ECで商品を販売する販売業者が高い返品率に苦しめられている。特に、ライブコマースが広がってからは返品率が急上昇をしている。しかし、解決の糸口がなく、EC関係者にとって頭の痛い問題になっていると光子星球が報じた。
返品率60%超。限界を超える
淘宝網(タオバオ)などのECでの返品率が上昇をし、限界を越えようとしている。タオバオで女性用衣類を販売する淼淼さんは、光子星球の取材に応えた。
「2013年からタオバオで女性服の販売をしています。当時は返品率が15%を超えることはありませんでした。良質の商品をそろえている店舗であれば8%以下でした。しかし、今では女性服の返品率は40%から45%程度になり、ライブコマースでは60%を超えることもあります」。
返品は本来は消費者保護の仕組み
返品はECには必須の消費者保護の仕組みだ。商品の品質に問題があった場合、交換、返品などの仕組みがなければ消費者はECを利用をしてくれなくなる。また、衣類の場合、サイズが合わなかったという問題も避けられず、これも交換、返品の仕組みがないと消費者はECを利用してくれなくなる。
この2つの返品率に関しては、店舗側の努力により下げることができる。出荷前に品質のチェックをする、消費者にサイズが適切に判断できる情報を提供するなどにより、返品率を下げることができる。しかし、今起きている高い返品率は、店舗側の努力では制御できないものになっている。ここが、販売業者を悩ませている。
物流が進化して返品しやすくなった
なぜ、返品率は高まったのか。最大の理由は、宅配便の利便性が大きく向上したことだ。返品率の低かった10年前、ECの商品は購入後早くても1週間配達で、2週間という商品も珍しくなかった。しかし、現在は翌日配達は当たり前で、販売業者は半日配達、3時間配達などを宣伝文句のひとつとして競い合っている。
これにより、宅配便拠点も大きく増え、コンビニなどでも扱うようになった。以前は返品をしようとしたら、遠くの配送拠点までいかなければならなかったが、現在は近所の拠点やコンビニから簡単に返品ができるようになっている。手軽に返品できるから返品する人が増えている。
返品送料を無料化するEC
もうひとつは返品運賃保険の導入だ。返品をする場合の宅配便料金は消費者が負担をするのが原則だが、商品に問題があった場合の返品送料も消費者が負担をするのはおかしいという声があがり、販売業者が返品運賃保険を導入するようになった。全額とは限らないが、返品の場合の運賃を販売業者(の契約した保険会社)が負担をする仕組みだ。
これは消費者保護の仕組みだけではなく、販売業者のセールストークにもなっている。「私たちの店舗では返品運賃保険を導入しているので、気軽に商品を試してみてください」と、気に入らなかったら返品をしてもいいという前提で販売量を増やそうとしている。
この販売業者の競争は、さらに進み、「商品が偽物だった場合は価格の4倍を返金」「即時返金」「返品無料ピックアップ」「7日間理由を問わず返品可能」などが、タオバオ店舗の標準装備になっている。
ゲーム性を帯びるECでの買い物
このような施策が進み、ECの利用スタイルは、買い物からゲームに変わっている。服や靴のサイズなどは、画面からはよくわからないために、3サイズをまとめて買ってしまい、到着してから試着をして、不要な2つを返品するというのは、ごくあたりまえの購入テクニックとして誰もが利用をしている。
また、画面からは商品の質感などもわからないために、類似する同類の商品を複数購入し、到着してから自分の目で見て選び、不要なものを返品する。ECはオンライン小売店だけではなく、オンライン試着室の機能も持つようになっている。
返品を加速させるファッションブロガーの存在
さらに、返品を加速させているのが、ファッションブロガーの存在だ。SNSに「今日のコーデ」として、自撮り写真を投稿する女性たちは多い。彼女たちは、毎日違う服を着ているように見え、多くの読者から羨ましがられているが、実際はタオバオなどで服を購入し、それを着て写真を撮り、返品をしてしまう。販売業者にとってはただ乗りをされているようなもので困った存在だが、彼女たちが投稿をすることにより、商品が売れるために黙認をしてしまっている。
流通総額至上主義だったEC
