中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

イベントの定番となったドローンショー。上位4社が90%のイベントを担当

都市イベントではドローンショーが定番となってきた。花火の時間と予算を減らしてドローンショーにあてるイベントが増えている。ドローンショーでは図案やメッセージを描くことができるからだと中国新聞週刊が報じた。

 

ドローンショーの依頼が急増中

中国のイベントでは、花火の代わりにドローンショーが定番になってきている。編隊ドローンの開発やイベント運営を行なっている「深圳大漠大智控技術」(ダーモーダー、https://www.dmduav.com/)の覃海群副総経理中国新聞の取材に応えた。「5月の連休以来、ほぼ毎日ショーが入っています。需要に追いつけない状態が続いています」。すべてのスタッフが出払っている状態で、予約をするには少なくとも1ヶ月前でなければスケジュールを抑えることができず、すでに2024年の予約もかなり埋まっているという。

同じくドローンショーの運営をしている「一飛智控」(イーフェイ、https://www.efy-tech.com/)によると、昨年の10月1日の国慶節の連休では、20省30都市で100回以上のドローンショーを行ったという。

一飛の創業者であり天津大学ロボット自動システム研究所副所長の斉俊桐氏が、中国新聞の取材に応えた。「新疆ウイグル地区でドローンショーを行ったチームは、1ヶ月余りの間、帰ってこれなくなりました」。そのチームは9月に新疆ウイグル自治区のある市からの依頼で、ドローンショーを行った。そのショーが新疆ウイグル地区で大きな評判となり、別の市からの依頼が殺到した。「ほぼ毎日、ショーが行われ、チームはまるでサーカスのように巡演をしました」。

▲2023年9月27日に香港市で行われたドローンショー。夜空にフェルメール真珠の耳飾りの少女を描き出すというものだった。

 

花火の代わりに定番化をしたドローンショー

中国の都市では、都市イベントが盛んで、高層ビルの灯りを利用したライトショー、ライトアップ、プロジェクションマッピングなどが高頻度に行われている。その中でも、大観衆が同時に楽しめるということから花火の人気が高かった。

花火も人気は高いが、ドローンショーでは具体的なコンテンツを描くことができる。文字を描くことも、キャラクターを描くこともできる。ここから、花火の時間を減らしてドローンショーを組み込むこところが増えてきた。

また、ドローンショーは電力だけで行うことができ、カーボンニュートラルという観点からも積極的に利用されるようになっている。

▲2018年4月18日に西安市で行われたドローンショー。当時は、1000機のドローンを編隊飛行させるというだけのシンプルなものだった。

 

提供企業も増え、価格も7年前の1/10に

ドローンショーを行う企業も急増をしている。先ほど触れた「大漠大」「一飛」の他には「深圳高巨創新」(ガオジュー、https://www.hg-fly.com/)、「広州億航智能」(イーハン、https://www.ehang.com/cn/)が、ドローンショーの「四匹の龍」と呼ばれている。この4社で、国内ドローンショーの9割以上を占めているという。

競争が激しくなるとともに価格も下がり始めている。現在、4つの龍の企業では、高度の安全対策をとることもあり、数十分のショーで、1台あたり700元から800元の価格で、1000台のドローンショーでは80万元(約1600万円)の費用がかかる。これでも7年前の価格の1/10になっている。さらに、格安で競争する企業も登場していて、そのような企業だと1台あたり100元から200元の価格で請け負うところもある。

▲2023年10月4日に湖北省襄陽市で行われたドローンショー。1500機のドローンが夜空に龍を描いた。

 

携帯電話ネットワークが利用できないドローンショー

しかし、ドローンショーが珍しくなくなって日常的になってくると、ドローンショーはより複雑なコンテンツを描き、より大量のドローンを使う競争を始めており、技術的な難易度も指数関数的に難しくなっている。

ドローンショーの最大の難関は、通信に通常の携帯電話ネットワークを利用できないことだ。理論上は、5G通信でじゅうぶんなのだが、ドローンショーには大勢の観客が集まり、写真を撮り、SNSにあげたりする。観客が携帯電話ネットワークを利用するために、帯域が不足をして、想定外のことが起こりかねないからだ。そのため、通常の通信やWi-Fiなどで使われる周波数とは別の周波数で独自の通信ネットワークを構築する必要がある。また、公演前に現地の電磁波環境、測位衛星の信号強度などの調査も欠かせない。

▲2023年10月23日に深圳市で行われたドローンショー。ドローンがドローンを描くというユニークなショー。

 

事故も増加、事前申請手続きも複雑化

それでも事故は起きる。昨年2023年8月11日、広東省東莞市の香市動物園で開催されたドローンショーで、100台近いドローンが突然制御を失って墜落するという事故が起きた。香市動物園では、航空管制の一時的な制限を受けたためと説明しているが、明らかな事故だった。負傷者が出なかったのが幸いだ。

また、個人で夜間や公共の場所で、違法にドローンを飛行させる例は後を絶たず、ドローンがビルに衝突をする事故も起きているため、各都市ではドローンに対する規制を強めている。

このため、ドローンショー運営会社では、公演を開催する前に、大量の飛行申請書を書き、折衝をしなければならず、この事前準備も大きな負担になり始めている。

 

それでも増えるドローンショーへの需要

このようなドローンショーの安全対策、地方政府との事前調整は、試行錯誤をしながらでしかノウハウを蓄積していくことができない。そのため、新参入企業に対する参入障壁にもなっている。このため、大規模ドローンショーになると、請け負えるのは4つの龍の4社にほぼ限定をされてしまう。

しかし、それでもドローンショーの需要は増えるばかりで、大都市から地方都市へ、地方都市から農村へと広がり始めている。しばらくの間は、花火とドローンショーが屋外イベントの定番という時代が続きそうだ。