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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

米国の制裁により、中国半導体企業が急成長。注目される夫婦経営の半導体企業「微源半導体」

米国がファーウェイ、ZTEなどの企業に半導体を納品する企業に対して、米国の製造装置やソフトウェアを使わせないという方法で、半導体兵糧攻めが行われている。これにより、中国の半導体企業が急成長をしている。その中でも注目されているのが、夫婦で起業したパパママ半導体企業、微源半導体だと投中網が報じた。

 

5G対応半導体が入手できなくなったファーウェイ

中国の半導体産業が急成長をしている。その最大の要因は、米国による半導体製造への制裁だ。華為(ホワウェイ、ファーウェイ)などの指定企業に半導体を納入する企業は、米国製の製造装置、ソフトウェアを提供しない(厳密には輸出の許可制)という形で、兵糧攻めにしている。このため、ファーウェイは、5G対応チップを入手できず、5Gスマートフォンを製造できなくなってしまった。

これにより、ファーウェイは、スマホ出荷統計から消えた。調査会社Counterpointの統計では、シェア5%以下のブランドは「その他」に含めて表示するため、それまでトップ争いをしていたファーウェイが5%以下のシェアとなってしまった。

▲世界市場のスマートフォン出荷シェア。アップル、サムスンと激しい1位争いをしていたファーウェイは、2021年Q1を最後に統計から消えた。

▲中国市場のスマートフォン出荷シェア。圧倒的な1位だったファーウェイは2020年半ばからシェアを急落させ、2021年Q2を最後に統計から消えた。

 

夫婦経営の半導体企業が上場へ

これにより中国では半導体の国内生産の流れが生まれた。製造装置、ソフトウェアを自主開発をして、米国の制裁を受けない半導体製造体制をつくろうというものだ。多くの国内系ベンチャーキャピタルは、この流れに乗り、半導体関連企業に大規模な投資を始めている。これにより、半導体企業が急速に成長をしている。

その中でも注目をされているのが、深圳市の微源半導体(ウェイユエン、Lowpower Semiconductor)だ。この微源の株式の大半を保有しているのは、創業者夫婦であり、ユニコーン企業でありながら近所の商店のような「パパママショップ」であることが話題になっている。すでに上海科創板に上場を申請している。

▲微源半導体は、半導体投資連盟が主催するチャイナICトップアワードで、年度ICユニコーン賞を受賞した。左が、創業者の戴興科。

 

夫婦で株式の80%をもつパパママ半導体企業

この微源が創業をしたのは2010年6月。創業者の戴興科が45万元、妻の兄が5万元を出資した。

現在は、戴興科と妻の劉青華の夫婦が46.02%の株式を保有し、さらに個人投資会社を経由して23.42%の株式を保有している。さらに妻の劉青華が個人で6.42%、投資会社経由で3.75%を保有し、結局、夫婦で79.62%の株式を保有している。つまり、上場企業でありながら、夫婦商店=パパママショップになることになる。

 

アナログ半導体が海外から国内へ急シフト

微源が注目される理由は、その利益率の高さだ。2021年度は全体で56.26%という高い利益率になっている。

微源が特化をしているのは、アナログ半導体と呼ばれるもので、特に電源管理チップ、バッテリー管理チップが強く、2021年のバッテリー管理チップの利益率は64.39%にもなっている。

中国のバッテリー管理チップの需要は強かったが、それまで生産をできる企業がなかったため、90%以上が輸入製品に頼っていた。そこに微源が登場し、さらには国産志向が生まれため、一気にシェアを獲得することになった。電源管理チップの領域では、微源だけでなく「韋爾」「芯朋微」「聖邦」「晶豊」「貝嶺」「思瑞浦」などの半導体企業が軒並み大幅成長をしている。

微源は電源管理チップを中心に、LSI、アンプIC、LED駆動チップなどを設計し、通信、PC、ウェアラブル(イヤホンなど)、IoTデバイスなどのメーカーにチップを供給している。主要な納入先は、アマゾン、ファーウェイ、サムスン、シャオミ、TCL、ソニーなどだ。

▲微源半導体の営業収入と利益ともにこの3年は急成長をしている。

▲微源半導体で注目されるのはその利益率の高さ。今後、アナログ半導体は厳しい価格競争にさらされると見られているが、現時点でのこの利益率の高さは、価格競争でも大きな余裕をもたらすことになる。

 

スマホ減速ですでに半導体余りの状況へ

台湾の積体電路(TSMC)が製造しているような最先端のSoC(スマートフォンやPCの頭脳)を製造するには、技術力だけでなく、蓄積されたノウハウが必要になるため、中国の半導体業界が最先端領域に進出するにはまだまだ時間がかかる。しかし、製造のハードルが低いアナログ半導体や旧世代プロセスの分野では国産化が進み、急成長をしている。投資資金も集まり、投資家の間では「ベトナムか、半導体か」と言われるほどになっている。

コロナ禍の影響で、スマホやPCの売れ行きが鈍り始めている。2021Q1の中国のスマホ出荷量は8340台で、前年同時期から11%も下落をした。各メーカーは2022年の出荷計画を10%から20%ほど下方修正をしている。このため、すでに半導体の過剰供給感が生まれてきている。

これにより、微源の今後は決してバラ色ではなく、価格競争という厳しい局面に直面すると見られている。しかし、その時、基礎体力として重要になるのが56.26%という高い利益率だ。微源は、この高い利益率を維持することは難しいと見られているが、この余力を削りながら、価格競争を生き抜いていくと期待されている。