中国では3つの組織が競争をしてリニア開発が進んでいる。すでに地方政府による誘致合戦も活発化している。しかし、運賃が高鉄の4倍にもなるリニアが、果たして高鉄や航空機との競争力をもてるのか、疑問の声もあがっていると界面新聞が報じた。
試験走行を始めている中車四方リニア
中国では、時速600km以上で走行する超高速リニアモーターカーの分野で、3つの組織が開発を競い合っている。
最も古くから開発を進めているのが、国営企業「中国中車」傘下の中国中車青島四方機車車両(中車四方)で、2019年にサンプル車両を開発し、世界で初の時速600kmクラスの高速磁気浮上鉄道となった。2021年7月には試験路線も完成し、試験走行を始めた。
GoA3クラスの自動運転(運転手なし、車掌あり)を備え、1車両あたりの乗客数は100人。2両から10両までの編成が可能になっている。
試験車両を公開した西南交通大学
2つ目は、成都市の西南交通大学が開発をした世界初の高温超電導を利用したリニアモーターカーで、2021年1月に試作車が公開された。この西南交通大学のリニアモーターカーは、車両が電気を必要としていない。路線側に通電することで、車両が浮上をし、誘導され、走行ができる。1mあたりの最大積載能力は3トンになる。
試験車両を公開した中車長客
3つ目は、「中国中車」傘下の中国中車長春軌道客車(中車長客)が開発した高温超電導リニアモーターカーで、2023年3月に試験車両が公開された。
本格的な試験走行はまだ始まっていない
中国のリニアモーターカー開発は競争をしながら進んでいるが、2つは試験車両が公開された段階で、実用までにはまだまだ時間がかかる。
試験走行を始めている中車四方でも試験路線は1.5kmの長さしかなく、この短さでは速度をあげることができず、最高速度時速55kmでの試験を繰り返している。時速600kmでの走行試験を行うには最低でも全長50kmの試験路線が必要になる。
西南交通大学では、現在全長1.5kmの試験路線を建設している最中だ。中車長客では、これから全長1.5kmクラスの試験路線を建設しなければならない。
つまり、車両が完成し、全長200m程度の試験路線で動作確認を行っているという段階にすぎない。
前のめりになるリニア導入の声
しかし、社会側はリニアモーターの実用化に向けて前のめりになっている。2023年3月から開催された全国人民代表大会(全人代)で、中国中車の孫永才会長は「時速600km高速リニアモーターの試験と運用の推進を加速させる」という議案を提出し、リニアモーターの検証と商業化が緊急に必要だと述べた。
孫永才会長は、さらに、全長30kmで上海市と浦東国際空港の間を運行している上海磁気浮上(上海磁浮、上海リニア)の路線を活用して、夜間に時速500km程度の走行試験を行うことも提案した。しかし、高架などの基礎設備は利用できるものの、リニアのシステムが異なるため、新設に近い工事が必要となる。ならば、全長50kmかそれ以上の試験線を別の場所に新設した方がいいのではないかという意見もある。
地方政府も前のめりで誘致合戦が活発化
各地方政府も前のめりになり、誘致合戦が始まっている。京滬線(北京ー上海)、広深線(広州ー深圳)、滬杭線(上海ー杭州)、成渝線(成都ー重慶)などの他、海南省、雲南省、安徽省などが積極的な誘致を行い、建設計画を立案している。しかし、あくまでも紙の上に想定路線を描いただけの段階にとどまり、具体的な測量などに入っている計画はない。
最大の問題は収益性。運賃は高鉄の4倍?
最大の問題は、商業化をしてそろばんが合うのかという問題だ。中国唯一の高速リニアモーターカーである上海磁浮も、以前は最高速度時速430kmで運行されていたが、コロナ禍期間、乗客数が激減をしたため、最高速度を時速300kmに減速をして営業を続けていた。運用コストを抑えるためだ。高速鉄道「高鉄」の最高速度時速350kmを下回っている。
上海磁浮の建設費は約89億元で、全長は30km。1kmあたりのコストは約3億元になる。高鉄の1kmあたりの建設コストは2億元以下になる。それでも、高鉄は高騰する建設費が問題となり、近年では運賃が上昇をし、利用者からは「長距離では飛行機の方が早くて安い」という不満も高まり始めている。
上海磁浮の運賃は50元であるため、1kmあたり1.67元になる。高鉄「京滬線」(北京ー上海)の全長は1318kmで、二等席は553元なので、1kmあたり0.42元となる。つまり、上海リニアの運賃は、kmあたりにすると高鉄の4倍になっている。
高速リニアが商業化をしても、そのままコストを反映させると運賃は4倍以上になることは避けられない。それでいて、最高速度350kmと最高速度600kmなのだから到着時間は半分程度。高鉄との競争力があるかどうかも怪しく、ましてや国内航空との競争力を得るのは簡単なことではない。
地元に波及する経済効果も限定的
北京交通大学の趙堅教授は界面新聞の取材に応えた。「高速リニアの停車駅は100kmに1つ程度と少ないため、高鉄のように沿線の経済を牽引する役割は限定的です」と言う。
国務院が発表した「交通強国建設要綱」では、高速リニアについては「時速600km級高速磁気浮上システムの技術備蓄研究開発を合理的に総合的に進める」と記載されている。つまり「技術を備蓄するための研究開発」という位置づけだ。
この要綱の作成に携わった交通運輸部関係者が匿名で界面新聞の取材に応えた。「高速リニアプロジェクトは、要綱の中では科学技術革新項目に分類されていて、未来の発展、科学技術革新研究であり、必ずしも大規模に応用され商業化されることを目的としているのものではありません。しかし、将来のために技術を備蓄しておく必要がある。そういう位置づけです」と言う。
高速リニアの技術開発は今後も行われ、さらに加速される。しかし、すぐに商業化されて中国各都市が高速リニアで結ばれるようになるかというと、それはまた別の話になる。商業化という大きな壁を乗り越える必要があるからだ。その壁はとてつもなく高く、今のところ乗り越えるための妙案は見つかっていない。