現在のEVの多くにリン酸鉄系のリチウム電池が使われている。エネルギー密度が低いことから、いずれ密度の高い三元系によって淘汰されると見られていたが、8割を占めると盛り返している。それには4つの大きな理由があるからだと大力財経が報じた。
盛り返すリン酸鉄系リチウム電池
電気自動車(BEV=Battery Electric Vehicle)に使われているリチウム電池は、リン酸鉄系(LFP=Lithium Iron Phosphate)と三元系(NMC=Lithium Nickel Manganese Cobalt Oxide)の2種類が主に使われている。
航続距離を伸ばすのに重要な特性であるエネルギー密度の点では、三元系が勝っているために、以前は最終的に三元系がBEVの電池の標準になると思われていた。しかし、2024年に中国で販売されたBEVの80%はリン酸鉄系であり、三元系はわずか19%でしかない。この2年ほどで、古く、淘汰されるとまで見られたリン酸鉄系が盛り返し、主流になってきている。むしろ、三元系の方が淘汰されかねない状況になっている。
世界市場では60%が三元系と優勢だが、じわじわとリン酸鉄系が伸びている状況だ。

低コストのリン酸鉄系、長距離の三元系
例えば、テスラはリン酸鉄系と三元系をうまく使い分けている。Model YやModel 3などのエントリーモデルには低コストのリン酸鉄系を採用し、長距離モデルには三元系を採用している。

リン酸鉄系が盛り返してきた理由
中国でもエントリー車種にリン酸鉄系、長距離モデルに三元系を使うというのが常識だったが、ここ数年で、リン酸鉄系が勢力を伸ばしている。その理由は4つある。
1)エネルギー密度が追いついてきた。
リン酸鉄系のエネルギー密度は、以前は約90~160Wh/kg程度であり、三元系の約150~275Wh/kgと比べると大きく見劣りがした。つまり、同じ航続距離を実現しようとすると、リン酸鉄系では大量の電池を搭載しなければならない。このため、三元系搭載車に比べて車体が重くなるという欠点があった。
しかし、BYDや寧徳時代(CATL)などの技術改良により、リン酸鉄系でも200Wh/kgを突破するようになってきている。もはや、三元系との大きな差はなくなり、コストの安いリン酸鉄系が選ばれるようになってきている。

2)コストが圧倒的に安い
リン酸鉄系のコストは各社平均で374.44元/Whだが、三元系は486.96元/Whになる。バッテリーのコストはBEV車両のコストの40%以上を占めるため、リン酸鉄系を採用することで、車両価格を安く抑えることができる。
中国ではBEVの熾烈な価格競争が行われているため、多くのメーカーがリン酸鉄系を採用するようになっている。
3)寿命が長い
BEVの場合は、各社とも満充電の80%までしか充電できなくなった場合に、バッテリーの寿命がきたとして交換を推奨している。80%を切るまでの完全充放電サイクルは、リン酸鉄系では3000回程度だが、三元系では1500回程度になる。
これは、週に3回完全充電をするとして計算すると、リン酸鉄系では19.2年、三元系では9.6年ということになる。多くのBEVメーカーが「8年以内に80%を切ったら無償交換」という保証をつけている。リン酸鉄系では、この保証交換をすることはまずないが、三元系では5%程度が無償交換をすることになる。このアフターケアのコストも大きい。

4)安全性が高い
メーカーが最も気にするのは発火事故だ。リン酸鉄系は発火点が高く、安全性に優れている。三元系も安全対策が進められ、急速充電アダプターを取りつけるなどの不正改造をしなければ、自然発火をすることはほぼなくなっている。
しかし、問題は衝突事故を起こした時に、衝撃でバッテリーが変形をし、発火するという事故だ。このような耐衝撃性に対してもさまざまな対策が進められているが、避けようのない発火が起きてしまう。
リン酸鉄系は衝撃を受けて破損が起きると、まずは白煙が噴出し、それから発火をする。この白煙が生じている時間に、乗員は脱出することができたり、救助作業を行うことができる。そのため、乗員に被害を与えることが少ない。
一方、三元系は破損が起きると、すぐに炎が噴出され、一瞬で火の海になる。このため、脱出や救助の余裕がなく、痛ましい事故になることがある。
メーカーとしては、発火事故だけならともかく、人の命が奪われる事故だけは絶対に避けたい。そのため、安全性の高いリン酸鉄系を採用するメーカーが増えている。
シリコン添加など新技術も登場
さらに、リチウム電池は、負極材料にシリコンを添加して、エネルギー密度や寿命を伸ばす技術が使われ始めている。現在は、スマートフォンのバッテリーに応用されている段階だが、いずれBEVのバッテリーに採用されることになる。
世間では、全固体電池が登場することでゲームチェンジが起きると思っている人が多いが、リン酸鉄系リチウム電池は、現在、性能がどんどん伸びている最中で、高コストの全固体電池ともじゅうぶんに戦える。全固体電池が登場をしても、しばらくの間はリン酸鉄系リチウム電池が広く使われることになる可能性がある。
