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命をかける出前。電動スクーターの速度は時速120km

中国で増え続けている電動スクーターの死亡事故。料理の出前サービス「外売」の配達員が無謀な運転をすることが原因だが、メーカーも時速20kmの基準を超えるリミッター外しの機能を提供していることも大きな原因だと央視新聞が報じた。

 

外売配達員の交通事故が急増中

中国で電動スクーターによる死傷事故が相次ぎ、社会問題となっている。その最大の理由は、外売サービスの流行だ。

外売とは、スマートフォンから注文できる料理の出前サービス。と言っても、独自の料理ではなく、提携している既存のチェーン料理店、老舗料理店の料理を出前してくれる。外売配達員は、まず指定された料理店に行って料理を受け取り、それから注文者の自宅や指定場所に配送をする。

外売配達員は、1件いくらの報酬なので、数をこなしたい。注文は、昼時と夕食どきに集中する。そのため、交通法規を守らず無謀な運転をしがちだ。これが交通事故の大きな原因となっている。

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▲外売サービスの大手2社。左が「餓了么」(ウーラマ、お腹減ったよね?の意味)、右が「美団外売」(メイトワン)。

 

南寧市では53名が死亡。ほとんどのケースが速度超過

人口700万人の広西チワン族自治区の南寧市では、2017年に電動スクーターの交通違反による交通事故が196件起こり、53名が死亡している。

南寧市交通警察支隊の責任者によると、事故原因となった交通違反のうち、最も多いのはスピード違反であるという。交通法規では、電動スクーターは制限速度時速20km。しかし、ほとんどのケースで、事故を起こした電動スクーターは速度超過をしていた。

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▲交通監視カメラが捉えた電動スクーターの事故。このような映像も毎日のように報道される。

 

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▲南京市で起きた外売配達員と車の交通事故。このような報道は、もう珍しくなくなっている。

 

20kmしか出せない電動スクーターのリミッター外し

しかし、これはおかしなことなのだ。なぜなら、国の製造基準では、電動スクーターは最高でも時速20km以上は出せないように設計しなければならないことになっている。速度超過ができるはずがない。

そこで、央視新聞の記者は、南寧市の中華路にある電動スクーター販売店を取材した。すると、モーターが72ボルト仕様だという「最強電動スクーター」を呼ばれるものが販売されていた。店員によると、時速20kmのリミッターがつけられているが、これは簡単に解除できるのだという。

実際にやってもらうと、わずか10秒でリミッターが解除できた。解除方法は、メーカーが教えてくれるのだという。実際に、タイヤを浮かせて走行させてみると、時速は最高で60kmにもなった。

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▲央視新聞記者が取材したリミッター外し。時速63kmが出ている。

 

時速120kmが出せる電動スクーターも

さらに、他店も調査してみると、最高速度が120kmから130kmにもなるという車種も見つかった。

消費者が少しでも速い電動スクーターを求めるため、メーカーは、形だけのリミッターをつけて最高速度時速20kmに制限し、国の製造基準を守っているが、リミッターの解除方法を販売店に教え、最高速度の競争をやっているようだ。

しかし、ブレーキや車体強度などは、時速20kmに合わせて設計されている。時速120kmも出してブレーキをかけたらどんなことになるか。

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▲悪天候の時は、外売の注文が大量に入り、なおかつ配達員には危険手当がつくので、みな勇んで出勤して、配達件数をこなそうとする。

 

熱々の料理が、時間制限を厳しくしている

全国でも、電動スクーターによる交通事故は、全体の交通事故の20%から50%に上昇、死亡者数も20%から40%に上昇している。記者は、北京や天津でも電動スクーター販売店を調査したが、やはり同じリミッター外しが行われていた。

外売の配達の仕事は、文字通り命がけになってきている。それでも、外売サービスの利用は年々急増している。圧倒的に便利だからだ。

中国では、冷めた料理というのは料理と認めない。誰もが、熱々のできたての料理を食べたいと考えるため、外売サービスが受けている。熱々の料理を運ぶため、配達時刻の制限が厳しい。少しでも遅れれば、利用者がからクレームがついてしまうのだ。

利便性の裏に問題を抱えている外売サービスだが、サービス自体は中規模都市にも波及し、ますます広がっている。

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