国際公共交通連合(UITP)は、世界の無人運転地下鉄の状況をまとめた「World Report on Metro Automation 2018」(世界地下鉄自動化報告)を公表した。2018年から自動運転地下鉄路線は急激に増加し、自動運転時代がやってくる。
世界の無人運転地下鉄の半分はアジア地域
UITPは世界の公共交通機関1300団体が参加する国際組織。本部はベルギーのブリュッセルにある。そのUITPが地下鉄の自動運転の状況についてリポートを公開した。これによると、2018年3月に上海で新路線が開通し、世界の無人運転地下鉄の総延長がマイルストーンとされていた1000kmを超えた。総延長は1026kmとなり、世界42都市で64の路線で無人運転が実施されている。
世界の無人運転地下鉄の半分はアジア太平洋地域であり、アジアが無人運転地下鉄の先進地域であることが明らかになった。
▲地域別の無人運転路線の総延長割合。アジア地域が圧倒的に進んでいる。
▲国別の無人運転路線の総延長ランキング。韓国が圧倒的に進んでいる。
高密度路線の無人運転化が進む北京、ソウル、香港など
国別に無人運転地下鉄の総延長を見ると、世界で最も進んでいるのが韓国、そしてアジア地域では、シンガポール、マレーシア、日本、中国、台湾と続いている。しかし、このうち、日本と台湾は遅れをとっている。
UITPでは、地下鉄路線を高密度路線(列車あたり乗客が700人以上)、中密度路線(300人から700人)、低密度路線(300人以下)に分類をしていて、日本と台湾はいずれも中密度以下の路線で自動運転を行なっている。北京、ソウル、香港、クアラルンプール、シンガポールでは高密度路線での自動運転が実施されている。
東京の東京メトロでは、千代田線の一部区間と丸ノ内線でATO(自動列車運転装置)を使い、運転手兼車掌のワンマン運転を実施している。運転手はATOの発車ボタンを押すだけで、安全監視と車掌業務を行う。完全な無人運転は実施していない。
▲自動運転のレベル階級。GoA1はATP(Auto Train Protection、日本の自動列車停車装置や自動列車制御装置に相当)を導入しただけ。GoA2は自動運転を導入するが、運転士が乗務し、緊急時には手動対応する。GoA3は運転士は乗務せず、緊急時には監視員兼車掌が手動操作をする。GoA4は完全無人運転になる。日本はGoA2とGoA3の中間型で、運転士が乗務するが運転はせず、車掌業務を兼任する。
無人化の狙いは、臨時増発、トラブル時の運転士確保問題の解消
自動運転の最大の狙いは、人手不足に対処することだ。列車の運転技術はすぐに身につくものではなく、養成には一定の時間がかかる。将来は運転士の絶対数が不足することが明らかであり、長期的にはこの問題に対処するための技術だ。
もうひとつ、短期的な狙いとしては、臨時増発、トラブル時の運転再開がしやすくなるということがある。従来であれば、まずは運転士の割り当てをしなければならなかった。運転士が詰所が現地に移動するまでの時間も必要になるし、安全確保のため、運転士には一定時間の休息が義務付けられていて、これを超過する場合は運転ができない。自動運転では、このような運転士の確保問題が解消されるため、本来は高密度路線でこそ自動運転が活きてくる。
東京と台湾が中密度路線でのみ自動運転を行なっているのは、まだ本格活用に至ってなく、安全性の検証を行いながら導入を進めている段階だからだ。
▲既存路線を無人運転化した路線と新設の無人運転路線の割合。韓国は新設路線を無人化しているが、シンガポールやマレーシアは既存路線を無人化している。
▲各地域別に、運行されている自動運転路線(左)と、2028年までに計画されている自動運転路線(右)。すでにアジアは自動運転路線の先進地域になっているが、今後10年で圧倒的な先進地域となる。
新設路線は原則無人運転路線
アジアの中でも、都市ごとに自動運転に対する戦略は異なっている。韓国、中国、台湾は、基本的に新路線を自動運転として建設している。一方で、シンガポール、マレーシア、日本、欧州は、既存路線を自動運転化する方向で進んでいる。
つまり、韓国、中国、台湾はまだ地下鉄そのものが不足をしている。新路線を建設するのであれば、自動運転が前提になっているということだ。
UITPでは、2028年までに、自動運転地下鉄の総延長は3800kmになると予測している。これは各都市で計画されている87の新路線と、既存路線の自動運転化計画に基づいた予測だ。
近い将来、地下鉄は自動運転するのが当たり前の時代になる。
▲自動運転路線は、2018年から急激に増加をし始めた。今後は、自動運転地下鉄が当たり前の時代になる。

- 作者: マーク・オーブンデン,ナショナルジオグラフィック,鈴木和博
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