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ECが採用する「返金のみ」制度の波紋。販売業者は団結をし、怒りを表明

ECが採用する「返金のみ」制度が波紋を呼んでいる。商品に問題があった場合、返金だけをして商品の返送は不要という消費者に都合のいい制度だが、その適用基準が明確でないために、商品を騙し取られたという販売業者が相次ぎ、団結をして実力行使に出る業者もいると鳳凰網が報じた。

 

消費者にはありがたい「返金のみ」制度

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が始めた「返金のみ」ポリシーが、淘宝網タオバオ)や「京東」(ジンドン)など他のECにも広がっている。

中国ではECで購入したものは、法律により「7日間無理由返品」が保障されている。現物を見て購入しているわけではないので、現物を見てから7日以内であれば理由を問わず返品ができるというルールだ(ただし、食品などの劣化するもの、DVDなどのコピーできるものは除外される)。

また、「商品に欠陥がある」「広告内容と商品が違っている」などの場合は、7日間を超えても返品できるようにしているECがほとんどだ。その他の返品の場合は、販売業者との交渉になるが、販売業者が返品に応じない場合、その旨を拼多多運営に連絡をすると、内容に応じて「返金のみ」が適用される。これは「返金だけをして」「商品は返送不要で消費者に処分をしてもらう」という方法だ。

返品をする場合、返品の宅配料金は販売業者が負担をしなければならない。単価の安い商品の場合、返品をしてもらい再梱包をして販売するよりも、そのまま消費者に処分してもらった方が、販売業者の負担は小さくなる。

この「返金のみ」ポリシーを導入することにより、販売業者は商品に欠陥が起こらないように出荷前検査を丁寧にするようになり、表示する広告内容にも気を配るようになる。拼多多運営は、消費者保護をすることにより消費を拡大し、同時に販売業者の質の向上をねらっている。

 

販売業者にとっては踏んだり蹴ったりの制度

しかし、販売業者にとってみればたまったものではないというのが本音だ。わずかな落ち度によって、商品は取られ、お金は入ってこない。返金のみを悪用する消費者が増えたら、商品を販売するのではなく、商品をタダで配っていることになる。

一応、この「返金のみ」ポリシーを悪用して商品を騙し取ろうとする消費者は、アカウントが凍結されたり停止されたりすることになっている。しかし、販売業者によると、そのような処置をされる例はきわめて少なく、悪用をする消費者が増えているという。このような「返金のみ」ポリシーを利用して商品を騙し取ろうとする消費者は「白嫖党」(バイピャオダン)と呼ばれる。嫖とは色街での行為を指す、かなりきつい言葉だ。白は「タダで」を表す言葉。

▲ウェイボーでも、返金のみに反対するハッシュタグの投稿の閲覧数が1700万回を超える状況になっている。

 

直接商品を取り戻しに行った出品業者

あるマンションに、メガホンであることを訴えながら歩く人が現れた。「このマンションに住んでいる曹某という人を知っている人はいませんか?彼は私の店で買い物をしたがお金を払っていません。連絡にも応じてくれません」。

マンションの住人がなにごとかと驚いて事情を聞くと、この訴えをしている劉暁平さんはECに出店をしているが、このマンションの曹某という人間がサングラスを購入し、2週間後に商品に問題があるという理由で「返金のみ」を申請した。劉暁平さんは驚いて、連絡を取り、高価な商品なので返品に応じるから商品を返送してほしいと頼んだが、応じてもらえず、連絡が取れなくなった。運営は販売業者と消費者の間でトラブルになっていると判断をし、「返金のみ」を適用した。劉暁平さんは、商品を騙し取られたような気分で、許せないと感じ、このような行為が広がっては商売を続けていけないと感じた。しかし、販売業者には購入者の氏名と住所のマンション名までしか告知されない。しかたなく、そのマンションにやってきて、今回の行為に及んだのだという。

▲販売業者に団結をするように呼びかけている雨夜屠夫さん。

 

プラットフォームの雑な判定が販売業者を怒らせている

劉暁平さんはこの顛末と、「返金のみ」ポリシーがいかに不公正なものであるかをSNSで訴えた。すぐにいいねの数が1.6万を超えた。ほとんどがECに出品する販売業者からのもので、プラットフォーム運営を訴え、この不合理な仕組みをやめさせると訴える劉暁平さんに10万元の訴訟費用が集まった。

多くの販売業者が「返金のみ」の被害を受けていた。その原因になっているのが、プラットフォームの雑な判定だ。ある犬のシャンプーの販売業者は、販売後3ヶ月経ち、シャンプーがほぼ使い切られた状態で返品を申請された。理由は「匂いが好きではない」というものだった。その非常識な返品を断ると、購入者は「返金のみ」を申請し、すぐに認められた。

ある衣類販売業者が受けた「返金のみ」の理由は奇怪なものだった。「衣類が有毒ガスを放出したため、会社の同僚3名が中毒になり倒れた」という返品理由だった。そのような事実があるのかどうかは確認されず、これもプラットフォームにより「返金のみ」が認められた。

つまり、プラットフォームは、申請された「返金のみ」をほぼ消費者の言うとおりに認めてしまっているようなのだ。これはもはやECではなく「0元ショッピング」ではないかという怒りが販売業者の間には渦巻いている。

▲販売業者を怒らせたある消費者の返品理由。「ECで買い物をするのにお金が必要だとは思わなかったから」というふざけているのか、本気なのかわからない理由で返金を要求している。

 

拼多多は制度の適用を厳格化

劉暁平さんは、販売業者の支援を受け、拼多多を訴えたが敗訴をしてしまった。拼多多の「返金のみ」ポリシーは公正なものとして認められたのだ。しかし、同時に拼多多は「返金のみ」の審査を厳格化することを発表した。現在では、あまりにも非常識な「返金のみ」の申請には応じなくなり、複数の業者から悪意のある「返金のみ」を利用したという苦情が寄せられた消費者は、一定期間「返金のみ」の申請ができないようになった。

少しずつ正常化している「返金のみ」だが、販売業者たちの戦いはまだ続いている。