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リチウムイオン電池の発火リスクを下げるには。磁石一つで解決した韓国・浦項工科大学の研究

リチウムイオン電池の発火リスクを抑えるにはどうしたらいいか、世界各国の研究者が模索をしている。その中で、キム・ウォンべ教授の研究チームが、磁石をひとつ取り付けるだけでこの問題を解決したと浦項工科大学が発表した。

 

リチウムイオン電池の欠点を克服する技術

固体電池への期待が高まる理由は、現在のリチウムイオンバッテリーの容量が、快適に電気自動車(EV)を使うには不足していること、そして、衝撃を与えると発火をする危険性があることを解決してくれるからだ。

しかし、韓国の浦項工科大学(Postech)のキム・ウォンべ教授の研究チームが、この問題を解決した可能性がある。しかも、リチウムイオンバッテリーに磁石をひとつ追加するという驚くべき手法だ。

▲リチウムイオン電池は発火のリスクがゼロにできず、EV普及の大きな障害になっている。各国がこの問題を解決する研究を進めている。

 

析出する金属リチウムがセパレーターを破り発火

リチウムイオンバッテリーが爆発する理由ははっきりとしている。バッテリーには正極と負極があり、その間をリチウムイオンが行き来をしやすい電解質と呼ばれる液体で満たされている。しかし、そのままでは電子が一気に流れてショートを起こしてしまう。そこで、絶縁体であるセパレーターという膜で区切り、電子は通さないが、リチウムイオンは通れるようにして、電力を生み出している。

ところが、バッテリーを使うとリチウムが結晶化することが避けられない。この結晶は、デンドライトと呼ばれる樹木の形をしており、この枝が伸びて、セパレーターを破ってしまうことがある。こうするとショートが起きて発火することになる。

固体電池は、電解質が固体であり、電極と密着をしているため、このデンドライトが成長しようとしてしても物理的に成長することができない。さらに、固体電池の電解質は不燃性であるため、安全であると考えられている。

 

発火リスクを克服する研究

ところが、キム・ウォンべ教授の研究チームは、リチウムイオンバッテリーでこの問題を解決した可能性がある。その成果は英国の学術誌「Energy & Environmental Science」に「Magneto-conversion anode design for unlocking high energy density and dendrite-free hybrid lithium–ion/lithium–metal batteries」(高エネルギー密度とデンドライトフリーなハイブリッド型リチウムイオン/リチウム金属電池の実現に向けた、磁気変換負極のデザイン、https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/ee/d5ee02644j)として発表された。

 

磁石でリチウムイオンの移動を制御

キム・ウォンべ教授の最初の着想は実にシンプルなものだった。「磁石が鉄の粉末を整列させることができるのだから、リチウムイオンも整列させることができるのではないか」というものだ。

リチウムイオンの負極に磁石を適切に配置すると、これまでバラバラに移動していたリチウムイオンが磁力の影響で整列して動くようになる。いわば、イオンの道ができ、交通整理が行われるようになり、充電速度が速くなり、短い時間で充電が完了するようになる。

 

デンドライトも生じなくなる

しかも、この磁石は、問題のデンドライトも防げることがわかった。デンドライトはリチウムイオンの濃度の濃淡によりできてしまう。イオンが集中するところで結晶化が起こり、トゲのようになる。するとトゲの先端はリチウムイオンが集まりやすくなり、さらに結晶が成長していくことになる。

ところが、ここを磁界で制御すると、リチウムイオンの濃淡がなくなり、結晶化は起こるものの、均一に起こり、いわば絨毯のように積み重なっていく。負極の働きを阻害するため、バッテリーの劣化は起こるものの、デンドライトが成長してセパレーターを破ってしまうことは起こらない。つまり、発火する危険性を大きく減らすことができる。

▲研究チームは磁石を取り付けることで、デンドライトの問題を解決した。磁力により、金属リチウムの析出が枝状にならず、絨毯のようになる。これでセパレーターを突き破ることがなくなる。

 

容量も10倍に高められる可能性

さらに、バッテリーの容量も従来の10倍に高められる可能性が生まれている。現在のリチウムイオンバッテリーの負極にはグラファイト(炭素)が使われている。このグラファイトは網目構造をしており、この網目の間にリチウムイオンが格納される。コインロッカーのような具合になっている。ところが、このグラファイトが重くてかさばるため、負極の大きさがバッテリーの容量を制限していることになっている。

磁力によりデンドライトが発生しないというのであれば、このグラファイトの入れ物を捨てて、金属リチウムそのものを負極材料に使うことができる。こうすると、バッテリーの理論容量は、グラファイトの372mAh/gから3960mAh/gに大幅に増大する。

 

すでに容量4倍で安定して動作している

キム・ウォンべ教授の論文中の実験でも、電池容量は従来の4倍となり、充放電を300サイクル行った後でも安定していると報告されている。浦項工科大学では、すでに韓国の2社のバッテリー製造企業と協力提携を結んでおり、量産に入るための準備を進めている。もちろん、本格量産に入るためには課題は多く、製品化されるのは最短でも数年はかかると見られるが、成功すればその頃に登場する全固体電池の強力なライバルになる可能性がある。それどころか、固体電池の存在意義そのものを打ち消してしまう突破技術になる可能性もある。さまざまな業界が、この研究に注目している。

 

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