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運転室には誰もいない。完全な無人自動運転が始まった北京地下鉄

北京の地下鉄が無人運転時代に突入している。2017年以降、新設される路線はすべて無人運転設備を備えてきたが、安全監視員が乗務する形での自動運転が行われてきた。それが安全性が確認されたとして、安全監視員も常務しない完全な無人運転が始まったと1039調査団が報じた。

 

北京地下鉄が完全無人運転時代に突入

2017年12月30日に開通した北京地下鉄「燕房線」は、無人運転地下鉄として建設されたが、安全のため、運転席には安全監視員が乗車をし、万が一の場合は安全停止をするという運行を続けていた。3年間にわたりデータを収集し、運行上の安全に問題はないと判断し、安全監視員の常務を停止し、完全な無人運転となった。

また、2019年9月26日に開通した北京地下鉄「大興機場線」も、無人運転地下鉄として設置されたが、現在、安全監視員が乗務している。こちらも問題がないとして、安全監視員の乗務を停止し、完全な無人運転に切り替える時期の検討に入っている。

北京地下鉄では、今後新設される路線はすべて無人運転を基本にし、既存路線も可能な路線は無人運転地下鉄に切り替えていく計画だ。

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▲運転士、安全監視員もいなくなった運転席。前方の視界が開けることから、先頭車両にあえて乗り、スマホで撮影する人も増えている。

 

運転よりも付随業務の無人化が課題

無人運転そのものの技術開発はそう難しいものではないが、問題は付随をする業務の自動化だ。車庫から出発する際の列車の点検や、駅で乗降客の動向を確認した上でのドアの開閉、緊急時の対応などが問題になる。北京地下鉄では、このような業務も自動化をし、地下鉄運行のすべてを自動化している。

 

出庫前点検も完全自動化

燕房線の車両基地、閻村車両基地では、司令室から車両に出発命令を下すと、警笛が鳴らされ、車両の室内灯がすべて自動点灯される。そして、車両の点検プロセスが自動で始まる。その結果は、司令室のモニターに表示され、すべて問題がなければ、本線に向けて進み始める。

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▲北京地下鉄燕房線の車両基地。出庫する列車は、セルフ点検モードに入り、その結果を確認した司令室の命令を待つ。

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▲セルフ点検の結果は、司令室のモニターに表示される。すべてグリーンであることを人が確認をして、入線指令を出す。

 

PC1台だけの「司令室」

この運行管理をしているのは、司令室のエンジニアだ。司令室といっても、普通の事務室にPCを設置したもので、言われなければ、そこが地下鉄運行の司令室だと気付かないかもしれない。エンジニアのPCには、運行状況が一眼で確認できる一覧図と、作業中の列車にフォーカスした状況画面が表示され、この他、業務に合わせて自動的に切り替えられる監視カメラの映像が表示される。

司令室エンジニアの銭偉民氏は、1039調査団の取材に応えた。「これは車両内の監視カメラの映像です。リアルタイムで車内の映像を見ることができます。PCでは、ドアが空いていると黄色で表示され、乗客が乗り降りをして自動でドアが閉まると緑色に変わります。すべての問題がないことを司令室で確認し、出発指令を出します」。

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▲北京地下鉄燕房線の司令室。と言っても、事務所の端にPCを置いただけのもの。自動化が進んでいるため、これだけの設備で地下鉄の運行管理が可能な時代になった。

運転席から運転士がいなくなった

燕房線の運転席には、今まで安全監視員が乗務をしていた。安全監視員は、原則、操作はしないものの、乗客から見れば運転士がいるように見える。しかし、現在では安全監視員もいない。乗客の中には驚いている人もいる。また、別の乗客は前方の視界が開けるため、わざわざ先頭車両に乗って、スマホで撮影する人もいる。

 

人が介在しないことで安全性は向上する

北京地下鉄を運営する「北京軌道運営」の高奥氏は、無人運転の方が安全性は高まると断言する。「伝統的な地下鉄は、人が運転、管理を行うため、万が一のことが起きた場合、司令室は現場の運転士や車掌に状況を伝えてもらう以外、状況を把握する方法がありませんでした。しかし、現在は、車内の監視カメラ、車外の監視カメラから迅速に状況を把握することができます。それだけ早く、適切な対応策を決めることができます。また、乗客からの緊急通報も、運転士か車掌が受けて、現場で判断をするか、司令室との相談になります。しかし、現在の乗客からの緊急通報は直接司令室につながり、話をすることもできます。監視カメラにより、現場の状況も把握できます」。

北京交通大学軌道交通制御安全国家重点研究室の唐涛主任は、無人運転の安全上の利点は、人為的ミスを排除することができることだと指摘する。「熟練した乗務員と新人の乗務員の熟練度、経験は大きく異なります。自動化を進めて、人の操作を減らすことで、運行の質がそろうことにより、全体の運行効率が大きくあがります」。

 

乗客の乗降はセンサーと司令室で確認

例えば、駅でのドアの開閉は、伝統的な地下鉄では、車掌または車掌業務を兼任する運転士の肉眼に頼っている。司令室エンジニアの銭偉民氏は、この業務もすべて自動化されているという。「車両が駅に停止をすると、定められた側のドアがすべて開きます。乗客の乗り降りはドア付近のセンサーで行い、ドアが閉められない状態のドアの監視カメラ映像が自動的に表示されます。この映像を司令室エンジニアが目視確認をして、ドアを閉める指令を出します。すると、車両は次の駅に向けて発車するシーケンスを開始します」。

すべてのプロセスは自動化をされ、最終確認を人間がデータ表示と監視カメラで行い、次のプロセスに進める。

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▲車内は普通の地下鉄と何も変わらない。むしろ、人よりもスムースな運転ができるため、乗り心地も向上している。

 

悪天候の徐行運転も列車が自動判断

無人運転が目前に迫っている大興機場線は、空港線であるため途中駅が少なく、21kmという長い区間がある。そこでは最高時速は時速160kmに達する。この区間で、天候上の問題、車内火災などが起きた場合どうするのだろうか。北京軌道運営の李鵬経理は説明する。「21km区間は約13分で走行します。この区間を5つの区域に分割をしています。仮想の駅が4つあると考え、安全確認が行われてから次の区間に進入をするようになっています。万が一、問題が発生した場合は、この仮想駅で安全停止を行い、スタッフがその地点に駆け付けられる体制を整えています」。

また、大雨や降雪などで高架や地上での運行が妨げられる場合も、司令室ではなく車両の自動判断を優先する。なぜなら、局地的に危険な状態が発生している可能性があるからだ。車両には常に車輪の摩擦力をモニターするセンサーが備えられていて、摩擦力が一定以下になると自動で安全停止をするようになっている。この場合は、司令室の判断により、手動で徐行運転をさせて近くの駅に移動させるか、現場に救援部隊を派遣するかが決まる。

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▲郊外へと広がる北京地下鉄。総延長は723kmとなり、総延長、利用客数とも世界一。しかし、2023年までに1000kmになるなど、いまだに延伸計画が進んでいる。

 

無人運転の目的は人件費抑制ではなく、安全性向上と24時間運行

無人運転の目的は、多くの人が考える人件費の抑制よりも、安全性向上が主目的になっている。また、24時間運行が可能になるのも無人運転の大きなメリットだ。人為的な操作がなくなることにより、運行が標準化され、故障率も減少し、定期点検も機能的に行えるようになるため、不慮の事故が起きる確率も大きく減少する。

今年2021年末には、19号線、17号線の一部区間が開通をする。当然ながら、2路線とも無人運転可能な全自動化路線となっている。北京地下鉄は無人運転時代に入った。