2024年4月、新車販売に占める新エネルギー車(NEV)の販売台数割合が50%を超えるという局面を迎えた。自動車の主流が燃料車からNEVに移ったということだ。しかし、それは大量のバッテリーを保有するということであり、今後、リサイクル能力が大きな課題になると知識TNTが報じた。
新車販売に占めるNEV販売台数が50%超え
乗用車市場情報聯席会(乗聯会、CPCA)が発表した4月1日から14日までの自動車市場データによると、乗用車全体に占める新エネルギー車(NEV)の販売台数の割合が50.39%となり、50%を超えた。
この50%突破は、乗用車の主流がNEVになったということで大きな意味を持つ。中国政府は2014年からNEV促進政策をスタートさせたが、目標は「2025年に新車販売のNEV率が20%超」というものだった。しかし、2020年以降の急速なNEVの普及により、中間目標よりも1年早く、なおかつ目標を大きく上回る成果を出すことができた。さらに、3月に開催された中国電動汽車百人会フォーラムの席上で、BYDの王伝福会長が、中国自動車市場の構造が大きく変わり、3か月以内に50%を突破する局面がやってくる可能性があると発言した。その発言からわずか半月後に実際に50%を超えることになった。
このデータは半月のものであり、月次データでは、今後も50%を50%前後を推移していくことになるが、次第に上昇していくと見られる。なぜなら、50%は後戻りをしないティッピングポイントだと業界では考えられており、以降は、NEV割合は増えていく一方になると見られているからだ。
NEVが人気になった3つの理由
NEVがシェアを伸ばしている理由は3つあると考えられている。
1)BEV(Battery EV、電気自動車)の人気:無数のEVメーカーが登場をし、淘汰整理を経ながら、品質の高いEVを市場に提供できるようになってきた。特に居住空間の充実ぶりと、NOA(Navigation On Autopilot)などの都市内自動運転が人気となり、製品として燃料車との差別化が明確になった。
2)プラグインハイブリット(PHEV)の普及:EVが普及をするには充電ステーションの充実が不可欠だが、その整備が進まず、都市間走行が多い地方都市ではなかなかBEVに手を出すことが難しかった。しかし、2020年以降、PHEVにも高品質の車種が多数登場することにより、地方都市やミニバンのカテゴリーでPHEVが人気になっている。
3)買い替え需要:中国のNEV促進策は2014年から始まっており、8年目になる。初期にEVを購入した人はバッテリー寿命を迎えることになり、EVの買換え需要が始まっている。NEVの販売はほぼ一巡をし、今後はこの買換え需要により成長をしていくと見られている。
最大で2億トンのバッテリーを使う中国
その一方、このNEV市場の成長が新たな難題を生み出している。廃棄バッテリーの問題だ。
市販のNEVのバッテリーは350kgから600kg程度になる。これを中間値である475kgとして、さらに、現在の自動車保有台数4.35億台がすべてEVになったとすると、バッテリー総量は2.06億トンになる。つまり、中国は最大で2.06億トンのバッテリーを保有する可能性がある。
スマートフォンに入っているわずか20gのバッテリーであっても、ニッケル、コバルト、マンガンなどの金属を含み、不適切に放置をされた場合、わずか1個で1平方kmの土地を50年間汚染する。2.06億トンものバッテリーが不適切に処理をされたとしたら、中国は人が住めない国になってしまう。
NEV使われる2種類のリチウムイオンバッテリー
EVに使われているリチウムイオンバッテリーには、使われている素材によって「リン酸鉄系」と「三元系」がある。リン酸鉄系は安全性が高く、低コストだが、エネルギー密度が低い。一方、三元系は、エネルギー密度が高く寿命も長いが、コストが高い。このため、2020年まではEVには性能の高い三元系がもっぱら使われてきた。
しかし、2020年3月にBYDが技術的な突破をする。刀片電池(ブレードバッテリー)だ。ブレードバッテリーは、古い技術である「リン酸鉄系」をベースにしながら、安全性と低コストはそのままに、エネルギー密度と長寿命を高めることに成功をした。BYDのNEVはブレードバッテリーを採用し、販売シェアが高いため、2022年には「リン酸鉄系」が62%、「三元系」が37%という逆転をすることに成功した。
これにより、EVの価格は安くなり、航続距離などの性能も大きく伸び、EVを購入する人が急増をした。
退役バッテリーには他の用途がある
一般的なリチウムイオンバッテリーの寿命は5年から8年、ブレードバッテリーでも8年から10年で、充電容量が80%を切ると、交換をしなければならなくなる。
この退役したバッテリーは2つの方法で処理をされる。リユースとリサイクルだ。退役したバッテリーは充電容量が80%を切り、自動車のバッテリーとしては使い勝手が悪くなる。しかし、他の産業では充電容量が40%以上あれば利用できるシーンがいろいろある。このような余剰価値を利用するのがリユースだ。
現在の10倍のリサイクル能力が求められる
一方、分解して、マンガン、リチウム、コバルト、ニッケルなどの金属を取り出し、新たなバッテリー生産の原料とするのがリサイクルになる。
2023年、中国の認定リサイクル業者156社は、「リン酸鉄系」36.3万トン、「三元系」24.9万トンを回収した。合計で61.2万トンになる。
認定リサイクル業社の処理能力は現在合計で379.3万トンであり、そのうちリユース能力は157万トン、リサイクル能力は222.3万トンある。そのため、まだまだ大きな余裕がある。
しかし、先ほど計算した最大保有量2.06億トンが10年で退役してくると仮定すると、毎年2000万トンのバッテリーが廃棄されることになる。これは現在の処理能力を大きく超えている。
リサイクル体制を整えることが課題になっている
つまり、NEVが普及をするのはいいことだが、50%のティッピングポイントを超えて、さらに上昇をしていくと、リサイクル能力の向上を上回ってしまう可能性があるのだ。リサイクルシステムの処理能力を超えると、そこに違法な業者が入り込むことになり、いい加減な再生バッテリーが市場に出回ることになる。すると、すぐに寿命を迎えてしまう低品質バッテリーが搭載されたり、発火事故を起こすような欠陥バッテリーが搭載されることになり、EVは消費者の信頼を失い、燃料車への回帰すら起こりかねない。
バッテリーのリサイクル能力の向上が、環境だけでなく、NEV市場の成長にとっても重要になってきている。