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「三体」に登場する人間コンピューター、実現される。四川警察学校の1000人で実現

SF小説「三体」に登場する人間コンピューターが実現された。ビリビリの科学系配信主「荒蛋制造局」が四川警察学校の協力を得て、1000人の人間コンピューターを実現した。

 

「三体」に登場する人間コンピューター

中国SFの金字塔とも言える小説「三体」。その中に人間コンピューターが登場する。3000万人の兵士を整列させ、各兵士に表は白、裏は黒のプラカードを持たせる。そして、兵士は周囲の色を見て、決められた規則で、自分のプラカードの白か黒かを決める。兵士一人が論理ゲート1つ分の働きをする。これにより、太陽の動きを計算するという場面だ。

この場面は、さまざまな人を刺激した。3000万の論理ゲートで、天体の動きという複雑な計算をするにはどのくらいの時間がかかるのかを計算してみた人もいる。コンピューター上でシミュレーションし、計算機の中に人間計算機シミュレーターをつくって楽しんでいる人もいる。

その中でも、3000万人は無理でも、大量の動員をして、実際に人間コンピューターをやってみたいと考える人は多かった。

▲学生1人がゲート1つの役割をする。自分より一つ前の学生の旗を見て、規則どおりに自分の旗をあげる。

 

実現に四川警察学校が協力

そのうちの一人が、ビリビリで人気の科学系配信主「荒蛋制造局」だった。しかし、2年間の間、協力してくれる団体と場所を探したが、なかなか見つからなかった。

その中で、反応をしてくれたのが四川警察学校だった。四川警察学校には1000人が整列をすることができる校庭がある。さらに、四川警察学校では、新入生にやってもらうイベントとして適切だと判断した。規律や協力の重要性を身をもって知るいい機会になるし、1000人が規則に従って団体行動をするというのはいい経験になると考えた。何より、面白い。

9月は全国科学普及月間であることから、9月に人間コンピューターの再現に挑戦することが決まった。

 

1000人で実現された人間コンピューター

新入生たちは、赤と青の2つの旗を持ち、決められたルールに従って、自分があげる旗の色を決める。挑戦は、(1013+1012)×1001を計算することに決まった。

1000人の新入生は29のユニットに分かれ、各ユニットを教官が指揮をする。最初に1013などの数字を入力する入力ユニットの新入生たちが、数値に従って旗の色を決める。あとは、他の新入生が決められた人の旗の色を見て、自分の旗の色を決めるということを繰り返していくと、出力ユニットの旗の色を読めば、計算結果がわかるはずだった。

▲人間コンピューターの全景。1000人が規則どおりに動くのは簡単ではなかった。三体では3000万人の兵士による人間コンピューターが登場する。

 

1回目はクロック同期に失敗

しかし、1回目は失敗だった。ある新入生の旗のあげ方が遅く、計算が次の段階に進んでしまったため、誤った数値が伝播し始め、計算結果はめちゃくちゃになってしまった。コンピューターには高い精度でタイミングを発信する水晶発振器があり、この号令に従って計算を進めていく。人間コンピューターには水晶発振器に相当するものがなく、タイミングがずれてしまった。

2回目は、各ユニットの教官が号令をかけて水晶発振器の代わりをしたため、うまくいった。しかし、計算結果は2進数で出力される。スタッフがこれを10進数に変換する作業をしている間に、時間切れとなり、新入生たちは訓練に向かわなければならなくなった。

翌日、新入生たちは休憩時間に再び校庭に集合した。そこで、スタッフが計算結果を発表した。「昨日の計算結果は2027025。正解です!」と発表すると、歓声があがった。

▲結果は2進数で出力されるため、演算結果を10進数に変換する必要がある。手前が10進数変換をする荒蛋制造局。

 

コンピューターを身をもって体験する

新入生たちにとっても意味のある体験だったようだ。ある新入生はこう語った。「私はもともと三体のファンで、人間コンピューターがほんとうに機能するのか興味を持っていたが、自分が参加できるとは思わなかった。ビリビリの映像にも映ることができてうれしい」。

ある新入生はこう語った。「ようやくコンピューターがどうやって計算するのかが理解できた。教科書で学ぶより、こちらの方がよく理解できる」。

四川警察学院の新入生指導の担当者はこう語った。「計算することより重要なのは、学生たちに探索の楽しさを体感してもらうことでした。今回の実験は、1回目は失敗しましたが、1回目で成功してしまうよりも、意義のある実験となりました。今回の経験を通じて、学生たちの科学研究への興味を育てていきたいと考えています」。

この映像はすでに再生回数が200万回を超え、さまざまなプラットフォームにも転載されている。刺激を受けた人の中には、1万人でやってみたいと考えている人もいるだろう。人間コンピューターの競争が始まるかもしれない。

▲演算結果が正解だったことを喜ぶ四川警察学校の学生たち。教育的にも大きな成果がある挑戦となった。

 

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