年々延伸される北京地下鉄は、すでに19路線、総延長574kmと、東京の2倍の規模に達しているが、延伸工事はさらに続き、2020年には1177kmになる予定だ。従来は、速く大量にという輸送効率を考えた路線、車両が開発されてきたが、今年からは次世代の地下鉄路線の開通が相次ぐことになると北京日報が伝えた。
東京の倍の規模の北京地下鉄
北京市の地下鉄の総延長はすでに東京を上回っている。現在19路線、総延長574km、駅数は345箇所。さらに延伸工事が進んでいて、2020年には30路線、1177kmになる予定だ。1日あたりの乗客数は1000万人を超えると見込まれる。
東京の地下鉄が19路線、総延長301.3kmであることを考えると、北京の地下鉄はおおよそ倍の規模だ(ただし、東京には郊外私鉄があるので、鉄道規模としてはほぼ同じ)。
さらに今年の暮れから来年にかけて、延伸3路線の開通を控え、すでに試験運行が始まっている。
しかも、この3路線がバラエティーに富んでいる。燕房線はなんと人工知能による無人運転地下鉄。S1線は低速リニアモーターカー。西郊線は観光を意識した路面電車とそれぞれに異なった路線となる。北京は、都市鉄道の実験場になろうとしているかのようだ。
北京地下鉄の路線図。延伸工事は現在でも行われていて、2020年には30路線、1177kmになる。
人工知能が運転する地下鉄
燕房線は全長16.6km、駅数9という短い路線だが、人工知能による無人運転列車となる。当初は安全監視員が乗車するが、時機を見て完全無人となり、運転手も車掌も乗車しなくなる。すべての運行管理は運行センターから行われることになる。
この燕房線は、未来の北京地下鉄の実験線の意味合いも持っていて、この燕房線での結果を見て、既存の地下鉄路線も無人運転に置き換えていく。すでに3号線、12号線、17号線、19号線、新空港線の無人運転化が計画されている。
完全無人運転となる燕房線。完全無人運転技術は、北京市地下鉄が最も力を入れて開発していて、他路線も次々と無人化していく計画だ。
現在は、安全のために安全監視員が乗車するが、時機を見て、運転手、車掌のいない完全無人列車になる。
地下鉄に向いている低速リニア
S1路線は低速リニアモーターカーだ。8mmから10mm浮いて走行するため、振動はほとんどなく、コインが倒れないほどスムースだという。最高速度は時速120kmで、上海のトランスラピッドのような高速リニアではない。速度ではなく、登坂能力が高い、磨耗部分がないのでメンテナンスコストが安いという都市交通向きのメリットを活かした低速リニアになる。
また、地下鉄リニアということにも意味がある。リニアの分岐部分は、温度変化や日照などによるガイドレールの伸び縮みに神経質にならざるを得ない。厳格な点検、管理をしておかないと重大事故につながりかねないのだ。しかし、地下鉄であれば温度がほぼ一定し、日照もないので、点検、管理が簡素化できる。
低速リニアのS1路線。接触部分がないので騒音が小さいので、住宅地の高架路線を走る。また、登坂能力も高いので、すでに密に走っている路線を上下に避けながら、路線を新設することが可能になる。
観光路線に適している次世代路面電車
西郊線は全長9km、最高速度時速70kmの路面電車となる。この路線は、頤和園、植物園、香山という北京市の観光スポットを結ぶ路線で、観光客に車窓の風景も楽しんでもらうというものだ。
北京市も以前は、バス、トロリーバス、路面電車で、都市交通をまかなってきた。しかし、人口の増加するとともに輸送効率の面でバスに勝つことができず、地下鉄が建設し始められた1966年に、路面電車はすべて廃止になっている。しかし、エコ、低床、高速といった路面電車の技術改良が進み、郊外路線ではコストなどの面から路面電車が適している地域も出てきている。北京市では、現在、西郊線を含めて、3路線の路面電車を計画、建設中だ。
西郊線の車両のロゴが面白い。車という字をデザインしている。漢字はもともと象形文字なので、ロゴデザインがしやすい。
頤和園、植物園、香山という北京の観光スポットを結ぶ路面電車、西郊線。道路の渋滞を招くと次々に廃止になった路面電車が、観光電車として復活をしていく。
次世代の都市交通の実験場となる北京地下鉄
北京市の地下鉄には時刻表というものがない。あるのだとは思うが、どの路線も3分間隔から5分間隔で列車がやってくるので、誰も気にしていない。流入する膨大な人口の移動を支えるため、地下鉄はこれまで効率一辺倒で建設されてきた。しかし、ここへきて、ようやく2100万人の人口の移動を支える体勢が整い、効率とは別のものを追求し始めた。人工知能による無人運転、低速リニア、路面電車とさまざまな新しい形の都市交通技術が試されていくことになる。
- 作者: マーク・オーブンデン,ナショナルジオグラフィック,鈴木和博
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