市民の足として定着をしている。しかし、その裏には、無数の失敗スタートアップが存在している。

小藍単車も半年で全国に60万台の自転車を投入するという急成長をしていたが、数々の判断ミスを重ねてしまった。シェアリング自転車は、当初「どこで乗っても、どこで乗り捨ててもOK」というコンセプトでスタートした。そのため、すぐに街中は放置自転車で溢れることになった。各市政府はすぐに規制をかけ、シェアリング自転車専用の駐輪場を定めるようになった。ofoやMobikeなどは、スタッフを派遣して、駐輪場以外にある自転車を回収し、駐輪場に移動させるということを行なったが、小藍単車はこの対応が遅れた。市民からは、迷惑なシェアリング自転車だというイメージを持たれてしまった。

さらに、6月には極めてまずいキャンペーンを行ってしまった。シェアリング自転車の一部に小さな戦車のステッカーを貼り、その自転車は無料で利用ができる。また、戦車のステッカー付きの自転車を複数台発見する景品がもらえるというキャンペーンを行った。しかし、6月4日は、1989年に天安門事件が起きた日だ。民主化を求めて北京の天安門広場に集まっていた学生たちを、人民解放軍が戦車で轢き殺しことで排除をしたという事件だ。大量の学生が虐殺され、中国政府は国際的にも非難された。

日本では、「中国人はこの天安門事件については、報道が制限されているため、詳しいことを知らない」と思っている人が多いが、そんなことはない。大学に進学する程度の教養がある人であれば、自国の歴史であり、日本人よりもはるかに詳しく知っている。ネットでも、直接は検索はできないが、「5月35日天安門事件」などという隠語を使って検索をすることで、詳しい情報や映像を見つけることができる。小藍単車のキャンペーンは、「6月4日に戦車」ということで、天安門事件になにか関連があるのではないかと炎上をすることになった。

このようなことから、小藍単車から投資家が離れてしまった。投資資金を引き揚げたいと申し出る投資家が現れ、新たに投資をしてくれる投資家は見つからない。こうして、小藍単車は倒産してしまった。

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▲小藍単車は、無自覚に天安門事件を連想させるキャンペーンを行ってしまい、炎上をすることになった。

 

友友用車は、利用者が自分の自動車を会員内で互いにレンタルし合えるというサービス。友友用車自身も自動車を保有し、レンタルに提供をしていた。しかし、北京市が、自家用車が急増していることを問題視し、ナンバーの発行を制限する政策を実行し始めた。北京市は、ガソリン車よりも電気自動車や天然ガス車というエコカーに優先的にナンバーを発行するようにした。そのため、友友用車もエコカーを購入する方針に切り替えたが、車体価格はガソリン車の数倍する。これがコストを一気に押し上げ、当初想定した料金体系では黒字化できなくなってしまった。政策の読み違いをしてしまったことが、失敗の原因となった。

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▲友友用車は、北京市エコカーを優先する政策を実行した途端、車両費があがり計算が狂い、黒字化が見えなくなってしまった。

 

5:巨大資本との競争に負ける。町町単車、訂房宝

町町単車は、低コストで自転車を製造し、南京市で地道にサービス地域を増やしていく堅実な戦略を採用していた。しかし、参入した時期が遅かった。南京市で、町町单车がようやく認知され始めた頃、大手のofoやMobikeが南京市にも参入してきたのだ。すでに大量の資金を持っていたofoやMobikeは、わずか1ヶ月で数十万台を投入するという短期決戦を挑んできた。まだ、小さなスタートアップだった町町单车は、対抗することができず、営業を停止せざるを得なかった。

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▲南京市で、スモールスタートをした町町単車は、大手シェアリング自転車が参入してくれると、ひとたまりもなく消し飛んでしまった。

 

訂房宝の場合は、訂房宝のサービスが話題になると、他のホテル予約サービスも対抗して「当日、格安で予約できる」機能をすぐに導入。訂房宝は、当日予約のみに特化しているが、他の予約サービスは数ヶ月前からの予約もでき、新幹線や飛行機のチケットを同時に購入できるなど、総合的なサービスを提供している。単機能である訂房宝は、利用する人がいなくなってしまった。

 

6:親会社の戦略転換:百度外売

百度外売は、食事宅配サービス。一般のチェーンレストランやファストフードに対応していて、利用者が注文をすると、配達員がその店に行って商品を購入し、自宅などの指定場所に宅配してくれる。このサービスが受け、百度外売は100都市でサービスを提供、3000万人が利用する人気サービスとなった。

百度外売はスタートアップだったが、最初からIT企業百度の支援を仰いでいたことが功を奏した。百度のブランドを使うことができ、百度から豊富な資金援助を得ることができ、優秀な人材も出向してきた。

しかし、百度が昨年、大きな方針転換をおこなった。人工知能関連ビジネスに資本を集中させるため、人工知能と無関係なビジネスは売却、独立などの方法で切り離すことにした。ここから百度外売の内部がおかしくなった。百度からの出向組は、目の前の仕事よりも、どうやって百度に戻るかが最大の関心事となった。資金の援助も途絶えた。百度外売のサービスレベルはあっという間に低下をし、独立をすることも難しい状態となった。百度は、ライバル企業である餓了公に売却をすることを決定。百度外売としてのサービスは続いているが、徐々に餓了公に吸収され、数年後には消えてしまうことになった。

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百度外売は、サービスとしては成功したが、親会社である百度の方針転換により、売却されることになってしまった。

 

どの国でも同じだが、スタートアップの90%以上は、失敗をして消えてしまう。失敗にはそれぞれに原因があり、その原因をいち早く察知して、修正をしていけるスタートアップだけが生き残ることができる。猟雲網が挙げた6つの死因は、中国特有のものもあるが、他の国のスタートアップにも通じるものもあるはずだ。今年も、中国ではIoT分野、人工知能分野で無数のスタートアップが登場して、消えていくことになる。

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