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外売配達員の75%は農村出身者。出稼ぎではなく都市定住志向

外売企業「美団」は、外売配達員たちの実態調査を行った「新時代、新青年:2018年外売配達員群研究報告」を公開した。そこから見えたのは、農村から都市に移住をし、定職を見つけ結婚し、定住する「新青年」たちの姿だと鉄媒体が報じた。

 

人は都市に住む。徹底している中国のコンパクトシティ政策

中国の都市は、周辺の農村を飲み込みながら膨張し続けている。中国政府は全国でコンパクトシティ政策を推進している。農村に電気水道ガスの生活インフラを供給するのは効率が悪いので、人をどんどん中核都市に移動させ、農村部は農業用水などの農業インフラだけを施設する。農民も都市のマンションに住み、周辺の農地に「通勤」するようにさせる。

農村には農業以外の仕事はないので、仕事を求めて都市に流入してくる人口もいまだに多い。以前は、そのような人たちは農民工と呼ばれ、建設関係のきつい仕事につくことが多かった。しかし、建設現場でも、スキルがなくても体力があれば務まるというような単純な仕事は少なくなりつつある。多くの作業が機械化、電子化されているので、必要な作業員数は激減しているが、その代わりに専門知識が必要になり、専門学校や工業高校、大学を卒業しなければ、働くことができない。

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▲美団外売の配達員たち。時間勝負なので、運転は荒い。交通違反、交通事故も多く、社会問題になっている。

 

スキルがなくても体力があればできる外売配達員

そこで、スキルのない人が就いている仕事が外売だ。外売とは、ケータリングサービスのこと。スマートフォンから食事の注文をすると、配達をしてくれる。提携しているチェーン店、老舗レストランなどのメニューから選ぶことができ、自宅、オフィスあるいは指定した場所にスクーターで届けてくれる。この配達をする仕事が外売配達員だ。

体力的には厳しい仕事だ。しかも件数をこなして少しでも多く稼ごうとするので、交通違反も当たり前の危険運転が横行し、外売配達員の死亡事故のニュースは毎日のように報道される。

しかし、このような人たちは農民工とは呼ばれず、新青年という呼び方が定着し始めている(中国語の青年は若者の意味で、男女を含む)。

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▲外売は、配達員が注文先のレストラン行って、食事を受け取り配達する。時間に急いている配達員が、料理ができあがるのを待っていられず、自分で厨房に入って作ってしまったという監視カメラ映像が時々ネットに拡散して、人々の笑いを誘っている。それほど時間勝負の仕事だ。

 

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出稼ぎだった農民工、都市に定住する新青年

農民工は、子どものいる親たちが出稼ぎに都市にいくことだった。そのため、春節旧正月)には帰省をする。出稼ぎをする目的は、子どもの学費を稼ぐことだった。農民は、食べ物は売るほど作っているので、食べることでは意外に余裕がある。ただし、農作物の価格が抑えられているので、現金収入が極端に少ない。子どもの学費は、親の年収の数年分にもなるので、出稼ぎをしないと、子どもを上級学校に通わせることができないのだ。そのため、農民工は、子供の学費を稼ぐために、都会に出稼ぎに行っていた。

しかし、今の新青年たちは、完全な都市移住型だ。故郷で知り合ったか、都市に出てきてから知り合ったかは別にして、結婚をし、子どもを持っている。

農村出身者は、農村に住民登録をしているので、都市で子どもを作っても、その子は居住都市に住民登録をすることはできず、親の故郷の農村に登録しなければならない。いわゆる農村戸籍都市戸籍の問題で、この子は都市にいても住民サービスを受ける権利がなく、学校に通うことができない。NPOなどが主催するフリースクールに通うか、故郷の学校に通うしかないのだ。

中国政府は、都市戸籍規制緩和を利用してコンパクトシティ化を進めようとしている。つまり、北京や上海という流入人口が多すぎる都市では、農民が都市戸籍を取得するのに厳格な審査をするが、人口を集中させたい地方の中核都市では都市戸籍の取得を緩和している。周囲の農民は、子どもをよりレベルの高い街の学校に通わせることができるということから、都市戸籍を取得し、都市に移住してしまう。

周辺の農村人口は減少していくが、人口が一定限度を割ったら、廃村にしてしまい、行政サービスを強制停止してしまう。そして、効率的な大規模農地として再開発し、農業の生産性を一気に高めてしまうのだ。

社会主義国家だからできる豪腕な政策だが、効果は抜群だ。

 

農村出身の新青年たちは家庭築き、都市に定住する

外売企業の大手「美団」は、配達員の実態調査を行い、「新時代、新青年:2018年外売配達員群研究報告」を公開した。

配達員の男女比は、男性90%、女性10%と圧倒的に男性が多い。また、年齢分布はほとんどが80年代生まれと90年代生まれ(25歳から35歳)だった。また、75%は農村出身者で、平均収入は月4000元前後(約6万8000円)だった。

また、意外だったのが既婚者割合だった。なんと62%が既婚者で、そのほとんどに子どもがいる。また、現在の都市での居住年数を尋ねると、半数が9年以上だった。

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▲外売配達員の年齢分布。圧倒的に20代、30代が多い。体力勝負の仕事なので、中高年にはキツイ仕事だ。

 

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▲意外なことに、既婚者が62%もいる。収入が低すぎて結婚もできないというイメージはない。



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▲既婚者の多くが子どもを1人以上持っている。外売配達員たちは、けっこう幸せな家庭を築いている様子がうかがわれる。

 

94%が副業を持ち、意外に幸せな新青年家庭

また、94%の人が外売配達員以外にも仕事を持っていた。上位にくるのは「レストラン従業員」「自営業」「他の外売配達員との兼業」「宅配便配達員」「警備員」「紡績、電子などの工員」だった。

なぜ外売配達員の仕事を選んだかという問いには、「出勤時間の融通がきく」「収入が安定している」「仕事中でも、時間が自由に使える」という答えが上位を占めた。

外売配達員の仕事が忙しいのは昼食時と夕飯時だ。それ以外の時間は基本的に暇が多い。そのため、時間の自由が効く。他の仕事と兼業するのに、外売配達員の仕事はちょうどいいのだ。

また、都市の居住年数を尋ねると、半数が9年以上と答えた。これはもはや出稼ぎではなく、完全な移住だ。都市に出て、ある程度の収入を得て、結婚し、子どもを作る。そういう新青年の生活の姿が浮かんでくる。

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▲現在地への居住年数。圧倒的に9年以上が多い。都市への出稼ぎではなく、都市に定住する新青年の姿が見えてくる。

 

外売配達員が農村出身者の受け皿となっている

外売サービスが始まり、消費者はスマホアプリから注文するだけで、わずかな配達料で、好きな食事を出前してもらうことができ、生活は大いに便利になった。一方で、外売配達員という大量の雇用を生むことになり、都市が農村人口を吸収する受け皿となっている。

そして、過酷だと思われていた外売配達員の生活も、こうして統計から見えてくるのは、ささやかではあるかもしれないが、それなりに幸せな家庭を築いている姿だ。外売というサービスは、既存の業種を簒奪する破壊的イノベーションではなく、関係者全員をそれなりに幸せにする創造的イノベーションと言えるのかもしれない。