さらに、ECプラットフォームが成長期には流通総額(GMV)至上主義だった。プラットフォームのGMVの成長率を高らかに公開し、いかに人気のあるECであるかを喧伝していた。そのため、販売業者に対してもGMVを増やすことが奨励をされ、高いGMVを示す販売業者には、検索順位やキャンペーンなどで優遇をする。そのため、返品率が高くなってもGMVを上げる施策を打たざるを得ない。
アリババは6年前から、財務報告書でもGMVの記載をやめている。11月11日の独身の日セールでもこれまではGMVの新記録更新を宣伝のひとつとして利用していたが、昨年2022年から独身の日セールでのGMV発表をやめている。現在のGMVは返品を含んだもので、実際の売上からは大きく水増しされているからだ。そのような数字を企業が公表することは、問題となるリスクがある。特に財務報告書に記載をすることは風説の流布など、投資家を惑わせる情報として受け取られる可能性があるため、多くのEC企業がGMVではなく、実際の収入や利益を記載するようになっている。
ライブコマースに広がる買わせるための騙しのテクニック
2012年の中国の宅配便年間取扱量は57億件だったが、2021年には1083億件となり、18倍に膨らんでいる。
しかし、宅配便件数は頭打ちにならず、今後も増えていくと見られる。そして、返品率もさらにあがることになると見られている。原因は、ライブコマースの普及だ。ライブコマースでは、短期間に販売数をあげる心理的テクニックが急速に普及をした。
例えば、飢餓マーケティングと呼ばれる手法は、「この後、30秒間だけ大幅割引する」と言って商品の説明をする。そして、唐突に「割引率はなんと60%オフ!」と割引率を明らかにし、間髪を入れず「3、2、1」とカウントダウンし、60%オフで買える30秒間が始まる。買うかどうか迷っている消費者まで、得をするというよりも、買わないと損をするという心理になって購入してしまう。
また、割引率を誤解させる手法もどこでも見られる。通常価格が750元であれば、同じ750元で販売する代わりに、大量のノーブランドのセット品をおまけにつける。このノーブランド商品はネットで調べても通常価格がはっきりしない。それを、「通常500元の商品を無料でおつけします!」と言って、セットの価格での割引率を提示する。750+500=1250元のセットが、750元になるので40%オフという割引率を表示する。しかし、おまけのノーブランド品の価格500元そのものが水増しされたもので、実際の割引率はもっと低い。
さらに、焦らしと呼ばれるテクニックも広く使われる。今日はどのような商品を紹介するか、どのくらいの大型割引があるかという曖昧な情報だけを延々と伝え、なかなか購入可能な商品タグが画面に現れない。引っ張るだけ引っ張って、消費者が焦れてきた瞬間にようやく商品タグを表示して購入可能にする。
また、やらせ購入も一般化している。ライブコマースでは購入数がリアルタイムで表示される。この数値を捏造することはさすがにプラットフォームからアカウント剥奪の処分を受けることになる。そこで、協力業者に依頼をして、偽の大量注文を入れる。これで購入するカウンターが急上昇をすることになる。それにつられて、買ってしまう消費者がいる。出荷までしないと、偽の注文がプラットフォームに発覚をしてしまうため、偽の注文を入れた業者はいったん商品を受け取って、それからすべて返品をする。
このようなテクニックを駆使するのはジュエリー関係のライブコマースが多く、返品率が90%を超えるケースもあるという。
このような心理的な手法で買ってしまった消費者は、商品が到着してから我に帰り、返品をすることが多くなる。
解決の糸口が見えない返品率問題
高い返品率は、「誰が悪いのか?」と特定することが難しい問題になっている。販売業者は、消費者を保護しながら売上を上げることを追求しただけであり、消費者は利便性を追求しただけのことだ。
米アマゾンは、返品率の高い商品については、商品ページに「高返品率」という表示をつける施策を打ち出し、中国でも注目されているが、関係者は効果は薄いのではないかと見ている。もし、タオバオが同様の施策を行なったら、販売業者は委託業者に大量購入させ、その委託業者からその商品を再仕入れして還流させるだけだと見ている。販売業者は生き残るのに必死で、あの手この手を使ってくる。返品率問題は、解決の糸口が見つからない問題として、EC業界に重くのしかかっている。